2012年09月30日

好調なるメキシコの銀行。テキーラの新たな未来


メキシコの銀行:テキーラ危機からサンライズへ
Mexican banks : From tequila crisis to sunrise

英国エコノミスト誌 2012年9月22日号より



「危なっかしい銀行(dodgy banks)」

メキシコの銀行といえば歴史的に、安心してお金を預けておけるような場所ではありませんでした。

今から20年ほど前の1995年、通貨ペソの切り下げ(devaluation)とテキーラ危機(tequila crisis)によって、彼らは破綻した(collapsed)のですから。



「無責任な貸し出し(the irresponsible lending)」

破綻したメキシコの銀行の救済(bail-out)に乗り出した友好国や近隣国は、その無責任な貸し出し(the irresponsible lending)に唖然とし、舌打ちした(tut)ものです。



「様変わりした事態(things have changed)」

メキシコの銀行が危なっかしかったのは今は昔。いまや、欧米の銀行よりもたくましくなっています(sturdier)。

逆に欧米の銀行のほうが、もがき苦しみ、そこにメキシコの銀行が命綱(lifeline)を差し出している状況なのです。




「子会社(subsidiaries)」

欧米の銀行がメキシコに開いた子会社たちは、親会社以上に優秀で、親会社の自己資本比率(capital ratio)を満たすための大きな助けとなっています。

スペインの銀行「サンタンデール(Santander)」は、メキシコの子会社を上場させることで資金を調達しました。



「欧米銀行よりも有利な条件(a better deal than European or American banks)」

サンタンデールのメキシコ子会社の売出価格(the offering)は、純資産(book value)の2倍。これは欧米の銀行以上に有利な条件(better deal)です。

なぜなら、このメキシコ子会社の株主資本利益率(return on equity / REO)は20%近く、欧米平均の約2倍も収益性が高いのです(profitable)。



「親会社よりも高い格付け(less risky than their parents)」

スペインのビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行(BBVA)のメキシコ子会社、バンコメール(Bancomer)は、グループ全体の利益の3分の1をも稼ぎ出しています。

メキシコに置かれたこうした子会社は、親会社よりも信用力があることも珍しくなく、格付け機関ムーディーズは、親会社よりもリスクが少ないと判断しています。「藍は藍よりいでて、藍より青し」







「ブラジルの影(Brazil's shadow)」

メキシコの銀行の良好さは、同国経済の好調さの現れでもあります。

長らくメキシコはブラジルの影(Brazil's shadow)になっており、とりわけ注目されることもありませんでした。ところが昨年、メキシコの成長率は偉大なライバル・ブラジルのそれを凌ぎ、今年もブラジルの2倍以上となる4%成長を達成する見込みです。

メキシコの銀行ばかりでなく、メキシコの国全体が脚光(the limelight)を浴びているのです。



「中国の減速(slowing growth in China)」

コモディティー(商品)を通じて中国経済と深くリンクしていたブラジル経済は、中国が減速することにより、それにつられて落ちていきました。

一方、メキシコは中国の減速が加速要因となりました。中国の賃金や輸送費(wages and shipping cost)が上昇するにつれ、メキシコの魅力が俄然高まったのです(increasingly attractive)。

アメリカ市場でも同様、中国、カナダがそのシェアを減らす中、メキシコばかりはシェアを拡大しています。



「用心深さ(their own caution)」

一度危機を痛感しているメキシコは、この軽快な成長(bouncy growth)に浮かれすぎず、十分な用心深さを保っています。

メキシコの民間債務(private debt)はGDP比で20%足らず。まったくバブルは膨らんでいないのです。ちなみに、浮かれたブラジルの民間債務は50%を超えています。



「守りすぎ(too safe)」

メキシコの銀行は安全第一の姿勢が強すぎると不満が出るほどの用心深さです。

メキシコ企業で銀行融資を受けられるのは全体の3分の1に過ぎず、中小企業(small firms)ともなると、ますます融資を受けられません。



「厳格な信用評価制度(a strict credit-scoring regime)」

銀行自身が運営する民間機関による信用評価(credit-scoring)は、顧客を等級分けするのではなく、ただ単に信用力があるか否か(creditworthy or not)に2分するだけです。

ブラックリストに載せるかどうかの判断は、その最低基準が設定されていません(no lower limit)。そのため、電話代(phone-bill)を滞納した程度でブラックリストに載せられ、融資を受けられなくなる(ineligible for loans)ケースまでがあるとのこと。

凄まじいまでの貸し渋り(the stinginess)です。



「法外な金利(steep rates)」

幸運にも融資適格であるとされた人々も安穏とはしていられません。次に彼らが直面するのが法外な金利(steep rates)です。

基準金利が4.5%に設定されているにも関わらず、実際のクレジットカードは40%を超える金利を請求するのです。

その逆に、銀行預金者の金利(interest)は極めて低く、それはインフレ率を下回るほどです(below-inflation)。つまり、銀行に預けておいたカネは、時とともに増えるどころか、目減りしてしまうのです。



「非常に多い潜在的顧客(so many potential new customers)」

審査が厳しすぎて、お金を預けても利子が低い。さらには法外な金利。そんなメキシコの銀行は、経営的に大丈夫なのでしょうか?

幸いにも、メキシコの銀行は頑張らなくても利益を出せる(no need to work that hard to turn a profit)そうです。それほどまでに潜在的な顧客(potential new customers)が大量にいるのです。

メキシコの人口は1億人以上、その中所得階級の潜在力には偉大なるものがあるようです。



「増える銀行貸し出し(lending is rising)」

貸し出しの基準が異常に厳格なのにも関わらず、メキシコの銀行の貸し出しは年間15%ものペースで増加を続けています。この最速に近いペースが続けば、あと10年もせずに銀行貸し出しがGDP比35%に達する見込みです。

こうした需要増に対応するため、スペインの銀行サンタンデールはメキシコ国内の支店を年間100店舗以上追加しているとのことです。



「たくさんの祝うこと(plenty to celebrate)」

現在の安定した経済成長とメキシコの銀行の健全性が歩調を合わせれば、その成長はより着実なものとなるでしょう。株式の上場(listing)も増えれば、メキシコの証券取引所(stock exchange)も活気を増します。

なるほど、メキシコには祝うべきことが山とあるようです(plenty to celebrate)。

ただ、祝いすぎて、テキーラを飲み過ぎる(go easy)のだけは気をつけなければならないのかもしれません。今のところは、テキーラ危機(1995)の痛みを身体が覚えているようではありますが…。






英語原文:
Mexican banks: From tequila crisis to sunrise | The Economist

posted by エコノミストを読む人 at 06:37| Comment(0) | 金融 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年09月25日

尖閣諸島は「災いのタネ」となるのか?


日中は「尖閣諸島」で戦争を始めるつもりか?
Could Asia really go to war over these?

英国エコノミスト誌 2012年9月22日号より



「深刻な脅威(grave threats)」

沖に散らばる小さな無人島群(unhabited islands)は、いよいよ深刻な脅威(grave threats)を日中両国の国益(the national interest)に与えようとしているのでしょうか。

日中両国が領有権を主張して譲らない尖閣諸島では、海洋論争(maritime dispute)が起きています。



「反日暴動(anti-Japanese riots)」

中国全土では反日暴動(anti-Japanese riots)が激化し、トヨタとホンダは中国工場の操業を停止せざるを得ませんでした。

加熱する舌戦(heated rhetoric)の中では、「日本に原子爆弾をお見舞いしろ!(serve up Japan with an atom bomb)」などという有害過激な発言も飛び出してきています。



「経済的な利益(the economic interests)」

両国の経済的な利益(interests)を鑑みれば、両国間に紛争を起こすことほど不利益なことはありません。それゆえ、中国政府は、遅ればせながらも、論争(dispute)を沈静化させようともしているようです。

ところで、100年前のヨーロッパでも同じように、紛争(conflict)から利益を得るものなど誰もいませんでした。しかし、それでも世界大戦は起こったのです。



「150年の屈辱(150 years of humiliation)」

中国には150年の屈辱(humiliation)とみなす暗い時代がありました。日本との関係でいえば、この間、日清戦争で敗れた屈辱、日中戦争(第二次世界大戦)で国土を蹂躙された屈辱があるのです。

たとえ、岩の塊(clumps of rocks)にすぎない島々を巡る諍(いさか)いとて、場合によっては、オーストリア皇太子暗殺(assassination)と同じ意味を持ちかねません。

※オーストリア皇太子暗殺は、第一次世界大戦の引き金を引いた事件(サラエヴォ事件)



「政治劇の一幕(a piece of political theatre)」

楽観的な人々は、尖閣を巡るいさかい(scuffle)を政治劇(political theatre)の一幕だと切り捨てます。

日本でも解散・総選挙が近づいているのと同様、中国の指導部もその交代(transition)を控えているからです。



「領海侵入(to encroach on Japanese waters)」

日本政府は尖閣諸島の国有化を発表しましたが、それは中国を叩きたがる知事の迷惑な手(mischievous hands)から尖閣諸島を遠ざけておく必要があったからとも言われています。

しかし、この国有化ほど中国を怒らせたものはありませんでした。怒った中国は巡視船(patrol boats)をたびたび日本領海に侵入させてきたのです(encroach)。






「最大の貿易相手国(the biggest trading partner)」

中国は日本にとっての最大の貿易相手国(trading partner)。本来ならば、戦争などしているヒマはないはずです。お金稼ぎで大忙しです。

中国人の旅行者も日本が大好きで、大挙して表参道へと押しかけ、バッグやらブランド品やらを嬉々として買いまくっています。

そもそも、中国は国内にも手にあまるほどの問題を抱え込んでいるはず。それなのに、なぜ、わざわざ国外にまで出て来て問題を起こす理由があるのでしょうか?



「徐々に収まる?(die down)」

確かに、日中両国には関係を良好に保つべき理由の方が多いように思われます。それでは、今回のつまらない争い(squabble)も、過去の諍いと同様、徐々に終息していくのでしょうか。

しかし、どこかの島で領有権問題(island row)が再燃するたびに、両国の態度が硬化し(harden)、信頼が損なわれてきた(erode)という事実もあります。



「中国漁船の船長(the skipper of a Chinese fishing boat)」

たとえば、2年前の尖閣沖では、中国漁船が日本の巡視船に体当たりを食らわせ、その船長(the skipper)が逮捕されるという事件が起きました。

それに対する報復(retaliation)として、中国は日本へのレアアースの販売を停止するという暴挙にでました。



「国家主義の高まり(growing nationalism)」

国境で問題が起こるたびに、両国では愛国心が刺激され、国家主義(nationalism)が高まりを見せます。

今回、特に中国での国家主義の高まり(growing)が紛争の脅威を大きくしています。中国で盛んに唱えられるのは、第二次世界大戦時の残忍な日本の帝国主義(empire-building)です。中国の学校では、事実歪曲の偏見(prejudice)を教え込まれ、メディアもそれにつけ込んでいるようです。



「軍事紛争(military dispute)」

中国政府は、事あるごとにこうした反日を軸とした国家主義を煽っては、都合の良いように国民の手綱(たづな)をさばいてきました。

しかし、今回の暴れ馬は少々手強いようで、政府が弱腰を見せようものなら、国民からは痛烈な批判(vitriolic criticism)が飛んできます。

最近の世論調査によれば、中国国民の半数あまりが「今後数年で日本との間に軍事紛争(military dispute)が起きる」と考えるほどに過激化しているようです。



「大ばくち(high-stakes game)」

今や、どれほど小さな事件でも、両者は一歩も妥協しない構えを見せています。なぜなら、一歩下がれば、さらに別の要求(the next demond)を突きつけられると考えているからです。下手に譲歩することは、悪しき前例(precedent)ともなってしまうのです。

中国が恐れるのは紛争当事国ばかりではなく、日本や韓国、フィリピンの背後に控えるアメリカの存在もあります。



「根深い不安(deep-seated insecurities)」

アジア諸国に根深い(deep-seated)のは、覇権を強める中国への不安(insecurities)です。

朝鮮半島(peninsula)はどうなる? 台湾海峡(the Strait)は? 南シナ海は?

中国と国境を接するアジア諸国は、中国が小さな諍い(the slightest tiff)を本格的な争い(a full-blown row)にエスカレートさせるのではないかと恐れているのです。



「オバマ大統領のアジアへの旋回(Obama's pivot towards Asia)」

アジアの平和を請け負うアメリカは、中国の台頭の懸念から、軍事的な威嚇(the threat of military force)をアジアで行うようになりました。

それは、日本を始めとするアジアの同盟国(allies)に、アメリカの意志(commitment)を示すためでもあります。ただ、中国に対する露骨なWTO(世界貿易機関)への提訴は、やりすぎかもしれませんが…。



「行動規範(a code of conduct)」

今後、突発的な出来事(mishaps)が本格的な危機(crises)に発展することを防ぐには、事故時の対応に関する各国共通の行動規範(a code of conduct)を定める必要があるでしょう。そうすれば、海上で船舶が衝突した時にも、その対処が明確になります。

しかし残念ながら、今のところは各国がアジアの機関に、その権限(authority)を移譲しようとしないようですが…。



「棚上げ(to shelve)」

もしくは、領土問題を棚上げしてしまうという手もあります。

かつて、毛沢東もケ小平も尖閣諸島の問題を次世代へと先送りにしました。近年では、胡錦濤国家主席が台湾問題を脇にどけたままにしています(put to one side)。



「抑止力(deterrence)」

もし協力し合えないというならば、軍事的な抑止力(deterrence)を高めざるを得ません。

この点、尖閣諸島に対するアメリカの態度は明白(unambiguous)です。日本の施政下にある(administered)尖閣諸島は、アメリカの安全保障条約の範囲に含まれている(fall under its protection)と明言しているからです。

ただ、他のアジアの島々に対しては、アメリカの態度はあやふや(unclear)です。



「中国の役割(the role of China)」

建前上、中国は国力の拡大(growing power)が近隣諸国の脅威にはならないと主張しています。

もし、中国が偽りなく平和的な台頭(peaceful rise)を望んでいることを証明したいのならば、それを態度で示す(take the lead)必要があるでしょう。

また、アメリカも中国の台頭を歓迎している(welcome)と言うのならば、19世紀にイギリスがドイツにしたような封じ込め(contain)ではなく、中国に責任感を持たせる必要もあるでしょう。



「国家主義という蛇の牙(the nationalist serpents)」


国内における行き過ぎた国家主義(nationalism)は、時に暴走します。

かつて、その火を弄べると考えたヨーロッパの指導者たちは、その火によって国土が焦土と化してしまいました(2つの世界大戦)。

実際、中国における国家主義の高まりは予想を超える危険性があります。中国の歴史というのは、そうした繰り返しの上に成り立っているのです。

また、日本の国家主義の高まりも、アジア諸国の警戒感を高めてしまいます。なぜなら、日本のそれは第二次世界大戦時の帝国主義を即座に連想させるからです。



「太平洋(the Pacific)」

太平洋という名前は、平和を意味します。

この海がその名にふさわしい状態(worthy of the name)を保てるかどうか、それは今だけの問題ではなく、世代を超えて対応していく必要があるのかもしれません。

思えば、日本と中国の関わり合いは2000年以上にも及びますが、両国が争った歴史はわずか数十年。歴史的には、圧倒的に平和な関係を長期間にわたり維持し続けてきたのです。

本来、日中両国民は憎しみ合う必要などなかったのではないでしょうか?







英語原文:
China and Japan: Could Asia really go to war over these? | The Economist

posted by エコノミストを読む人 at 15:32| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年09月21日

期待の風、橋下徹「日本維新の会」



動き出す橋本氏のバンド・ワゴン
The Hashimoto bandwagon rolls on

英国エコノミスト誌 2012年9月15日号より



「日本維新の会(the Japan Restoration Party, JRP)」

やる気満々(can-do)の大阪市長・橋下徹氏(43)は、9月12日、正式に国政政党(national party)を結成しました。

その名も、「日本維新の会(the Japan Restoration Party)」。「the Restration」という単語は、イギリスでは「王政復古(1660〜)」、日本では「明治維新(1868〜)」を意味します。



「政治的反乱(political insurrection)」

橋本氏を中心として大阪で起きた反乱(insurrection)の烽火は、日本全土へと燃え広がることとなりました。

橋本氏の新党「日本維新の会」は、その名が示すとおり、既存の政治秩序(the existing political order)の一網打尽(sweep away)を志しています。





「見るに耐えない政治の舞台(a dismal political scene)」

橋本氏の颯爽とした登場(arrival)は、大いに歓迎されることとなりました。日本国民は、見るに耐えない(dismal)現在の政治にうんざりしていたのですから。

現時点の世論調査(polling)によれば、橋本氏の新党は、与党(the ruling party)・民主党よりも多くの支持を集めています。





「民主党(Democratic Party of Japan, DPJ)」

現在の与党・民主党(DPJ)は、内輪もめ(infighting)と離党騒ぎ(defections)で頭がいっぱいになっているようです。



「自民党(Liberal Democratic Party, LDP)」

また、民主党に追い出された(ousted)自民党(LDP)は、どっちつかず(grey)で、斜に構えたままです(cynical)。

自民党の成すことといえば、露骨な議事妨害(brutish obstruction)。そのため、国会は膠着状態(gridlock)に陥り、日本の政治は漂流(drift)を続けることとなってしまいました。



「不確かな将来(an uncertain future)」

日本には、いつまでも漂流している余裕はありません。莫大な政府債務、急速な高齢化…。若者たちは不確かな将来(an uncertain future)に悩まされているのです。

それでも続く政治劇場(political theatre)。橋本氏が歓迎される素地は十分すぎるほどに整っておりました。



「小泉純一郎氏の記憶(memories of Junichiro Koizumi)」

橋本氏の姿に多くの人々は、かつての首相・小泉純一郎氏の記憶を思い出しました(evoke)。規制緩和(deregulation)を説いた小泉氏、異端児(the marverick)だった同氏の記憶を…。

それでも、橋本氏は小泉氏は異なります。そもそも小泉氏が支配階級(the establishment)の出身だったのに対して、橋本氏は正真正銘の部外者(a true outsider)なのです。それがまた橋本氏の魅力でもあります。





「台頭(prominence)」

橋本氏は地元大阪で、官僚機構(the bureaucracy)に切り込むことで名を上げました。そして、子どもたちのために教育バウチャー(vouchers)を配布したりと、その人気を高めていきます。

また、ドイツ式の「州(lander)」を目指す、地方分権(decentralisation)を全国へと訴えました。



「国会(the Diet)」

橋本氏は、衆議院(lower house)の定数半減、そして参議院(upper house)の廃止を提案しています。首相は国民による直接投票で選び、首相にはより強い権限をもたせることを望んでいます。

さらに、日本の平和憲法(pacifist constitution)を改正し、日本の集団的自衛権(the right to collective self-defence)を明らかにしたいとも思っています。



「右翼的なポピュリズム(right-wing populism)」

そうした橋本氏の姿勢は、外国勢には右翼的(right-wing)ポピュリズムと映るようです。日本の帝国主義時代の過去(inperial past)を、橋本氏は否定しているというのです。

そう見られることは、中国・韓国・ロシアなどとの領土問題では不利に働く怖れがあります。「これは近視眼的(a short-sighted)、もっといえば危険な思想だ」。



「好戦的な愛国主義(jingoism)」

折しも、日本は小さな岩礁(specks of rock)を巡って、隣国との海洋紛争(martime disputes)の危機にあります。同盟国(ally)であるはずの韓国との関係も最悪に冷え込んでしまっています(hit a low-point)。

そうした中、橋本氏の愛国心(jingoism)は隣国を挑発(provocation)してしまうかもしれません。





「分裂する政治体制(a fragmenting policical system)」

橋本氏の人気は、日本の政治を分裂させることにもなるでしょう。新党「日本維新の会」は300人ほどの候補者(candidates)を擁立する考えのようですが、30〜70もの議席を獲得する可能性があります。

ちなみに、橋本氏自身は出馬しない(not run)意向のようです。大阪市の問題を先に片づける(sort out)方針とのことです。



「連立(coalition)」

次の総選挙(general election)では、野党・自民党が大多数の議席(a plurality of seats)を獲得する見込みです。そしてさらに、過半数を占めるため、橋本氏の維新の会との連立(coalition)を考えるかもしれません。

しかし、維新の会で新人議員(freshman)となるであろう人たちは、当然経験が浅く(green)、もしかしたら、まだ知られていないスキャンダルを抱えているかもしれません(scandal-prone)。



「至極困難(tall order)」

もし、まだ見ぬ連立政権で対立が絶えないとしたら(be fractious)、橋本氏の理想の実現は至極困難(tall order)なものとなってしまいます。

結局は、膠着状態(gridlock)が続き、反射的な(knee-jerk)愛国心ばかりが先立ってしまう怖れもあります。



「少なくともあと1回、たぶん2回(at least one more, maybe two)」

どうやら、現在の壊れた政治体制(a broken system)に新しい秩序(order)が生まれるためには、一回の選挙くらいでは足りないのかもしれません。

それでも、国民たちは橋本氏の新たに起こした風に期待を寄せています。民主党が期待外れに終わりそうな今、日本国民はもっと確かな将来を見たいのです。

さあ、いよいよ「御維新」の始まりか?







英語原文:
Japan: The Hashimoto bandwagon rolls on | The Economist

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2012年09月19日

よみがえった不死鳥「JAL」。わずか2年半で再上場。


JAL:肥大化から再上場へ
Japanese Airlines : From bloated to floated

英国エコノミスト誌 2012年9月15日号より



「カリスマ経営者・稲盛和夫(Kazuo Inamori, an business guru)」

破綻したJAL(日本航空)の救世主(saviour)となったのは、カリスマ経営者(business guru)、稲盛和夫氏でした。彼は「京セラ」や「KDDI(元・第二電電)」の創業者でもあります。



「明るい禅(cheer Zen)」

稲盛氏の教えは、再建マニュアル(turnaround manual)として、小さな冊子にまとめられているのだそうですが、3ヶ月に一度、JALではその熟読に一日が費やされているとのことです(なかには、毎日議論する熱心な社員もいるようですが…)。

稲盛氏のカリスマの高さは、少々毛沢東を思わせるところもありますが、その思想はといえば、明るい禅のようなトーンを持っているということです。





「壮大な急降下(spectacular nose-dive)」

思えば、JALの経営破綻(bankruptcy)は、壮大なる急降下(nose-dive)でした。

2010年1月、会社更正法の適用を申請し、同年2月に上場廃止。負債総額は2兆3,221億円。企業としては戦後最大規模の大破綻だったのです。



「名門企業(blue-blooded firm)」

かつて、日本の誇る名門企業(blue-blooded firm)であったJALは、利益(profit)よりも威信(prestige)を重んじる風がありました。

そのため、同社が抱えるジャンボ・ジェットは世界最多を誇っていましたが、その実、半分空席(half-empty)の状態で運行されているという有様でした。

こうした風潮にあっては、破綻は時間の問題でもありました。



「削減、削減、削減(slash, slash, slash)」

大破綻したJALの舵取りを任された稲盛氏。一気に過去の無駄なゼイ肉をこそげ取ってしまいます。

ジャンボ・ジェットは全て手放し(shed)、路線数を減らし(slashed)、従業員は3分の1を削減(reduced)、賃金も大幅削減(cut)、企業年金までをも最大で半分カットした(slashed)のです。



「世界最高の収益性(the world's most profitable airlines)」

そうした血のにじむような努力の末、現在のJALの営業利益(operating profit margin)は、なんと17%にまで急上昇(surged)。

この17%という数字は、格安航空会社(LCC・Low Cost Carriers)のほとんどを上回る驚異的な数字です。そして、国内同業の全日空(ANA・All Nippon Airways)と比べれば、2倍以上の利益率です。





「新規株式公開(IPO / Initial Public Offering)」

上場廃止から約2年半、ついにJALは東証一部へ再上場を果たすこととなりました(2012年9月19日)。

一時は、再上場など夢の話したが、なんとなんと、わずか2年半で一気に再上場へとコマを進めたのです。カリスマ稲盛氏の手腕たるや、如何ばかりのものでしょう。





「巨大な救いの手(a huge helping hand)」

破綻したJALに巨額の資金援助を行ったのは、企業再生支援企業(ETIC・the Enterprise Turnaround Initiative Corp)というファンドです。このETICは主にJALの救済を念頭に(in mind)、国と日本の大手銀行が出資した組織でした。

そして、このETCはJALの株式購入(96.5%)という形で、3,500億円もの大金をヨレヨレのJALに投資することになったのです。当然、賛否両論、この巨費が消えてなくなるという不安も根強くありました。



「莫大な見返り(a healthy payback)」

ところが今回、JALの再上場を受けて、ETCは保有していたJAL株すべてを売却しました。そして、ETCが得た利益は3,000億円近く。つまり、2年前の3,500億円は、倍近く(almost double)になって返ってきたのです。なんと凄まじいリターンの投資だったのでしょうか。

結果的に、JAL再建のための公的資金は、国民負担がまったくなかったどころか、とんでもない利益を国にももたらすこととなったのです。



「債務免除(debt waivers)」

JALが見事に再建を果たした背景には、5,000億円を超える債務免除(debt waivers)、つまり借金の帳消しがあったことも忘れてはなりません。

この借金の帳消し(the write-offs)分だけで、ボーイング社の最新ドリーム・ライナー(787)を44機買って、まだお釣りがくるほどです。。





「不公平なアドバンテージ(the unfair advantages)」

一方、国内同業(stablemate)のANA(全日空)は、同じ787を自力で購入しています(当たり前ですが)。これでは、ANA(全日空)が文句を言うのも仕方ありません。なにせ、ANAのほうがずっと以前から経営的に優れている(better-managed)という評判が高かったのですから。

ちなみにJALのほうには、さらなる特典もあります。今後7年間にわたって、法人税が免除されるのです。それは過去の赤字の繰り越し、繰越欠損金によるものです。



「フェイスブックとは違う(unlike Facebook)」

JALの再上場は、全世界でも最大規模となりましたが、同時に思い起こされるのが、同じく巨大上場となったフェイスブックのケースです。鳴り物入りでデビューしたフェイスプック株は、公開と同時に急落(immediate slump)、いまでも公募価格(38ドル)の半値以下にまで落ち込んだままです。

JAL株の場合は、フェイスブック株と違い、その売り出し株価が低めに設定されています。今回の公開価格3,790円は、株価収益率(PER)にしてANAの半分足らず。世界平均を大幅に下回っているのです(much lower)。



「忠誠心(the loyalty)」

また、JALの株式は顧客の忠誠心(the loyality)によって支えられているとも言われています。JALの提供する株主優待(investors coupons)によって、安く飛行機に乗ることができるというのが、大きな魅力です。

その証拠に、JAL株の70%は個人投資家(individual investors)が保有しているのです。



「サービスの評判(reputation for service)」

さて、コストを徹底的に削減したJALのサービスの質はどうなったのでしょうか。

最近、東京-ソウル便に乗ったというエコノミスト誌の記者によれば、美味しいランチがエコノミークラスの苦痛(the burden)を和らげてくれた(leavened)とのことです。山椒グリルチキン、アジの塩焼き、菜の花のゴマ和え、締めくくりにイチゴのプチ・シュー。

大満足の彼は、これを最も希望に満ちた側面(the most uplifting aspect)と賞賛しています。



「展望(the outlook)」

昨今の世界の航空業界は弱含んでいます。そして、格安航空会社(LCC)は相次いで日本に上陸しています。

値段が高めに設定されているJALなどのフルサービス・キャリア(FSC)には、新たな戦い方が求められているのです。その点、長距離用(long-haul)のドリームライナーなどは大きな強みともなり得ます。

JALは収益が見込める新路線(lucrative new routes)の開拓に取り組んでいるとのことです。



「アジアの他地域への発着(to and from the rest of Asia)」

幸い、アジアの他地域を結ぶ航空は急増しています。そうした、アジアの新しい経済ハブと日本との便が増えれば、収益の伸びにつながる可能性もあります。

また、停滞する日本国内市場が活気あるアジアとのつながりを増すことは、航空会社の利益にとどまらず、日本株式会社(Japan Inc)全体の新たな地平を切り開くことに貢献するかもしれません。



JAL再建の陣頭指揮をとったカリスマ稲盛氏の再建マニュアルには、「感謝の念をもて(Be thankful)」というモットー(mantra)があるそうです。

もし、よみがえったJALの翼が日本全体をも持ち上げることができたなら、その時には、日本がJALに感謝することになるのかもしれません(Japan would be grateful to JAL)。







英語原文:
Japanese Airlines: From bloated to floated | The Economist

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2012年09月14日

引きこもりたがっている世界貿易。先の大恐慌の教訓とは?


閉じ込められた世界貿易
International trade : Boxed in

英国エコノミスト誌2012年9月8日号より



「不吉な兆候(ominous)」

貿易の活性具合いは、海の港に目をむければよく分かります。

港(docks)や埠頭(harbours)が賑わっていれば、業者たちが輸出入に忙しいということであり、波止場(quays)が閑散としているのならば、それは不吉な兆候(ominous)だということです。



「現実化(come to pass)」

2011年の終わり頃から、大きな港(big ports)のデータは不安定(choppy)になり始めていましたが、その不吉な兆候は今年、世界の景気減速として現実化してしまいました(come to pass)。

今年の第2四半期、イギリスとインドで輸出が4%以上減少し、ロシアと南アフリカでは8%以上も落ち込んでいます。これは、シンガポールや香港、アイルランドやベルギーなどの、より開かれた貿易依存の高い国家ほど大きな打撃となっています。





「明らかな原因(the obvious cause)」

貿易(trade)が落ち込む原因(cause)は明らかです。それは外国人たちの購買力(buying power)の低下です。買ってもらえなければ、輸出はできないからです。

そのため、貿易の好不調は、世界のGDP(国内総生産)の上下と綿密に連動する(track)ことになるのです。たとえば弱体化著しいヨーロッパの輸入は4.5%も減少していますし、その逆に(in contrast)、石油が好調な中東諸国は7.4%も輸入を増やしています。



「唯一の要因か?(the only factor)」

貿易とGDPが連動して動くのは確かなことですが、はたして貿易を左右するのはGDPの変動ばかりなのでしょうか?

IMF(国際通貨基金)の予測によれば、来年2013年は貿易が5.1%拡大することになっています。この予測は世界各地で金融緩和策が成功することを前提としたものだそうですが、なんとも楽観的(too optimistic)な数字です。



「期待薄(little hope)」

一方、最新の船舶輸送の統計(the latesst shipping data)は、急回復(a rapid rebound)が期待薄(little hope)であることを示しています。とりわけ、アジアからヨーロッパへ向かうコンテナ輸送の減少は深刻で、前年同月比で13.2%の減少となっていました(ロイズ・リスト)。

IMFの机の上では楽観的な数字が出ているものの、現実の港の状況は、それよりも厳しいもの(bleak)のようです。



「別の要因(other factors)」

貿易とGDPの連動は、なにも完璧なものではありません。先頃まで、貿易はGDP以上に速いスピードで上昇しておりましたし、今年の落ち込みは、GDPの減速以上の急落でした。

つまり、貿易とGDPとの間には明らかな緩みがあり、そこに別の要素が入り込んで、その変動幅を大きくしたり、小さくしたりしているということです。





「考えられる要因(one candidate)」

その別の要因として考えられるのは、貿易金融(trade finance)です。

たとえば輸出業者(exporters)は、製品を売ってから代金を回収するまでの間にギャップ(lag)が発生します。つまり、お金を受け取るまでに時間がかかるのです。そこで必要となるのが、短期(short-term)の貿易金融。代金を回収するまでの少しの間だけ銀行からお金を借りて、キャップを埋めるのです。

その貿易金融の貸し手が少なくなっているというのが、貿易低迷の一つの要因となっているということです。



「縮小(cutting back)」

貿易金融を大幅に縮小している(cutting back)のは、景気後退に陥っているユーロ圏の銀行です。

もともとヨーロッパの銀行は貿易金融で大きな役割(major player)を果たしていました。ユーロ圏の大手銀行は去年の世界貿易金融のじつに36%を担っていました。そのメジャー・プレーヤーが手を控えてしまっているのは、貿易にとっては大きな痛手なのです。



「縮小の理由(one reason for withdrawal)」

ではなぜ、ユーロ圏の銀行は貿易金融を縮小してしまったのでしょうか?

その一因はドル不足です。景気後退によってユーロの価値が下がってしまったことにより、ユーロ圏の大手銀行はドル資金を得にくくなってしまったのです。これでは主にドル建てで行われる国際貿易を担えません。



「容易な削減(easy to prune)」

もう一つの理由は、苦境に陥った銀行がスリム化を図るのに、貿易金融の縮小がもっとも手っとり早かったからです。なぜなら、主に短期的な性質(short-term nature)をもつ貿易金融は、すぐに削減できたのです(easy to prune)。

ユーロ圏の銀行が抜けた穴は、日本や中国、ブラジルなどの銀行が埋めようとしているのですが、以前ほどふんだん(abundant)に資金は供給されていないようです。





「何がなんでも貿易戦争は避けよ(avoid trade wars at all costs)」

何がなんでも(at all costs)、貿易戦争(trade war)は避けよ、これは1930年代に世界大恐慌に陥った際の最大の教訓(the lessons)でした。というのも、世界各国が自国良かれ主義に走った結果、世界恐慌はその穴を自ら深めた苦い経験があったからです。

その教訓によれば、自国を守ろうとする保護貿易主義(protectionism)の行き過ぎが、諸悪の根元となりうるということです。



「保護貿易主義の高まり(increased protectionism)」

今回の危機の初期段階において、世界各国は先の世界大恐慌の教訓を肝に銘じているかのようでした。

しかし最近、その教訓を黙殺するかのように、世界各国が保護貿易主義に走り始めています。アルゼンチンはスペインの企業を国有化し、アメリカと中国は、鉄鋼(steel)を巡る論争を激化させています。また、ブラジルは輸入100品目にたいして関税(tariffs)の引き上げを発表しました。



「死んだも同然(as good as dead)」

11年前から始まったドーハ・ラウンド(多角的貿易交渉)は、各国の貿易障壁を取り除くことで世界のGDP成長を目論んでいますが、いまや死んだも同然(as good as dead)です。

ドーハ・ラウンドのような全体的な貿易自由化よりも、世界各国は個別に、数国間もしくは2国間などによる地域貿易協定(reagional deal)を好んでいるようです。その絡まり合った様は、「スパゲティ・ボール(sgaghetti bowl)」と皮肉られています。



「つまらない保護貿易(the petty protectionism)」

それでもドーハ・ラウンドには、新協定(a new deal)で貿易円滑化(trade facilitation)に関して合意がなされることが期待されています。

もしそれが実現すれば、つまらない保護貿易(the petty protectionism)の不利益は相殺されて余りある成果をもたらす可能性もあります。

しかし残念ながら、自由貿易を後押ししようとする潮流(the tide)は、世界各地ですっかり弱まってしまっている(ebbing)ようでもあります…。



世界を守るよりも自国を守る。これは正しい発想なのかもしれません。しかし、先の世界大恐慌よりも各国のつながりが密になっている今、その弊害は1930年代以上のものとなる恐れもあるのです。

今の時代、箱に閉じこもっている(boxed in)ばかりが安全とは限らないようなのです…。






英語原文:
International trade: Boxed in | The Economist

posted by エコノミストを読む人 at 14:30| Comment(0) | 世界 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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