メキシコの銀行:テキーラ危機からサンライズへ
Mexican banks : From tequila crisis to sunrise
英国エコノミスト誌 2012年9月22日号より
「危なっかしい銀行(dodgy banks)」
メキシコの銀行といえば歴史的に、安心してお金を預けておけるような場所ではありませんでした。
今から20年ほど前の1995年、通貨ペソの切り下げ(devaluation)とテキーラ危機(tequila crisis)によって、彼らは破綻した(collapsed)のですから。
「無責任な貸し出し(the irresponsible lending)」
破綻したメキシコの銀行の救済(bail-out)に乗り出した友好国や近隣国は、その無責任な貸し出し(the irresponsible lending)に唖然とし、舌打ちした(tut)ものです。
「様変わりした事態(things have changed)」
メキシコの銀行が危なっかしかったのは今は昔。いまや、欧米の銀行よりもたくましくなっています(sturdier)。
逆に欧米の銀行のほうが、もがき苦しみ、そこにメキシコの銀行が命綱(lifeline)を差し出している状況なのです。
「子会社(subsidiaries)」
欧米の銀行がメキシコに開いた子会社たちは、親会社以上に優秀で、親会社の自己資本比率(capital ratio)を満たすための大きな助けとなっています。
スペインの銀行「サンタンデール(Santander)」は、メキシコの子会社を上場させることで資金を調達しました。
「欧米銀行よりも有利な条件(a better deal than European or American banks)」
サンタンデールのメキシコ子会社の売出価格(the offering)は、純資産(book value)の2倍。これは欧米の銀行以上に有利な条件(better deal)です。
なぜなら、このメキシコ子会社の株主資本利益率(return on equity / REO)は20%近く、欧米平均の約2倍も収益性が高いのです(profitable)。
「親会社よりも高い格付け(less risky than their parents)」
スペインのビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行(BBVA)のメキシコ子会社、バンコメール(Bancomer)は、グループ全体の利益の3分の1をも稼ぎ出しています。
メキシコに置かれたこうした子会社は、親会社よりも信用力があることも珍しくなく、格付け機関ムーディーズは、親会社よりもリスクが少ないと判断しています。「藍は藍よりいでて、藍より青し」
Source: economist.com via Hideyuki on Pinterest
「ブラジルの影(Brazil's shadow)」
メキシコの銀行の良好さは、同国経済の好調さの現れでもあります。
長らくメキシコはブラジルの影(Brazil's shadow)になっており、とりわけ注目されることもありませんでした。ところが昨年、メキシコの成長率は偉大なライバル・ブラジルのそれを凌ぎ、今年もブラジルの2倍以上となる4%成長を達成する見込みです。
メキシコの銀行ばかりでなく、メキシコの国全体が脚光(the limelight)を浴びているのです。
「中国の減速(slowing growth in China)」
コモディティー(商品)を通じて中国経済と深くリンクしていたブラジル経済は、中国が減速することにより、それにつられて落ちていきました。
一方、メキシコは中国の減速が加速要因となりました。中国の賃金や輸送費(wages and shipping cost)が上昇するにつれ、メキシコの魅力が俄然高まったのです(increasingly attractive)。
アメリカ市場でも同様、中国、カナダがそのシェアを減らす中、メキシコばかりはシェアを拡大しています。
「用心深さ(their own caution)」
一度危機を痛感しているメキシコは、この軽快な成長(bouncy growth)に浮かれすぎず、十分な用心深さを保っています。
メキシコの民間債務(private debt)はGDP比で20%足らず。まったくバブルは膨らんでいないのです。ちなみに、浮かれたブラジルの民間債務は50%を超えています。
「守りすぎ(too safe)」
メキシコの銀行は安全第一の姿勢が強すぎると不満が出るほどの用心深さです。
メキシコ企業で銀行融資を受けられるのは全体の3分の1に過ぎず、中小企業(small firms)ともなると、ますます融資を受けられません。
「厳格な信用評価制度(a strict credit-scoring regime)」
銀行自身が運営する民間機関による信用評価(credit-scoring)は、顧客を等級分けするのではなく、ただ単に信用力があるか否か(creditworthy or not)に2分するだけです。
ブラックリストに載せるかどうかの判断は、その最低基準が設定されていません(no lower limit)。そのため、電話代(phone-bill)を滞納した程度でブラックリストに載せられ、融資を受けられなくなる(ineligible for loans)ケースまでがあるとのこと。
凄まじいまでの貸し渋り(the stinginess)です。
「法外な金利(steep rates)」
幸運にも融資適格であるとされた人々も安穏とはしていられません。次に彼らが直面するのが法外な金利(steep rates)です。
基準金利が4.5%に設定されているにも関わらず、実際のクレジットカードは40%を超える金利を請求するのです。
その逆に、銀行預金者の金利(interest)は極めて低く、それはインフレ率を下回るほどです(below-inflation)。つまり、銀行に預けておいたカネは、時とともに増えるどころか、目減りしてしまうのです。
「非常に多い潜在的顧客(so many potential new customers)」
審査が厳しすぎて、お金を預けても利子が低い。さらには法外な金利。そんなメキシコの銀行は、経営的に大丈夫なのでしょうか?
幸いにも、メキシコの銀行は頑張らなくても利益を出せる(no need to work that hard to turn a profit)そうです。それほどまでに潜在的な顧客(potential new customers)が大量にいるのです。
メキシコの人口は1億人以上、その中所得階級の潜在力には偉大なるものがあるようです。
「増える銀行貸し出し(lending is rising)」
貸し出しの基準が異常に厳格なのにも関わらず、メキシコの銀行の貸し出しは年間15%ものペースで増加を続けています。この最速に近いペースが続けば、あと10年もせずに銀行貸し出しがGDP比35%に達する見込みです。
こうした需要増に対応するため、スペインの銀行サンタンデールはメキシコ国内の支店を年間100店舗以上追加しているとのことです。
「たくさんの祝うこと(plenty to celebrate)」
現在の安定した経済成長とメキシコの銀行の健全性が歩調を合わせれば、その成長はより着実なものとなるでしょう。株式の上場(listing)も増えれば、メキシコの証券取引所(stock exchange)も活気を増します。
なるほど、メキシコには祝うべきことが山とあるようです(plenty to celebrate)。
ただ、祝いすぎて、テキーラを飲み過ぎる(go easy)のだけは気をつけなければならないのかもしれません。今のところは、テキーラ危機(1995)の痛みを身体が覚えているようではありますが…。

英語原文:
Mexican banks: From tequila crisis to sunrise | The Economist