2012年08月30日

フィンランド、冷静と情熱のあいだで…。


ユーロ危機:焦点となるフィンランド
The euro crisis : The Finn red line

英国エコノミスト誌 2012年8月25日号より



「無風状態(doldrums)」

「8月らしい8月」と言われた今年の8月(August)。休暇のシーズンらしく、近年には珍しく静かな8月でした。去年・一昨年とユーロ危機でバタバタしていたユーロ圏でさえ、この8月は無風状態(doldrums)でした。

その一因は、ECB(欧州中央銀行)の総裁、マリオ・ドラギ氏が、「ユーロを守るためには、必要なことは何でも(whatever it takes)やる」と豪語したことにもありました。彼は「私を信じてくれ(believe me)」とまで熱く語ったのです。



「さらなる小康状態(an extended lull)」

休暇もそろそろ開けようとする今日この頃、この小康状態(lull)がさらに続くとは思わない方が賢明かもしれません。

借金返済の時間的猶予(more time)を求めているギリシャは、次回分の救済(next tranche)が実行されるかどうかは、まだ承認されていませんし、イタリアとスペインで危機的水準にあった国債利回りが、再び燃え上がるかもしれません(ドラギ総裁の熱弁により、一時的に沈静化はしていますが…)。



「緊縮志向(austerity-minded)」

ドイツを始めとした倹約的な北方の国々は、南方のギリシャ・イタリア・スペインなどがビーチで遊ぶように浪費することを快く思っていません。

ドイツは断固としてギリシャへのさらなる救済を拒んでいるようにも見えますし、イタリアやギリシャの国債をECB(欧州中央銀行)が買い支えることに反対しています。



「借金の肩代わり(to shoulder the debts)」

倹約的な北方のフィンランドも、その思いはドイツと同じです。自分たちがコツコツ貯めてきたお金を、遊び上手の国々に消費されることに怒っているのです。

「他国の借金の肩代わり(to shoulder)はゴメンだ」と公言したフィンランドの財務相。他人の借金を背負うくらいならば、ユーロを離脱するくらいの気迫を見せています。





「グリグジットか、フィグジットか(Grexit or Fixit)」

グリグジット(Grexit)とは、ギリシャがユーロを離脱(exit)すること、一方のフィグジット(Fixit)はフィンランドがそうすること。

ギリシャ離脱は落ちこぼれのそれとなりますが、フィンランドの場合は、ユーロに愛想をつかして三行半(みくだりはん・離縁状)を叩きつけるようなものとなります。



「最も失うモノが大きく、最も得るモノが少ない(most to lose, least to gain)」

17あるユーロ圏諸国のうち、ユーロ救済によって、フィンランドほど失うモノが大きく、得るモノが少ない国はありません。

フィンランドの債務はGDP比のわずか53%、ユーロ圏諸国の中でも最優良の低さで、借り入れコストもドイツ並みの低さを誇っています。一方、ユーロ圏の債務を合計すれば、それはGDP比で90%を超えてしまうのです。



「高齢化(ageing population)」

フィンランドが借金を抑える地道な努力を続けてきたのは、国民の高齢化が、日本同様に急速に進んでいるからでもあります。これから稼ぎ手の力が弱まっていくのを見越して、できるだけ借金は避けてきたのです。

ところが、ここにきて他国の借金を肩代わりしなければならない可能性が高まってきました。しかも、フィンランドよりも高齢化が急速に進むイタリアのために…。



「ユーロ諸国との関係の薄さ(less integrated into the euro zone)」

幸いにもフィンランドは、問題のあるユーロ圏諸国に対する直接投資(direct exposure)は、ほとんど行っていません。これはドイツやフランスなどとは全く対照的です。そして、フィンランドのユーロ圏向けの輸出は、全体の31%という低さです。

つまり、フィンランドはユーロ圏の中でも、ユーロ依存の少ない国家の代表格ということです。



「ユーロ圏以外(outside the euro zone)」

フィンランドの依存する外国市場は、ロシアやスウェーデン、ノルウェーなど、ユーロ圏以外の国々です。

向かいのスウェーデンなどは、ユーロなしでもフィンランドより急速に経済を成長させています。これでは、フィンランドがユーロに対して疑いの目を向けるのも、無理はないでしょう。



「ロシア勢力圏(Russia's orbit)」

今のフィンランドは、ユーロに足を引っ張られているところもありますが、それでもユーロを離れる可能性はまだ低いと見られています。

フィンランドがもっと恐れるのは、歴史的に脅威を受け続けたロシア勢力圏(Rossia's orbit)へと組み戻されてしまうことです。ただでさえ現在でも、フィンランドの最大供給国(biggest supplier)はロシアなのです。



「大合意(grand bargain)」

傾いたユーロを立て直すための大合意(grand bargain)には、フィンランドが他国の借金を肩代わりすることになる債務の相互化(pooling debts)が含まれることになるかもしれません。

ロシアか? ユーロか? この二者択一のもとでは、フィンランドは迷いなくユーロを選ばざるをえないのです。



「怒れるフィンランド人(the furious Finns)」

冷静になれば、ユーロにとどまる決断はきっと賢明なのでしょう。たとえ、得るモノが少なく、他国の借金を背負ったとしても…。

しかしそれと感情は別問題。怒れるフィンランド人(the furious Finns)も、そこにはいるのです。「真のフィンランド人党(True Finn Party)」という極端な思想をかかげる政党は、その代弁者でもあります。

フィンランドがユーロの席を蹴るとき、それは理性が感情を抑えきれなくなった時かもしれません…。歴史はいつもいつも冷静とは限らないのです…。







英語原文:
The euro crisis: The Finn red line | The Economist

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2012年08月28日

尖閣から見えてくるもの。曖昧なこれまで、そして、これから…。


尖閣諸島:堂々めぐりの島、空転する愛国心
Barren rocks, barren nationalism

英国エコノミスト誌 2012年8月25日号より



「相次ぐ反日デモ(the wave of anti-Japanese protests)」

中国全土で勃発する反日デモ(anti-Japanese protests)。それは領土紛争の渦中にある無人島(unhabited islands)・尖閣に日本人が上陸したことがキッカケとなりました。

あっちが上陸すれば、こっちも上陸する。この様をエコノミスト誌は「tit-for-tat(売り言葉に買い言葉・しっぺ返し)」と表現しています。



「争いの根元(the roots of the squabble)」

この争い(the squabble)の根元はどこにあるのでしょうか。とりあえず歴史が概観されています。

まず、中国が尖閣諸島を正式に支配したことはない(never formally)との前置きから始まりながらも、歴史上の初出は、中国の領土内(in the Chinese realm)の島であったと述べられています(琉球王国の一部として)。

どうやら、エコノミスト誌は、琉球王国を中国の一属国と位置づけているようです。



「曖昧な歴史(ambiguous history)」

次に、尖閣諸島が正式には琉球王国の島であったことを記しながら、1870年代に琉球王国が日本に吸収された事実に触れています(この時に、沖縄と改称)。

そして、1895年の明治政府による尖閣諸島の日本編入は、中国皇帝が異を唱えた(objected)にも関わらず、日本が一方的に行った(did it unilaterally)ことになっています。

エコノミスト誌のここまでの歴史の記述を見ると、いくぶん中国の肩を持っていることが窺えます。というのも、明治から昭和初期にかけての日本の帝国主義に、エコノミスト誌が否定的だからです。





「曖昧なまま放置(left vague)」

第二次世界大戦後、日本を破ったアメリカは、正式に尖閣諸島の統治権(administation)を取得します(沖縄の一部として)。

その後、1978年に沖縄は日本に返還されることになるわけですが、この時の合意文書(the agreement)、および1951年の日米間の講和条約(peace treaty)をみると、尖閣諸島の主権(sovereignty)は曖昧なままに放置されています。

アメリカの立場は、当事者間(日中間)で友好的に解決すべきだ(resolve amicably)、というものだったというのです。





「先送り(kick into the long grass)」

日中が国交を正常化させるのは、今から30年前の1978年。その際にも、尖閣諸島の領有権は意識されておりましたが、その時はひとまず先送りということで合意されています。

時のケ小平は、こう述べました。「我々の世代は、この問題に関する共通言語を見つけられるほど賢くない(Our generation is not wise enough to find common language on this question)。次の世代は、もっと賢いはずだ(The next generation will be wiser)。」

さて、その賢いはずの次世代は、ケ小平の希望を叶えられるのでしょうか。



「日本の実効支配(Japan's control)」

現在、尖閣諸島に対する国際的理解は、日本の実効支配ということになっています。それゆえ、大部分の日本人は9割の勝ち目がある(nine-tenth of the law)と思っているようです。

しかし、中国はこの30年間でメキメキと海軍力(maritime power)をつけてきました。もはや、かつて「先送りにしよう」と言った頃の弱い中国ではないのです。そのため、近年の中国には、力まかせの態度もよく見られるようになりました。





「日本の主権(Japanese sovereignty)」

アチラが力で来る時には、コチラにも対抗する勢力は現れます。東京都知事の石原氏は、尖閣諸島を買い取ると宣言しました。

エコノミスト誌の表現では、石原都知事は「right-wing governor(右寄りの知事)」となっています。右寄りというのは、日本の権利を重視しているという意味で、外国政府の言うことは容易には聞かないぞという強い姿勢を表しています。



「誠実な教科書(honest textbooks)」

日中両国に強まる好戦的とも思える一部の思想は、わずかながらも紛争(conflict)の危険性を醸し出しています。エコノミスト誌によれば、こうした過激な思想が起こるのは、両国に「誠実な教科書(honest textbooks)」がないからだということになります。

そのため、日本では子供たちが祖先のしたこと(what their predecessors did)を知らないのだそうです。



「過去の貪欲な帝国主義(rrepacious, imperial past)」

エコノミスト誌のいう「(日本人の)祖先のしたこと」というのは、過去の貪欲な帝国主義(repacious, imperial past)を指しています。つまり、その過去を反省しろと言っているのです。そして、それを教科書に書いて、日本の子供たちにちゃんと教えろと言っているのです。

なるほど、この自虐史観を育もうとする歴史認識の強要は、欧米に根強いものがあるようです。欧米諸国から見れば、第二次世界大戦時の日本はその全てが悪なのであり、南京大虐殺も従軍慰安婦も日本は認めるべきあり、償うべきであると考えているのです。もし、欧米諸国が日本の教科書を書いたとしても、それはそれできっと誠実(honest)ではないでしょう。



「怒りの”はけ口”(an outlet for populist anger)」

一方の中国においては、反日感情(Japanophobia)を国民の怒りのはけ口(an outlet)として用いるのが習慣化しています。しかし、中国は戦後の日本が果たした大きな役割を忘れるべきではない、とエコノミスト誌は強調します。アジアの繁栄(prosperity in Asia)は日本が引っ張ってきたのだ、と。

ここで面白いのが、戦前の日本をギタギタに言うエコノミスト誌も、戦後の日本となると一転、極めて高く評価しているところです。



「軍国主義の強硬派(militaristic sabre-rattlers)」

中国の軍幹部(the general)には、軍国主義の強硬派(militaristic sabre-rattlers)も存在し、彼らは尖閣諸島での軍事演習(bombing practice)などを提案したりしています。それほど強硬でなくとも、中国は政府の船舶を時おり日本の領海に送り込んでいたりしています。

そして2010年、中国のトロール漁船(Chinese trawler)が、日本の海上保安庁の船(a Japanese coastguard vessel)に激突してきたことは記憶に新しいところです。これで全てが台無しとなりました(upend)。

ちなみに、中国の漁船の衝突を、記事では「ram」という単語で表現しています。この単語の意味には、「昔、軍艦に突撃して穴をあけた鑑」というのがあり、エコノミスト誌がこの行為に対して批判的であることを示しています。



「武力行使(military force)」

現在のところ、日中両国ともに、武力行使(military force)が選択肢にないこと(not an option)を明言していません。そのため、過激な思想もエスカレートしやすくなっています。

エコノミスト誌に言わせれば、有毒なナショナリスト(poisonous nationalist)の牙を抜く必要があるとなります。その有毒なヘビたち(serpents)が、国を誤った道へと引き込んでいってしまうかもしれないからです。



「望まぬ紛争(unwished-for conflict)」

しかし、一部の強硬派を除けば、大多数の人々が紛争(conflict)など望んでいないのであり、戦争などはもってのほか(let alone go to war)です。日中両国ともに、現在の比較的良好な関係を危険にさらしたくはないとはずなのです。

2008年には領有権を争っている東シナ海のガス田を共同開発するための枠組みに合意しておりますし、2011年には両国間の海洋関連問題を協議するメカニズムが策定されています。



「海洋保護区(marine protected areas)」

最後にこの記事は、尖閣も竹島も海洋保護区(marine protected areas)にしてしまえという、わりとお気楽な提案で終わっています。

そうしてしまえば、人間同士の戦争を避けられるばかりでなく、海を泳ぐ他の生物たち(other species)のためになるとも言うのです。笑えるほど他人事な感じです。



それはさておき、こうした領土問題が浮かび上がることにより、今まで曖昧にしてきたものが鮮明になってくるのがよく分かります。そして、「なんで今までほっといたの?」という感じにもなっています。

しかし、地震が起きてから、非常用品を買いに行こうとするのが人の性(さが)であり、平和なときに非常時の備えなど考えぬものです(政治家さんたちには、考えて欲しいところですが…)。

また、こうした機には、日本が他国にどう見られているかも鮮明になります。事実は事実として厳然とありながら、それよりも「どう見られているか、どう思われている」の大切さを痛感します。なぜなら、人の歴史は事実の上に、「既成事実」が平気で上塗りされていくのですから…。

これから歴史を作っていく私たちは、いったいどんな事実を後世に示していくこととなるのでしょうか?







英語原文:
Japan and China: Barren rocks, barren nationalism | The Economist

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2012年08月26日

「わかっちゃいるけど…」、救済の列に並んでしまう国々


スロベニア経済:救済待ちか
Slovenia's economy : Next in line

英国エコノミスト誌 2012年8月18日号より



「ユーロ圏で救済を必要とする6番目の国(the sixth in the 17-strong union)」

今まで、ユーロ圏で救済(bail-outs)を余儀なくされた国家は5カ国(ギリシャ・アイルランド・ポルトガル・キプロス・スペイン)。もし、スロベニアが救済を要請することになれば、6カ国目となります。

ちなみに、ユーロ圏は全部で17カ国で成り立っておりますが、その内のおよそ3分の1の国家(5カ国)がすでに救済(資金援助)を求めたことになります。一方で、もう3分の1の国家(6カ国)は世界最高の格付け(AAA)を保持しております。なんと、たった17カ国のクラブで、これほどに貧富の格差があるのです。



「小銭(small change)」

もし、スロベニアが救済を求めてきても、その額は巨大なユーロ圏にとっては小銭(small change)のようなものです。スロベニアの経済規模(GDP)はユーロ圏のわずか0.4%と、辛うじて識別できる程度の小ささなのです。

ちなみに、スロベニアの人口はおよそ200万人(日本の64分の1)。国土の面積は約2万平方km(四国より少し大きい程度)です。





「元・共産主義国(former communist country)」

スロベニアという国は、旧ユーゴスラビアの一共和国であり、1991年に独立しています。

アメリカとソ連が対峙した東西冷戦時、ユーゴスラビアはソ連側、すなわち共産圏(社会主義)の一員だったわけですが、スロベニアは文化的にドイツ語圏の影響を強く受けていました。

そのため、ドイツ人の勤勉さが経済を発展させたように、スロベニア人の勤勉さもまた、同国に豊かな経済をもたらし、2004年にEU(ヨーロッパ連合)加盟、2007年にユーロ圏の一員となりました。





「中間帯(the twilight zone)」

ところが今、スロベニアは救済が必要か否かの微妙な立場(the twilight zone)に立たされています。

救済の目安とされるのが、長期国債(Long-term goverment-bond)の利回り(yields)ですが、スロベニアのそれは救済の節目(threshold)となる7%を突破してしまい、その格付けが引き下げられています。



「屈辱の烙印(a mark of humiliation)」

スロベニアがユーロ圏への参加が認められたのは、その経済の堅調さが認められたからであり、それは名誉の印(the badge of honour)でした。

しかし、これから救済を要請する事態に陥れば、今度は屈辱の烙印(a mark of humiliation)を押されることになってしまいます。



「救済は避けられる(it can avoid a rescue)」

スロベニア政府は「救済は避けられる(it can avoid a rescue)」と繰り返します(refrain)。しかし、長期国債の利回りが7%を超えた国々は皆、不幸な結末(unhappy coda)を迎えています。

ちなみに、ここで用いられている語句、「繰り返し(refrain)」と「結末(coda)」はともに音楽用語であり、「refrain」は「リフレイン(繰り返す部分)」、「coda」は「コーダ(最終楽章)」を表します。





「主な弱み(main vulnerbility)」

スロベニア経済の足を引っ張っているのは、国内の銀行です。国内最大手の銀行「ノヴァ・リュブリャンスカ・バンク」は、すでに3億8000万ユーロ(380億円)の資金注入が必要となりました。この巨額は、スロベニアのGDP1%に相当します。

スロベニアの銀行の不良債権(non-performing loans)の水準は軒並み高く、なおも増加しています。このままでは弱った銀行に対して、GDP比8%もの資本注入が余儀なくされるとする見方もあるほどです。



「弱い銀行と弱い政府(weak banks and a weak government)」

弱った銀行を助ければ、そのお金を出す政府も弱ります。政府が弱れば、その国の国債(借金)の利回りが上昇し、ますますお金が必要になります。すると、国はもっともっと借金をしなければならなくなり、その結果、さらに利回りが上昇して…。

この弱った銀行と弱った政府による無限ループのような悪循環が、ユーロ金融危機の根底にありますが、スロベニアでもやはり、弱い銀行と弱い政府の致命的な結びつき(the pernicious link)は、ますます強まるばかりのようです。

そして、この悪循環の行き着く先は…、救済というわけです。



「おなじみの展開(familiar story)」

もう一つ、スロベニアで起こっているお馴染みの展開(familiar story)は、経済成長と借金の関係です。

2004〜2007年、すなわちリーマン・ショック(アメリカ発の金融危機)が勃発するまでのスロベニア経済は、じつに好調でした。年率5%以上の急成長を持続し、2007年には成長率がほぼ7%にまで達しました(この好況期に、EU加盟・ユーロ導入)。

ところが危機後は一転、政府・民間ともに借金の山に悩まされることとなります。振り返ってみれば、2007年までの急成長は、ただ単に借金をして贅沢な暮らしをしていたようなものだったのです。



「好況の代償(the price for a boom)」

政府の債務は急増中で、今後3年間、GDP比で6%の借金が積み重なっていくと見られています。また、民間部門(企業)の債務比率(debt-to-equity ratios)も、いまやユーロ圏の平均を大きく上回っています。

経済成長は、お金を使った分だけ上に伸びますが、その成長を演出したお金が巨額の借金だったとは悲しい話です。

もし、世界的な金融危機が起こらなかったのならば、その借金はのちのち大きな利益となって国を潤すことになったのかもしれません。しかし残念ながら、その炎は燃え上がる前にバケツの水をかけられてしまったのです。金融危機という冷や水を…。



「外国からの直接投資(foreign direct investment / FDI)」

スロベニア経済が勢いを失ってしまったのは、外国からの直接投資(direct investment)が十分に呼び込めなかったこともその一因です。GDPに対する外国直接投資(FDI)の割合は、30%前後とユーロ圏では低い比率にとどまっています。

外国直接投資(FDI)がスロベニアにあまり流れ込まなかったのは、スロベニア政府が企業(特に銀行)に対して過度に関与していたからでもあり、最近では、国の借金が危険なほど増えてしまったからでもあります。





「痛みを伴う改革(painful reforms)」

今後、スロベニアが救済を必要とするのか否かに関わらず、スロベニアには改革(reforms)をすべき時期に来ているようです。好況期には覆い隠されてしまっていた弱点が、いま露わになってきているのです。

近年のユーロ危機によって救済を余儀なくされた国家は、これまで述べてきたように、奇妙なほど同じ様な過程をヘて、苦境へと陥っています。歩いていく先に落とし穴があると分かっていながら、あえてその道を進んでいるかのように…。

それでも、その道を進んでしまう。それほど方向性を修正する改革というのは難しいものなのでしょうか?



かくいう我が日本政府も、借金の多さでは世界随一。それでも国債の利回りが世界一低い水準に保たれているのは、民間(家計や企業)の膨大な貯金によるものでしょうか。

しかし、もし何らかの理由で、日本国債の利回りが急騰するような事態が勃発してしまうと…。その時は、救済の列に並んだユーロ諸国と同じ轍を踏むことになるのかもしれません。「わかっちゃいたけど…」。







英語原文:
Slovenia’s economy: Next in line | The Economist

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2012年08月24日

ブラジルの正念場。歯止めのかからぬ政府の拡大


ブラジル:正念場を迎えた大統領
Brazil : A moment of truth for Dilma

英国エコノミスト誌 2012年8月18日号より



「ブラジル・コスト(Brazil cost)」

100年前、ある経済史家は「ブラジルの対外貿易(foreign trade)はコモディティー(商品)に限られている」と指摘しました。なぜなら、「ブラジル・コスト」とも呼ばれる、高い国内税(internal taxes)などで他の輸出品の生産コストが国際的に競争できなかったからです。

ちなみに、経済用語としてのコモディティー(商品)というのは、原油やガスなどのエネルギー、金やプラチナなどの貴金属、大豆やトモロコシなどの穀物などなど、商品先物取引所で扱われている商品のことを指します。



「中国の需要(China's demand)」

たとえブラジルの輸出がコモディティーに限られていようと、それはそれで過去10年間、ブラジルに高成長をもたらしました。たとえば、中国の旺盛な需要はブラジルの鉄鉱石(iron ore)や大豆(soya beans)、石油などをドンドン買ってくれたのです。

高成長のお陰で、ブラジル国民の購買力(the purchasing power)も高まりました。それは、賃金(wages)が上昇したことに加え、ローンなどの借金もできるようになったからです(newly available credit)。



「行き詰まり(stall)」

ところが近年、ブラジルは行き詰まっているようです(has stalled)。100年前から指摘されていた「コモディティー頼み」に陰りが見えてきたのです。

ブラジル・コストとも揶揄されているように、ブラジルは投資先や生産拠点としては「極めて割高な場所(a widly expensive place)」であるため、コモディティー以外の産業が十分に育っていません。

そして、一時は借金(ローン等)によって高まった国民の購買力も、その借金が重しとなってきています。



「ブラジル産の鉄鉱石(Brazilian iron ore)」

日産のトップ、カルロス・ゴーン氏は、「ブラジルで鉄を買うよりも、ブラジル産の鉄鉱石(iron ore)を韓国で加工した鉄を買う方が安い」と不満を漏らしています。

それほどにブラジル・コストというのは割高で、企業に重くのしかかるものなのです。



「生産性の低さ(stagnant productivity)」

ブラジルの生産性(productivity)の低さは、100年前から競争力(competitiveness)にあまり注意を向けてこなかった結果でもあります。

それに加えて、ブラジル国内のインフラのお粗末さ(poor infrastructure)が企業のコストをさらに増大させています。ブラジルの道路は、まだ全体の14%しか舗装されていないのです。

WEF(世界経済フォーラム)のランキングでは、ブラジルのインフラは世界104位(142カ国中)。中国(69位)、インド(86位)、ロシア(100位)の下に位置しています。



「果てしなく膨れ上がった政府(the remorseless expansion of the state)」

コモディティーの力により、十分な国際競争力を持たないままに成長してきたブラジル経済。そのコモディティーの力は、ブラジル政府の支出を果てしなく膨張させもしました。

ブラジル政府の税金収入はGDPの36%をも占めます。これはヨーロッパ並みの高水準ですが、そのサービスはヨーロッパのそれに遠く及びません。たとえば、ブラジル国民の半数近くの家に下水道(sewerage)が通っていないのです。



「2倍になった公的部門の賃金(the public-sector wage has doubled)」

ブラジル政府の支出がそれほど膨張してしまったのは政府関係、いわゆる公的部門(public-sector)への出費がそれだけ増加したからです。政府に集められた税金は国民のサービスへ向かうよりも、ただただ政府関係者(insiders)によって食いつぶされてきたのです(gobbled up)。

たとえば、2003〜2010年の間に、公的部門の賃金は2倍以上に跳ね上がっています。通常、賃金の上昇はその国のインフレ率を超えることはありませんが、この同期間、ブラジルのインフレ率は50%を下回っています。それなのに、公的部門ばかりは100%以上も賃金が上昇したのです。



「需要拡大路線(twiddling the dials of demand)」

これまで、ブラジル政府の行った対策はといえば、特定の産業に対して優遇税制(tax breaks)を認めることであったり、低金利融資(cheap loans)を与えることでした。

しかし、こうしたブラジル政府の需要(demand)拡大路線は、今後のまともな成長(a decent clip)に寄与しません。むしろ、その増大が大きな荷物となって、成長の足を引っ張り始めているのです。



「高い供給コストの抑制(tackling the high cost of supply)」

そろそろブラジルは、需要拡大路線から高い供給コスト(ブラジル・コスト)を抑制する方向に舵をきる必要があるのかもしれません。

為替介入によって通貨を安くすることや、政策金利(interest rates)を下げて資金調達コストを安くすることばかりでは、国内の競争力が高まることはないのです。

逆に通貨安や低い金利は、急激なインフレ昂進(spike in inflation)を招きかねない両刃の剣でもあるのです。



「幅広い民間投資(widespread private investment)」

現在、ブラジル政府は4つの空港の改修工事を入札にかけたり、道路や鉄道に民間投資(private investment)を呼び込むと発表するなど、幅広い民間投資を募り始めています。

しかし、入札の条件があまりにも厳しすぎたり、投資のリターンが薄すぎたりと、まだまだ障害は多いようでもあります。



「公共支出の増加(the increase in public spending)」

ブラジル政府の予算の大半は、政府関係の組織や年金(pensions)などに向けられています。

たとえば、ブラジルの労働者の大半は50代前半から年金を受け取ることができるなど、馬鹿げた年金制度(absurd retirement rules)が政府の支出を拡大させています。



「法外な賃金要求(the exorbitant wage demands)」

ブラジルの経済規模に不釣り合いな年金制度に加え、公務員たち(civil servants)はさらなる法外な賃金(the exorbitant wage)を要求するストライキを決行したりもしています。

公的部門の人件費(payroll costs)は、ブラジル政府の自由裁量権(discretion)が行使できる数少ない予算項目の一つですが、これまではそれを抑制する方向には働いてきませんでした。



「公的部門の労働組合(public-sector unions)」

公的部門の賃金を抑制する方向に動かなかったのは、大統領率いる政権与党・労働党(Workers' Party)が、その支持の大半を公的部門の労働組合(public-sector unions)から得ているからでもあります。

ちなみに、前大統領のルラ氏は労働組合の元代表でもありました。



「ルセフ大統領の断固たる行動(her firm action)」

現大統領であるルセフ氏は、公金(public funds)の乱用(misuse)を容認した閣僚を解任するという断固たる行動を取ったことで、労働組合以外からの幅広い支持を獲得することにも成功しています。

ブラジル政府はそろそろ、強欲な巨大組織(the greedy Leviathan)との対決も視野に入れ始めているのかもしれません。そうしなければ、経済規模に不釣り合いなほどに、政府の規模ばかりが拡大していくのですから。





「100年前と同じ間違い(the faults of a century ago)」

100年前、ブラジル経済がコモディティー(商品)に過度に依存している危険性が指摘されたわけですが、現在においても、ほかの産業の生産性は低く、その根本的な構造には変化がないようです。

それにも関わらず、政府ばかりは100年前よりもずっと膨張し、そのサービスは非常に偏りのあるものにとどまっています。

成長の一段落した今、ブラジルは岐路に立たされているのかもしれません。そして、ここがルセフ大統領の正念場(a moment of truth)でもあるのでしょう。







英語原文:
Brazil: A moment of truth for Dilma | The Economist

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2012年08月22日

欧州の機関車・ドイツの弱み。力強くも弱い足元


ドイツの弱ったエンジン
German economy : Europe's tired engine

英国エコノミスト誌 2012年8月18日号より





「経済状況が非常によく分かる仕事(a pretty good window on the economy)」

ドイツの小さな会社・ヴァスクート(Wascut)は、大型製造機械用の冷却オイルや洗浄オイルを販売していることもあり、その売り上げは経済状況をとてもよく反映しているのだそうです。



「深刻な何か(something serious)」

期待がもてた5月と6月(a promising May and June)が過ぎると、その会社の売り上げは30%も急落していしまいました。

はて? これは長い夏休みの影響なのか? それとも、もっと深刻な何か(something more serious)のせいなのか?



「ユーロ圏を牽引する機関車(the locomotive the euro zone)」

ヨーロッパ随一の経済大国であるドイツは、金融危機によってヘロヘロになってしまったユーロ圏を牽引する機関車(the locomotive)であり、一縷の望みでもあります。

それゆえ、もしドイツ経済に事あらば、それはヨーロッパの未来を左右しかねない由々しき事態なのであります。ドイツの力強い牽引力なしに、ユーロ圏諸国はそのハマり込んだ泥沼(the mire)から抜け出すことができそうにないのです。



「たった0.3%の成長(only by 0.3%)」

先日発表された統計数字によりますと、ドイツは辛うじてプラスの経済成長を維持しておりました。しかし、その伸びはわずか0.3%にとどまっており、少々力強さに欠ける結果となってしまいました。

しかしそれでも、周辺諸国、たとえばフランスのゼロ成長、スペインのマイナス0.4%、イタリアのマイナス0.7%などの弱々しい数字に比べれば、ドイツはよっぽどマシな状態ではあります。





「警戒すべき兆候(some warning signs)」

昨年末までは快走を続けていた機関車・ドイツも疲れが出たのか、ここ最近、警戒すべき兆候(waring signs)のいくつかが見え隠れし始めています。

Ifoの企業景況感指数(the business-climate index)は、じりじりと低下。また、BMEの購買担当者景気指数(the purchasing managers' index)も、2009年以来の最低水準(its lowest level)にまで落ち込んでしまっています。

さらにドイツ企業の新規受注(new contracts won)も1.7%の減少。ドイツ国内での落ち込みは、全体を下回る2.1%減。さらに悪いのがユーロ圏からの受注で、4.9%も減少しています。



「ドイツの輸出(German exports)」

ヨーロッパの泥沼化に足を引っ張れる中、ドイツの輸出(German exports)は上昇傾向を維持しています(buoyant)。

なぜなら、ドイツ企業の拡大した輸出市場は、アジア、中欧、アメリカと広大なものであり、そうした地域からの需要が、ユーロ圏の低迷を十分に補っている(make up)のです。



「ユーロ安(a weaker euro)」

ユーロ圏の低迷によるユーロ安(a weaker euro)も、ドイツの輸出企業にとっては追い風となりました。

ユーロ安のおかげで、ドイツの貿易黒字(trade surplus)は今年上半期だけで1,000億ユーロ(約10兆円)という巨大なものとなっています。あまりに巨大すぎて、他国から激しい非難(flak)を浴びるほどです。

ちなみに、激しい非難という意味で使われている「flak」という単語は、もともとドイツ語から生まれたものであり、「対空射撃」が第一義となっています。



「安定した消費(steady consumption)」

ドイツ国内の消費(consumption)も安定しています。6月の小売り売上高(retail sales)は、2.9%の上昇です(前年同月比)。

そのおかげで、労働市場(job market)も安定しており、一部業種で大規模なリストラ(big lay-offs)があったにもかかわらず、賃金が4.5%も引き上げられたケースも存在します。



「消費者の心情(consumer sentiment)」

景気が悪くなると、消費者の心理は冷え込むものですが、GfK消費者信頼感指数によると、ドイツの消費者は豊かさを感じており(feel well off)、さらなる購入意欲(a willingness to buy)も持っているということを示しています。

特に大都市においてその傾向は強く、不動産市場(the property market)も上昇傾向にあります。



「ユーロ危機の悪影響(a fallout from the euro crisis)」

今は安定しているドイツの消費者心理ですが、すぐ隣りにまで迫っているユーロ危機への恐怖(fear)は拭い切れません。

今後予想されるリスクのせいで、今年下半期における小売り売上高の予想は、上半期の半分となる1.5%増となっております。



「警戒信号(an alarm signal)」

さらに、エコノミストたちが懸念する警戒信号(the flasing light)があります。それは、設備投資(capital investment)の減少です。企業が新しい設備に対する投資を行っていかなければ、今後の長期的成長は望めなくなってしまうのです。



「好調な自動車メーカー(the thriving carmakers)」

落ち込むドイツの設備投資ですが、絶好調のドイツの自動車メーカーばかりはその例ではないようです。

BMWは中国、アメリカ、イギリスで生産能力を拡大しており、ダイムラーはインドに新しいトラック工場を建てました。また、フォルクスワーゲン(VW)は2016年までに世界中で600億ユーロ(6兆円)の投資を計画しています。

彼らが弱気になる兆しは、今のところ見えていません(no sign of pulling in their horns)。





「欧州の自動車需要の落ち込み(a fall of demand for cars in Europe)」

世界を相手にするドイツの自動車メーカーにとっても、欧州の自動車需要が6%ほど落ち込んでしまっている影響からは免れられません。

BMWの欧州での販売台数は0.5%落ち込み、ダイムラーは11%も減少しています。より広い長期的な視点に立てば、この欧州の低迷が自動車産業を支える部品供給業者(supliers)に深刻な悪影響を与えてしまう恐れもあるのです。



「世界市場がどれほど魅力的でも…(However attractive the rest of the world may be...)」

今のところ、低迷するヨーロッパで好調なのは、残りの世界(the rest of the world)を相手にしている企業ばかりのようです。

しかし、それでも足下の危うさには心配せざるを得ません。なぜなら、ドイツの輸出品の40%は今でもヨーロッパ連合(EU)向けなのですから。



「ドイツの小売り・サービス産業(German retail and service industries)」

じつは、ドイツの小売り・サービス産業(ratail and service industries)は、消費者を開拓することがあまり得意ではありません(not good at tapping the consumer)。今年に入って、ドイツの小売り4社はインターネットの時代に順応しきれず(failed to adopt)、苦境(sorry state)に陥っています。

つまり、一部の世界企業がドイツ企業のすべてではなく、その他多くの国内企業は苦戦を強いられているのです。



「逆風の中で(under negative conditions)」

ヨーロッパに吹き荒れる逆風(negative conditions)の中では、たとえドイツの企業といえども、みんながみんな成長を維持し続けられるわけではありません。

しかしそれでも、歴史上、ドイツはこうした逆風を跳ね返したことがありました。それは1990年代の東西ドイツ統一による特需です。その時は、税制上の優遇(tax incentives)によって、旧東ドイツへの投資が促進されたのです。



「同じような刺激策(similar incentives)」

もし、今回もその時にあやかりたいと思うのであれば、ドイツがかつて旧東ドイツに投資を活発化させたように、今回はユーロ圏周縁国(peripheral euro-zone countries)に対して、積極的に投資とアウトソーシングを行う必要があります。

その逆に、遠くの世界にばかり投資を続けるようであれば、いつか足下が崩れ去ってしまうかもしれません。

もしそうなってしまえば、さすがの機関車(the locomotive)でも立ち往生する(to stall)しかないでしょう…。







英語原文:
German economy: Europe’s tired engine | The Economist

posted by エコノミストを読む人 at 11:24| Comment(0) | ヨーロッパ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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