シリアSyria
国家の死
The death of a country
シリアが崩壊していくにつれ、中東全域は危険にさらされていく。世界は手遅れになる前に行動しなければならない。
英国エコノミスト誌 2013年2月23日
「崩壊(disintegration)」
反目しあう軍閥(feuding warlords)、イスラム主義者(Islamists)、武装集団(gangs)…、荒れ狂う戦闘の渦中にあって、もはや崩壊寸前(disintegrating)のシリア。
もはや国家としての機能(function as a state)は失われつつあります。
「第2のソマリア(a new Somalia)」
無数の武装組織(militias)が乱立するシリアにあって、アサド大統領の政府軍はそれら武装組織の一つに過ぎないかのようです(もちろん最大規模ではありますが)。
このままでは、シリアは第2のソマリア(a new Somalia)と化してしまいます。
※アフリカの角に位置するソマリアは、すでに崩壊国家であり、周辺海域を荒らしまわる海賊たちの根城となっています。
「暴力的対立(violent rivalries)」
シリアの分裂による破滅的悪影響は、中東全域、そして地域を超えて混乱を撒き散らす危険性が多大です。すでに、暴力的対立(violent rivalries)が負の連鎖を誘発しているのです。
シリアのアサド大統領が持つといわれる化学兵器(chemical weapons)が危険人物の手(dengerous hands)に渡るかもしれませんし、聖戦(jihad)が世界中で巻き起こるかもしれません。
「行動をためらう欧米(the West's hesitancy)」
今のところ、アメリカをはじめとする世界は、手をこまねいているようです(almost nothing to help)。
欧米諸国が行動をためらう理由の一つには、アサド大統領が一貫して暴力という戦略(a strategy of violence)を取り続けているというのがあるのでしょう。
「アラブの春(the Arab spring)」
2011年、北アフリカや中東地域で民衆蜂起(the uprising)が巻き起こった時(アラブの春)、シリアのアサド大統領は、戦車と戦闘機(tanks and gunships)でデモ隊を封じ込めてしまいました。
その結果、平和なデモ隊は武装組織(armed malitias)と化してしまい、砲撃された国民は住む土地を追われてしまいました(uprooted)。
「仲間のアラウィ派(his Alawite brethren)」
少数宗派であるアサド大統領のアラウィ派は、多数派のスンニ派を虐殺。他宗派(other sects)にも忠誠を強いています。
アサド大統領は、自分が失脚したら恐ろしい報復(terrible vengeance)が待っていると、自国民に脅しをかけているのです。
「宗派間の遺恨(sectarian hatred)」
当初、反政府軍を構成する各勢力は、同盟関係(allies)にありました。
しかし、戦乱が深まるにつれ、宗派間の遺恨(sectarian hatred)などから、お互いが敵対するようになってしまいました(target each other)。政府も敵ならば、他宗派も同じく敵ということです。
「カルト的な崇拝(the cultlike devotion)」
たとえ、アサド大統領が国家の統制を失いつつあるといえども、自身のアラウィ派からはカルト的な崇拝(the cultlike devotion)を受け続けています。
また、アサド大統領失脚後の混乱を恐れる人々からも、渋々ながら支持を得ているようです(the grudging support)。
「忠実な軍隊(loyal troops)」
アサド大統領は、いまだに5万人前後の完全武装した忠実な軍隊(so loyal, well-armed troops)を保持しています。
また、それほど忠実でもなく、それほど訓練されていない兵ならば、あと数万人はいるとのことです(less loyal, less trained)。
「ずいぶん先の敗北(a log way from losing)」
アサド大統領がこの戦いに勝てないのは確実ながらも、その敗北もずいぶんと先になりそうです。
というのも、彼の背後ではロシアやイラン、イラクなどが資金や武器を提供しており、レバノン最強の武装組織ヒズボラも、シリアに戦闘員を送り込んできているのです。
「多大なる苦しみ(suffering on such a scale)」
シリアでの戦闘が長引けば長引くほどに、民の苦しみは悲惨なものとなっていきます。
シリアではこれまでに戦闘で7万人以上が死亡し(claimed)、数万人が行方不明になっています(missing)。アサド政権により投獄された人は15〜20万人。200万を超える人々がシリア国内で家を失い、およそ100万人が国外での惨めな生活を強いられているのです。
「看過すべきでない(unconscionable)」
20世紀後半、大虐殺(the genocides)や内戦(civil wars)は看過すべきでない(unconscionable)と、世界は学んだはずではなかったでしょうか?
それでもアメリカのオバマ大統領は、軍事行動(military action)を起こすのに、人命救助(saving lives)だけでは十分な理由にならない(not a sufficient ground)と主張しているようです。
「強制的な平和(to impose peace)」
オバマ大統領が軍事行動をためらう理由の一つに、アフガニスタンとイラクでの苦い失敗があるのは明らかでしょう。
アメリカほど、強制的な平和の実現がどれほど難しいかを痛感している国は、他にありません。オバマ大統領は、アサド大統領が生み出した混乱(chaos)に巻き込まれるのはコリゴリなのです。
「弱ったアメリカ(a weary America)」
そもそも、アメリカは経済的に疲弊してしまっています。
もしここで、さらなる他国の災厄(another foreign disaster)に振り回されてしまっては…、アメリカ国内でのオバマ大統領の立場はますます危うくなってしまいます。
「理解できる、しかし誤っている(understandable, but mistaken)」
アメリカの立場は理解できます。しかしそれでも、エコノミスト誌はそれを間違いだと言い切ります。
遅かれ早かれ、アメリカはシリアの混乱に巻き込まれてしまう(be sucked into)、それが世界の超大国(the world's superpower)たるアメリカの宿命だ、とエコノミスト誌は言うのです。
「アメリカの国益(his country's interests)」
もし、アメリカが傍観している間にシリアが分裂してしまったら…、その地は武装勢力の手によって無法地帯(lawless territory)と化し、混乱に混乱を重ねることになりかねません。
そうなってしまうと、アメリカが中東で成さなければならないことの大半が水泡に帰してしまいます。たとえば、テロの封じ込め(containing)、エネルギー供給の確保(ensuring)、大量破壊兵器(weapons of mass destruction)の拡散防止…。
これらの失敗はアメリカの国益(interests)を損なうことにもなるでしょう。
「イスラエル、レバノン、ヨルダン(Israel, Lebanon, Jordan)」
シリアの反政府軍の2割程度は、過激な聖戦主義者(jihadists)だといいます。もし彼らが隣国のイスラエルを脅かせば、イスラエルは猛然と反撃してくるでしょう。
もしアサド大統領が、別の隣国レバノンにいる同じアラウィ派を扇動すれば、レバノンも引き裂かれる危険性があります。また別の隣国ヨルダンも然り、ただでさえ貧しく不安定なヨルダンはすぐにひっくり返ってしまうでしょう。
「火薬庫(arsenal)」
シーア派が多数を占めるイラクは(Shia-majority Iraq)、アサド大統領のアラウィ派との騒乱(fray)に巻き込まれかねません。そこにスンニ派も加われば、イランまでもが宗派間対立を深めることになるでしょう。
シリアには危険な化学兵器(chemical weapons)があり、イランには核兵器開発(a nuclear bomb)があると言われています。ゆえに、この地域の混乱は全世界に対する脅威(threatens)でもあるのです。
「何もしない(doing nothing)」
アメリカのオバマ大統領は、シリアの戦火(conflagration)が自然に燃え尽きるのを待っているようですが、その方針は失敗に終わりそうです。
事態は悪化するばかりなのです(deteriorate further)。
「破滅的な敗北か、対話か(ruinous defeat or talks)」
アメリカはシリアの破滅的な敗北(ruinous defeat)を見守っているよりも、反政府勢力との対話(talks)を始めるべきなのかもしれません。
少なくとも、今のシリアに残されている人々の保護は図らねばなりません。そのためには、飛行禁止区域(a no-fly zone)の設定なども、アサド大統領の空軍を抑えこむには有効なのでしょう。
「暫定政府(a transitional government)」
シリアの反体制派(Syria's opposition)から、暫定政府(a transitional government)を組織することや、過激な武装勢力以外(non-jihadist)に、対空ミサイル(anti-aircraft missiles)などの武器を提供することなども必要なのでしょう。
少なくとも、イギリスとフランスは、アメリカのそうした行動を支持するはずだ、とエコノミスト誌は言います。
「解放後のシリア(a liberated Syria)」
ここで厄介なのは、ロシアの存在です。欧州とアメリカは、粘り強くロシアを説得し、アサド大統領をバックアップすることを諦めさせなければなりません。
そのための交換条件としては、解放後のシリア(a liberated Syria)におけるロシアの利権(a stake)を約束するのも一手でしょう(第二次世界大戦末期のように…)。
「シリアの穏健派(moderate Syrians)」
しかし今のところ、アメリカに明快なシグナル(bold signal)はありません。
そのため、シリア国内の穏健派(moderate Syrians)は完全に見放されていると感じてしまっています(feel utterly abandoned)。
「シリア国民の血(Syrian blood)」
はたして、アサド大統領はいつまで権力の座に留まり続けるのでしょうか?
その間、シリア国民の血(Syrian blood)は流れ続けるばかりです(flow freely)…。


英語原文:
Syria: The death of a country | The Economist