2012年12月09日

インドの巨大企業「タタ」。退任するラタン・タタ氏の遺したものとは?


インドの資本主義:ラタン・タタの遺産
Capitalism in India : Ratan Tata's legacy

英国エコノミスト誌 2012年12月1日号より



「礼儀正しく、控え目で上品(Polite, elegant and reserved)」

過去20年間にわたってインド産業界(India's corporate scene)の王として君臨してきた「ラタン・タタ(Ratan Tata)」氏。

そんな彼は礼儀正しく(polite)、控え目で上品(elegant and reserved)。インド人の多くはタタ氏に尊敬の念を抱いているといいます(look up to him)。イタリア人がフィアットのジャンニ・アニェッリ(Gianni Agnelli)氏を、あるいはアメリカ人がJPモルガンに敬意を抱くように。



「タタ・グループのおかげ(all courtesy of Tata firms)」

タタ・グループの傘下企業は多岐にわたり、それらの事業はインド人の生活に深く関わっています。

たとえば、家に住み、自動車を運転し、電話をかけ、料理に味付けし、保険に加入し、時計を身につけ、靴を履いて歩き、エアコンで涼み、ホテルで過ごす、これらあらゆる場面でインド人はタタ・グループの恩恵を受けることになるのです。





「インド最大の複合企業(India's largest conglomerate)」

タタ氏の率いるコングロマリット(複合企業)は、インド最大の民間企業であり、インドの株式市場の7%を占めるほどです。インドの法人税(corporate tax)の3%、物品税(excise duty)の5%を納めるのもタタ氏のもつ企業群なのです。

そのタタ氏は、12月28日をもってタタ・サンズ(Tata Sons)の会長を退任することとなります。



「昔ながらの君主(an old-style dynast)」

ラタン・タタ氏は、ハイテク業界の天才たち(the high-tech wizards)のようなオタク系の起業家(geekish entrepreneurs)ではありませんでした。

彼は創業144年もの長い歴史を誇るタタ財閥の5代目(fifth generation)であり、昔ながらの君主(an old-style dynast)だったのです。





「王様然として秘密主義(being regal and secretive)」

ラタン・タタ氏の功績は多大なれども、それを批判する向きも少なからずあります。批判派はタタ氏のことを王様然とした秘密主義だ(being regal and secretive)と非を鳴らすのです。

また、グループ内で大きな成功を収めているハイテク部門のTSCは、この部門にタタ氏がほとんど手を出さなかったことを非難します。



「相次ぐ買収(a wave of takeovers)」

確かにタタ・グループは企業財務の模範(a financial paragon)とは言い難い側面があります。

相次ぐ買収(a wave of takeovers)によって、債務を抱えた体力のない事業(flabby and indebted businesses)もグループ内には存在します。タタ財閥を悪く言えば、寄せ集めのコングロマリット(a ragbag conglomerate)ともなってしまいます。



「強烈な教訓(powerful lesson)」

そうした負の側面をタタ・グループは持つにしろ、ラタン・タタ氏の功績(career)は強烈な教訓(lesson)を教えてくれます。それは、外の世界から得るものは、失うものよりも遥かに大きいということ(far more to gain than lose)です。

この教訓は、内向きになりがちなインド(an introverted india)にとって、極めて重く響きます。



「グローバル化(globalisation)」

タタ氏にとって、グローバル化(globalisation)に対する抵抗はありませんでした。若き日の彼はアメリカで建築学(an architect)を学んだのであり、今でも現場の若手エンジニアと議論することを好みます(経営報告書を読むよりも)。

インド経済が開放路線に舵を切る前から、タタ氏は競合する海外企業の買収が必要となることにも気が付いていたといいます。



「外国企業の買収(foreign takeovers)」

タタ氏の大型買収(takeovers)には光もあれば影もありました。

たとえば、イギリスの鉄鋼大手(giant steel firm)コーラスの買収は財務上の大失敗(a financial disaster)に終わってしまいましたが、ジャガー・ランドローバーの買収は大成功(a triumph)でした。

しかし、その成否に関わらず、タタ氏の大胆な行動は世界にインド企業ありということを強烈に知らしめました。新興国インドの企業が、グローバル企業のトップの一角(the top table)に座るに相応しいことを身をもって示したのです。



「グローバル化の堅持(a firm advocate of globalisation)」

内向きなインド(an introverted india)には、流通業から石炭、新聞に至るまで、あまりにも多くの保護された産業(protected industries)が存在します。

そんな中、タタ・グループによる世界への飛躍は鮮烈でした。そして、ミタルやインフォシスなどがその後に続くことになったのです。





「清廉さ(integrity)」

また、ラタン・タタ氏の清廉さ(integrity)も、汚職まみれのインド(corruption-obsessed India)ではひときわ輝いていました。彼は公私の場を問わず一貫して、汚職に反対する姿勢を毅然と貫いたのです(stood against corruption)。

しかし残念なのは、タタ・グループといえどもスキャンダルを避けて通れなかったことです。悪徳トレーダー(a rogue trader)もいれば、通信免許の不正割当を巡る騒動(furore)もありました。今なお、巨大企業のどこかでは不正(funny business)が行われているかもしれないのです。



「縁故主義(crony capitalism)」

ラタン・タタ氏は既得権益(vested interests)への攻撃姿勢も貫いていました。企業が政治家にカネを払って便宜を図ってもらう縁故主義(crony capitalism)には批判的だったのです。

それはもしかしたら、自身のタタ財閥の過去が政治家に取り入ること(toadying up to politicians)によって成り立ってきた歴史に対する反省だったのかもしれません。





「インドにとっての脅威(a threat to India)」

今、インドにおける縁故主義(crony capitalism)は、同国にとっての大きな脅威(threat)となっています。

1990年代にはタタのように清廉潔白(squeaky-clean)になろうとした企業がインドにも多く現れ、一時期のインド経済は株式を公開するという透明性の高い方向に進もうとしていました。

ところが、この10年で状況は後退してしまったようです(gone backwards)。あまりに多くの同族会社(famiry firms)がガバナンス向上に関心を持たなくなり、株式を発行して支配権を手放すことを嫌うようになっているのです(unwilling to relinquish control)。



「政府に支えられたゾンビ(state-supported zombies)」

レント・シーキング(rent-seeking)と呼ばれる部門は、インド縁故主義(crony capitalism)の巣窟であり、政府の関与が著しくて外国企業との競争がほとんどありません(little foreign competition)。

この部門における汚職スキャンダルは日常茶飯事であり、仮りに窮地に陥ったとしても政府に助けてもらえます(鉱業やインフラなど)。しかし、国営銀行(state-run bank)から受けた融資を損失処理(write down)せずに繰り延べることで(roll over)、インドにはゾンビ化する同族企業が後を絶たなくもなってきているといいます。



「疑念(suspicion)」

汚職にうんざりしている(fed up)インド国民は、腐敗防止機関(anti-corruption agencies)によって厳しく企業を監視するようになりました。企業は鏡の間(a halls in mirrors)のようにされ、疑惑を糾弾するための指は、今やあらゆる方向を指し示しているのです。

しかし、その疑念と窮屈さによって、誠実な官僚(clean officials)までもが槍玉に挙げられてしまうという不幸にも陥ってしまいました。それゆえに、インドの民間投資は落ち込んでしまい、引いてはインド全体の経済成長を10%から半減させることにもなってしまったといいます。



「時代の先(ahead of time)」

1991年にタタ・グループのトップに立ってから、ラタン・タタ氏は公然と、かつ一貫して汚職に立ち向かってきました。その目は明らかに時代の先(ahead of time)を行くものでした。

彼は封建的な企業経営者(federal corporate leaders)の最後の一人でありながら、より開放的な次世代経営者の最初の一人でもあったのです。

その狭間に立たされているインドは今、ラタン・タタという稀有なる人物の退任をどう受け止めるのでしょうか? 時代を加速させようとするのか、それとも縁故主義に引き釣りこまれていくのか? 内に目を向けすぎて疑念ばかりを膨らませていくのか、それとも外へと目を外へと向かっていくのか?

インド10億人の願いは明白でありながら、もうしばらくは苦闘が続きそうでもあります…。







英語原文:
Capitalism in India: Ratan Tata’s legacy | The Economist

posted by エコノミストを読む人 at 06:48| Comment(5) | 企業 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年12月05日

4つ巴で競い合うインターネットの巨人たち


巨大インターネット企業の戦い:生き残りをかけて
Battle of the internet giants : Survival of the biggest

英国エコノミスト誌 2012年12月1日号より



「類まれな生き物(extraordinary creatures)」

4つの巨大インターネット企業、グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾンは類まれな生き物(extraordinary creatures)のようです。

いまだかつて、これほど急速に成長した巨大企業(giants)はあったでしょうか。彼らの触手(tentacles)はどこまで伸びていくのでしょう?



「資本主義の巨人(a colossus of capitalism)」

アップル(Apple)はいまや名実ともに資本主義の巨人(colossus)です。時価総額は世界一であり、世界の株式市場の時価総額の1.1%がアップル一社によって占めているのです(S&P500社の4.3%)。

同社のオンラインストア「iTunes」の利用者は4億2,500万人。アメリカの人口の1.3倍以上に上ります。





「誰もが認める世界的リーダー(the undisputed global leader)」

グーグル(Google)は検索とオンライン広告において、誰もが認める世界的リーダー(the undisputed global leader)です。

それに加えて、現在ではスマートフォンの4分の3にグーグルの基本ソフト(OS)である「アンドロイド(Android)が搭載されていることも見逃せません。



「オンライン小売と電子書籍(the online-retail and e-book)」

アマゾン(Amazon)はといえば、オンライン小売(online-retail)と電子書籍(e-book)。

さらに、あまり知られていない(behind-the-scenes)かもしれませんが、クラウド・コンピューティングにおいても、アマゾンは多大なる影響力を持っています。



「ソーシャル・ネットワーク(social network)」

ソーシャル・ネットワーク(social network)ならフェイスブック(Facebook)。

その利用者は世界中でなんと10億人(one billion users)。中国(13億人)、インド(12億人)に次ぐ、世界第3位の規模を誇る大国でもあります(アメリカの人口の3倍以上)。





「感嘆とともに不安も(fear as well as wonder)」

この4つの巨大企業が巻き起こした革命によって、消費者と企業は多大なる利益(huge benefits)を享受することとなりました。言論の自由(free speech)や民主主義の広がりをも後押ししたのです。

と同時に、そのあまりの巨大さには不安(fear)をも感じずにはいられません。もはや太刀打ちできる対抗馬はいないように見えるのですから…(choke off competition)。



「違反行為(transgressions)」

競争を阻害する恐れがあるとして、グーグルは規制当局(regulators)の精査(scrutiny)を受けています(欧州委員会とアメリカ連邦取引委員会)。

同社が検索結果を不正に操作しているのではないか(unfairly manipulate)、特許(patents)を利用してスマートフォン市場の競争を妨げているのではないか(to stymie competition)、などなど複数の違反行為(transgressions)で訴えられています。



「独占禁止法との戦い(antitrust battle)」

グーグルはそれらの疑い(the charges)に異議を唱えているものの、もし当局との協議がまとまらなければ、コストのかかる法廷闘争(costry legal fights)の泥沼にハマり込んでしまう恐れもあります。

かつて、10年前のマイクロソフトがウィンドウズとウェブブラウザーの抱き合わせ(bundling)で壮大な戦い(epic fight)を繰り広げましたが、今のグーグルはそうした独占禁止法との戦い(antitrust battle)の渦中に置かれているようです。





「勝者がほぼすべてを獲得する市場(winner-take-almost-all markets)」

インターネット企業が巨大化することに対する恐れは、それが消費者の利益(consumers' good)を脅かす危険性もあるからです。

たとえば、グーグルはアメリカの検索件数の3分の2以上を占め、ヨーロッパの一部市場では90%という途方もないシェア(a whopping 90%)を握っています。インターネットの市場は勝者のみがほぼすべてを獲得する市場(winner-take-almost-all markets)であるために、グーグルが勝者となっている今、その他の選択肢はなきに等しい状態になってしまっているのです。



「半ば独占(a quasi-monopoly)」

ソーシャル・ネットワークの分野においては、フェイスブックが半ば独占状態です(a quasi-monopoly)。

もし独占企業がその優位性(dominant status)を悪用したら…、そんな懸念をライバル企業は持っています。もはや、不公平なほどの有利さ(an unfair advantage)をインターネットの巨人たちは手にしてしまっているのです。



「壁に囲まれた庭(walled gardens)」

アップルのiPhoneは事実上、デジタル生活(digital lives)のリモコン(remote control)と化しています。

アップルの持つ独自のプラットフォーム(platforms)はたいそう魅力的であるため、オンライン・サービスにしろ、アプリにしろ、もうアップルの庭の中だけで事足りてしまいます(walled gardens)。そして、他社のプラットフォームへの移動が難しいようにも設計されているのです。



「吸収(gobbling up)」

インターネットの巨人たちの習性(behemoths' habit)として、将来有望な会社(promising firms)が出現すると、それが脅威(threat)となってしまう前に吸収してしまう(gobbling up)という傾向も見受けられます。

アマゾンは対抗馬となりそうだった靴小売のザッポス(Zappos)を買収し、フェイスブックはインスタグラム(Instagram)を、グーグルはアドモブ(AdMob)などなど、次々と大規模買収(big acquisitions)を繰り返しているのです。



「局所的な攻撃(surgical strikes)」

今のところ、規制当局(regulators)の対応は局所的な攻撃(surgical strikes)に重きを置いています。当局の狙い(goal)は問題行動(bad behavior)の抑制を話し合い、迅速に決着に持ち込むことなのだそうです。

しかし、それでは手ぬるい(too weak)との声も聞かれます。強気の批判派はグーグルを2つの独立会社に分割してしまえ(chop up into two)とまで言っています。



「企業解体(corporate butchery)」

しかし、巨大企業を解体することは、利益以上に害をもたらす危険性もあります(do more harm than good)。

インターネット企業のプラットフォームが巨大であるほど、消費者には利便性と使いやすさ(ease-of-use)が提供されます。企業ごとのプラットフォームがそれぞれの壁に囲まれているといえども、使い勝手にさほどの不自由さは感じられません。なにせ、その庭は広大なのです。



「4つ巴の争い(a war of all against all)」

そして今は、一時期のマイクロソフトが業界を専有している状況とは異なり、4人の巨人が4者4様に組んず解れつの争いを展開しています。

グーグルはアンドロイドOSでアップルに勝負を挑みかけ、いつの間にかアップルを抜いてしまいました。また、アマゾンのタブレット(Kindle)はアップルのiPadに真っ向勝負(head-to-head)を仕掛けており、フェイスブックはGoogle+(プラス)に追撃されています。





「小さな企業(smaller firms)」

ツイッターなどの比較的小さな企業も今、巨人たちの列(giant's ranks)に加わろうと熱意を燃やしています。ツイッターは大手からの合併の提案をことごとく撥ねつけているのです(rebuffed)。

インターネットの世界における成長は著しいため、たとえ小さな企業とて決して侮れません。なにせフェイスブックでさえ、ほんの8年前までは新興企業(start-up)に過ぎなかったのですから。



「創造的破壊の嵐(gale of creative destruction)」

ハイテク業界(tech world)は現在、急速な変化の真っ只中にあります。革新的な反乱者(innovative insurgents)は既存大手(incumbents)に戦いを挑み続けているのです。

あのマイクロソフトでさえ、流れが逆風に変わったことに気づくのが遅れました。パソコンのシェアはみるみる縮んでしまい、スマホとタブレットがそれに取って代わろうとしています。



「傲慢さ(arrogance)」

どうやら、現在のビッグ4といえども油断は禁物のようです。

もし自らの巨大さにのぼせ上がるようなことがあれば、独占規制当局(trustbusters)の餌食になるより先に、反乱者たちの嵐(gale of insurgents)に倒れてしまうかもしれません。

なにしろ現在のビッグ4は、敵の多さ(plenty of enemies)でも十分に定評があるのですから…。







英語原文:
Battle of the internet giants: Survival of the biggest | The Economist

posted by エコノミストを読む人 at 17:03| Comment(0) | 企業 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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