日本の反原発運動:高まる熱気
Japan's anti-nuclear protests : The heat rises
英国エコノミスト誌 2012年7月21日号より
「整然とした街・東京(a bottoned-up city, Tokyo)」
普段の東京は、特徴のないサラリーマンたち(identikit salarymen)の通勤する、じつに整然とした街(a bottoned-up city)です。その点、アラブの春でみられたエジプトのタハリール広場やリビアとは、わけが違います。
「露わになった怒り(got visibly angry)」
ところが、放射能事故後の原発再稼働がなされるや、日本人の導火線(a fuse)には火がついてしまったようです。
多くの市民がこれほどの怒りを露わにするのは、じつに50年ぶり、ベトナム戦争以来だとも言われています。
「『さよなら原発』集会("Sayonara Nukes" rally)」
気温が30℃を軽く超える猛暑をものともせずに、東京都心に集った人々は7万人とも(警察発表)、17万人とも(主催者発表)。いずれの数字にせよ、ここ数十年では最大規模の抗議集会です。
「1960〜70年代の名残り(the ramnants of the 1960s and 1970s)」
その大規模集会には、かつてベトナム戦争に猛烈抗議したであろう中高年たちが大勢参加していました。衰えていた筋金入りのリベラル派(diehard liberals)が、ホコリをかぶっていた拡声器(bullhorns)を引っ張り出してきたのです。
すでに77歳となった大江健三郎氏(ノーベル文学賞)もステージ上で熱弁をふるっていました。
「回顧的な価値以上(more than nostalgic value)」
今回の集会は、リベラル派や中高年たちばかりのものではありません。かなりの数にのぼる普通の家族(ordinary families)も参加していました。その結果、750万人もの署名が集まったのです。
Source: economist.com via Hideyuki on Pinterest
「世界中の大地震の2割が起こる国(a country with one-fifth of the world's strong earthquakes)」
その地震の国・日本には54基もの商用原子炉(commercial reactors)があります。そして、福島で起きた放射能事故は、世界一密集した大都市・東京の首元に、あわやの大惨事(catastrophe)を突きつけたのです。
「なぜ、そんなに事を急ぐのか(why are they in such a rush?)」
福島の放射能(the radiation)は、いまだ私たちに害を及ぼし続けています。そして、自然災害を軽んじた規制の仕組み(a regulatory structure)にも問題が残ったままです。
そんな中途半端な状況での原発再稼働。「なぜ、そんなに事を急ぐのか?(why are they in such a rush?)」。それは素朴にして直球の疑問です。
「理由の一つはお金(one reason is money)」
国内の全原発が停止してから、日本の燃料輸入(石油・天然ガス)は一日当たり80億円以上も増大し、日本は30年ぶりの貿易赤字(trade deficit)を計上することとなってしまいました。
「選択の余地はない(no choice)」
野田首相に言わせれば、原発再稼働は選択の余地のないものです(no choice)。
原発の夢(the nuclear dream)の終わりは、これまでの巨額の設備投資を無駄にし、日本が世界的なリーダーとなっている原子力産業からの撤退を意味するのです。
「読売新聞と経団連(Yomiuri and Keidanren)」
日本最大の新聞社「読売新聞」、そして日本最強の経済団体「経団連」。この2強の発する警告は、「原発のない日本の将来は悲惨なものになる(dire predictions about Japan's future without reactors)」というものです。
一部の人々は、今まで原発を推進してきた日本株式会社(Japan Inc)の屋台骨である読売新聞と経団連を疑ってかかり、野田首相がすっかり丸め込まれてしまったと嘆いています。
「反原発路線(an anti-nuclear line)」
政府与党の民主党は原発を巡って、2つに割れました。古強者(old warhouse)の小沢一郎氏が反原発路線(an anti-nuclear line)へ向かって走り去っていったのです(その新党に対する国民の関心は予想よりも低いものでしたが…)。
「毎週金曜の夜(every friday night)」
毎週金曜の夜に行われる首相官邸でのデモは、すっかりお馴染みのものとなりました。幸いなことに、今のところデモ参加者たちの行動は、じつに行儀の良いものです(mostly good-natured)。
しかし、彼らのその温厚な態度はいつまで続くのでしょうか(But for how long?)。
子どもたちに伝えたい――
原発が許されない理由
英語原文:
Japan's anti-nuclear protests: The heat rises | The Economist