2013年03月29日

中国企業アリババのもつ可能性、そして危険性。


中国の電子商取引
E-commerce in China

アリババ現象
The Alibaba phenomenon



中国の巨大企業は莫大な利益(enormous wealth)を生み出すかもしれない。中国の指導者たちが手出ししなければ(leave it alone)…。

英国エコノミスト誌 2013年3月23日号より



「世界一の電子商取引企業(the world's largest e-commerce company)」

一部の指標によれば(by some measures)、中国のアリババ(Alibaba)という企業は、いまや世界一の電子商取引企業(e-commerce company)だそうです。

ちなみに、中国の電子商取引市場はもうすでに、アメリカのそれを追い抜こうとしています。



「イーベイとアマゾンを足した以上(more than eBay and Amazon combined)」

アリババは昨年、合計で1兆1,000億元(約15兆5,000億円)の商取引(transactions)を処理しています。

この数字はなんと、アメリカ大手のイーベイ(eBay)とアマゾン(Amazon)を足した数字よりも巨額なのです。とんでもない成功(extraordinary success)といえるでしょう。



「元英語教師(a former English teacher)」

この巨大企業の創業者(founder)は、ジャック・マー(馬雲)氏。元英語教師(a former English teacher)だそうです。

その彼は今年5月に、CEO(最高経営責任者)の座を腹心の一人(a trusted insider)であるジョナサン・ルー(陸兆禧)氏に譲る(hand over)と発表しています。







「新規株式公開(IPO, Initial Public Offering)」

もし、CEO交代とともに新規株式公開(IPO)が発表されれば、それはフェイスブックの上場(Facebook's listing)以上の激震を市場にもたらす可能性があります。

上場当時、フェイスブックはその企業価値を1,040億ドル(約9兆7,000億円)と評価されましたが、アリババの評価額(valuation)はそれ以上という試算(estimates)も一部にあるそうです。



「フェイスブックのような失敗(a Facebook-like fumble)」

フェイスブックは上場以後、その評価額が630億ドル(約6兆円)と大きく後退してしまいました(slipped back)。もしアリババがそのような失敗(fumble)をしないのであれば、アリババは数年以内に世界一時価総額の大きい企業群の仲間入りをするかもしれません。

現在トップのアップルでさえ、2009年当時の価値はたったの900億ドル(約8兆5,000億円)だったのです(現在のアップルの時価総額は約40兆円)。



「揚子江のワニ(the crocodile in the Yangzi river)」

アリババの創業者であるマー氏は、かつてこう言っていました。

「イーベイは海のサメ(shark in the ocean)かもしれないが、私は揚子江のワニ(the crocodile in the Yangzi river)だ。海で戦えば負けてしまうが、川で戦えば勝つ」と。



「企業間のBtoBポータル(a business-to-business portal)」

アリババの創業は今から14年前の1999年。

そのスタートはアリババ・ドット・コム(Alibaba.com)という企業間のBtoBポータルサイトで、小さな中国製造業者(Chinese manufactures)と海外のバイヤー(buyers overseas)をつなぐのがその仕事でした。



「淘宝網(Taobao)と天猫(T mall)」

次に立ち上げたのが淘宝網(タオバオ)。これはイーベイとほとんど変わらない(not unlike eBay)消費者間のCtoCポータル。現在の取扱商品点数は10億近くで、世界で最もアクセス数の多いサイト上位20の一つとなっています。

また、アマゾンと似た天猫(Tモール)はBtoCポータルであり、世界企業であるディズニーやリーバイスなどのブランド企業(global brands)を、中国の中流階級(middle classes)につなぐ架け橋となっています。







「予想(forecast)」

中国の電子商取引の市場規模は、今後2020年までにアメリカ・イギリス・日本・ドイツ・フランスの合計(combined)を上回ると予想されています。

その旗頭であるアリババは目下、新興国(emerging economies)に進出しながら、海外に居住する中国人(Chinese overseas)の消費を取り込みつつ、世界的な拡大を続けているのです。



「斬新なオンライン決済システム(novel online-payments system)」

アリババによる支付宝(アリペイ)というオンライン決済システムは、顧客が商品に満足したことを確認した上で、販売元に代金を支払う仕組み(エクスクロー)になっています。

国家の法の支配(the rule of law)が弱い中国ですが、アリババはこの方法によって独自の信頼を築くことに成功しました。



「まだ活用されていない資源(untapped resource)」

決済システム・アリペイ(Alipay)によって得られた膨大な顧客情報(customer data)は、アリババの持つ最大の資源(greatest resource)ともなり得ます。

アリババは中国の中流階級の信用力(creditworthiness)、および消費性向(the spending habits)を誰よりも熟知・把握しているのです。



「金融部門アリファイナンス(Alifinance)」

アリババの金融部門であるアリファイナンス(Alifinance)は、すでに中国の大手金融機関にノシ上がっています。

中小企業向けの小口融資(microlender)から一歩踏み込んで、今後は一般消費者向けの融資を行う計画もあるそうです。アリファイナンスは実質的に、中国における金融自由化(liberalise)に一役買っているのです。



「竹の資本主義(bamboo capitalism)」

国営企業(state-owned enterprises)の居並ぶ中国経済。そしてその合間を縫うように無秩序に混在する民間企業(private-setor)。それが中国独自の「竹の資本主義(bamboo capitalism)」です。

国営企業の非効率さ(inefficiency)は嘆かわしいほどですが(woefully)、アリババなどの民間の台頭により、中国の小売・物流セクター(retail and logistics sectors)の生産性は上向きつつあるようです(boosting)。



「中国が大いに必要とする変化(the country's much-needed shift)」

国営企業主体の発展は、どうしても投資過多のモデル(an investment-heavy model)に陥ってしまいがちですが、アリババなどの民間力は、中国の消費力(consumption)を大いに掘り起こします。

この消費主導の成長モデルは、今後の中国が大いに必要とするもの(much-needed shift)に他なりません。



「危険水域(in dangerous water)」

中国におけるアリババの動きは本来、国家にとっても好ましいものであるはずです。ところが、アリババはある意味、危険水域(dangerous water)に入ってしまったのかもしれません。国内においても、海外においても…。

ややもすると、揚子江のワニが絶滅の危機に瀕している(endangered)、その様にまで倣ってしまうかもしれません。



「敏腕創業者の退任(the stepping aside of a formidable founder)」

揚子江のワニと讃えられた敏腕創業者(a formidable founder)の退任(the stepping aside)は、同社にどんな影響を与えるでしょうか。

まず、手を広げすぎた(overreached)アリババが躓いてしまう(stumble)という明白なリスクがあります。



「不透明なやり方(the murky way)」

数年前、親会社から分離独立(spin-out)させたアリペイは、その際の不透明なやり方(the murky way)に疑念を抱かれています。

同社の取扱い製品も然り。淘宝網(タオバオ)では、いとも簡単に模造品(knock-offs)を見つけることができます。



「海外からの胡散臭い目(with suspicion abroad)」

アリババは中国企業だというだけでも、海外から胡散臭い目で見られてしまいます(with suspicion abroad)。

中国の国営企業はアフリカで反感(a backlash)を買っていますし、中国の通信大手である華為(ファーウェイ)はアメリカで国家の敵(an enemy of the state)という烙印を押されてしまっています(branded)。



「嫉妬(jealousy)」

アリババにとっての最大の脅威(the greatest threat)は、じつは中国国内の嫉妬(jealousy)かもしれません。

中国の大手銀行は、アリババの金融部門に反対するロビー活動を展開しており、中国共産党はアリババの保有するあまりにも膨大な国民データに不安を募らせています。



「アリババの翼(Alibaba's wings)」

アリババの秘めるポテンシャルが発揮されれば、世界最高の企業も夢ではないでしょう。

しかし、正当な理由もなく(without good cause)その翼を抑えつけようとする力も確実にあります。

たとえアリババの進む道が、中国を良い方向へと向け得るとしても…。







英語原文:
E-commerce in China: The Alibaba phenomenon | The Economist

posted by エコノミストを読む人 at 18:09| Comment(2) | 企業 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年03月27日

自由貿易(TPP)に傾く日本


日本と自由貿易
Japan and free trade

やらないよりは遅いほうがマシ
Better late than never



疑わしきは罰せず(the benefit of the doubt)。

英国エコノミスト誌 2013年3月23日号より



「やるなら今(now or never)」

日本の新首相・安倍晋三氏は、3月15日にTPP(環太平洋経済連携協定)の交渉参加を発表しました。TPPとはアメリカを含む11カ国との自由貿易(free trade)のことです。

不安を抱く国民(uneasy attitude)に対して、阿部首相は「やるなら今しかない(now or never)」と訴えました。開かれた世界に一歩踏み出すのか、それとも孤立(isolation)へと逆戻りするのか(retreat)、そのどちらかだと言うのです。



「無色の中国(blank China)」

阿部首相が示した地図には、すでにTPP交渉(talks)に参加している国々が黄色で塗られています(coloured in yellow)。

日本は赤色。そして、その背後には無色の中国(blank China)が不気味に迫っていました(looming over)。



「潜在意識へのメッセージ(subliminal message)」

阿部首相は中国に関して直接は言及しませんでした。それでも、そのメッセージは明白だった(unmistakable)と自民党のベテラン議員は言います。

急速に台頭する中国に対抗するには(to counterbalance)、TPPという巨大な自由貿易協定に参加するしかない、それを阿部首相は国民の意識下(subliminal)に訴えたというのです。



「国内での抵抗(resistance at home)」

農村部で農業を営む人々の多くは、貿易自由化(trade liberalization)に反対ですが、彼らは同時に自民党の支持基盤でもあります。

もし阿部首相がTPPへの参加を目指すのであれば、彼らとの対立は必然であり、かなりの説得(a lot of convincing)が必要になるでしょう。



「日本の参加意思(Japan's intension to join)」

もし日本がTPPに参加したいのならば、阿部首相の言う通り、急ぐ必要もあります。というのは、日本がアメリカにその参加意思(intension to join)を正式表明してからでないと、アメリカ議会(congress)はその協議を開始できないからです。

アメリカでの協議は90日を要しますから、もたもたしていると、今年9月に予定されている次回の交渉会合に参加しそこねます。ちなみに、全体合意の期限(the collective deadline)は10月です。



「日本に対する複雑な思い(mixed feelings about Japan)」

TPP交渉に参加している東南アジア諸国(ブルネイ・マレーシア・シンガポール・ベトナム)は、おおむね日本の参加を歓迎しています(broadly welcome)。メキシコ、チリ、ペルーも賛成の可能性は高そうです(likely to be in favour)。

しかし、オーストラリアとニュージーランドは、あまり好意的ではありません。



「長引く交渉(spin out the talks)」

オーストラリアとニュージーランドは、日本が散々交渉を長引かせた挙句に(spin out)、結局は参加しないのではないかと心配しています。

ちなみに、日本とオーストラリアだけの2国間交渉(bilateral taiks)は、2007年以降、延々と続いているのです(drag on)。



「悪い前例(bad precedent)」

また、農産物(agricultural products)を保護しようとする日本が、悪い前例(precedent)をつくってしまうのではないかとの危惧もあります。

たとえば、日本のコメの関税は現在778%。こうした例外(exceptions)を認めてしまえば、アメリカは砂糖を、カナダは酪農家(dairymen)を新たな例外に加えようと動くかもしれません。



「厳しい戦い(tough fight)」

日本がすべての関税(tariff)を段階的にでも撤廃する(phased out)とは考えられません。アメリカは数十年前、自動車や牛肉、保険商品などで日本とやり合った経験もあります(cut their teeth)。

それでも楽観主義者は、今回の日本には交渉の余地がある(up for negotiation)と言います。



「TPP人気(the TPP's popularity)」

最近、日本国内では阿部内閣の支持率上昇にともなって、TPPを支持する声(popularity)も高まっています。

TPPへの参加によって、確かに安倍内閣は不満を抱く農協(the disgruntled farm lobby)の支持を失うかもしれません。しかし、それを補うほどのTPP支持派(pro-TPP)の票を得られる可能性もあるのです。



「TPP参加路線(the TPP line)」

与党・自民党(the ruling LDP)は今のところ、TPP参加路線(the TPP line)を維持しています。

農家との歴史的な関係(historical links)をよそに…。



「遅延の代償(a price worth paying)」

ほかのTPP参加国は、今年の10月までに交渉をまとめたい(wrap up)と思っています。

それでも、世界第3位の経済大国である日本を参加に引き込むことができるのであれば、その遅延(delay)は価値あるもの(worth paying)だと考えるかもしれません。



「野心的な自由貿易圏(ambitious free-trade zone)」

日本が加わるのであれば、韓国の追随を誘う可能性も十分にあります(might well follow)。

その日韓両国の背後には、アジア最大の市場である中国が鳴りを潜めています(lurk)。日本と韓国の参加は、明らかにその中国を刺激することでしょう。

しかし、日本とのバランス(counterbalance)はその時…。







英語原文:
Japan and free trade: Better late than never | The Economist

posted by エコノミストを読む人 at 13:45| Comment(2) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年03月22日

南米からやって来たローマ法王。清く正しく。


フランシスコ1世
Pope Francis

南半球から初めてのローマ法王
The first southern pope



ローマ法王フランシスコ1世は混乱(mess)を受け継ぐが、大きなチャンスも手にしている。

英国エコノミスト誌 2013年3月16日号より



「南半球出身(a southerner)」

まさか南半球の国、アルゼンチンから新しいローマ法王(pope)が選ばれるとは…。

それは、まさか東欧の国・ポルトガルから法王が選出された時(1978)と同様、大きな変化の前触れ(herald)なのかもしれません。当時は、鉄のカーテン(the iron curtain)の崩壊、そしてヨーロッパの再統一(the reunification)へとつながっていきました。



「大異変(an earthquake)」

1978年にローマ法王となったヨハネ・パウロ2世(John Paul U)は、455年ぶりにイタリア人ではありませんでした。この初の非イタリア人法王の誕生で、法王職(the papacy)はイタリア人のクラブ(a club for Italians)のようには見えなくなりました。

そして今回初めて、南半球出身(a southerner)の法王の誕生です。これで法王職はヨーロッパ人のクラブのようでもなくなりました。ある意味、アメリカのホワイトハウスが、自国初の黒人大統領を迎え入れたようなものです。



「改革派(a reformer)」

新法王となったフランシスコ1世は、改革派(a reformer)なのかもしれません。

自国アルゼンチンで彼は、お抱えのリムジンや宮殿のような司教邸を使わずに、質素なアパート(a humble flat)からバスで通っていたような清貧の士だったのです。



「門外漢(an outsider)」

フランシスコ1世は、法王になった最初のイエズス会員(Jesuit)でもあり、この意味でも彼は門外漢(an outsider)です。

イエズス会と言えば、フランシスコ・ザビエルでお馴染みでしょう。日本の戦国時代にキリスト教を伝えた人物が、その創始者の一人です。彼らは、堕落したカトリック教会の改革を志したのです。







「世界に類無き特権(quirky privileges)」

絶大なる特権(privileges)をもつローマ法王。

その善行(good works)は、孤児院(orphanages)から病院、舞台裏での和平交渉(behind-the-scenes peacemaking)に至るまで、国家として国連でも発言権を有しています。

その力は、ソビエト崩壊にも一役買い、中国の指導者たちの頭痛のタネ(headache)でもあるほどです。



「無用の痛み(needless pain)」

一方、ローマ法王の強すぎる力は、罪なき人々(innocent people)に危害を加えてしまうこともあります。

なぜ、アフリカでコンドームの使用(the use of condomes)に反対したのでしょうか? それはエイズウイルス(HIV)の感染拡大を助長してしまいました(helped to spread)。

数十年にわたり、多くの国で行われた性的虐待(sexual abuse)の隠蔽(cover-up)は? それは違法(illegal)ではなかったのでしょうか。



「カトリック法王庁の特別な地位(the Holy See's special status)」

ローマ法王は特別な権力を持ちながらも、バチカン銀行はマネー・ロンダリング(資金洗浄)も抑制できずにいます(failed to curb)。

前法王(ベネディクト16世)は、不手際なイスラム批判(clumsy criticism of Islam)によって、他宗教との対立(strife)を煽ってしまいました。



「信者たちの希望や恐れ(their hopes and fears)」

ローマ法王の取り仕切るカトリック教会というのは、全世界12億人の会員を擁する世界最大の組織です。富める者も、貧しき者も、あらゆる年齢、あらゆる環境におかれた人々が、新ローマ法王に期待し、そして恐れています。

新ローマ法王・フランシスコ1世は、その就任式でこう語りかけました。

「最も貧しく、最も弱く、最も軽んじられる人々を抱擁しなければならない」と。



「独身主義(priestly celibacy)」

エコノミスト誌は、カトリック教会の失敗はその独身主義(priestly celibacy)にあると論じています。

聖書(scriptural evidence)によれば、最初のローマ法王ペテロは独身ではなく、妻帯者であったことを示唆しています。それがなぜ、他の聖職者たち(clergy)に妻帯を認めないのか、と同誌は言います。



「タブー(taboo)」

結婚を禁じるタブー(taboo)がなくなれば、人口避妊(artificial contraception)の禁止(コンドーム等の禁止)といった他のタブーにメスが入る可能性もあります。

なにより、聖職者(the priesthood)の減少に歯止めをかけられるかもしれません。中南米ではまだ繁栄しているキリスト教も、ヨーロッパではその衰退が始まっているのです(declining)。



「急を要する改革(the urgent managerial reform)」

バチカンの運営上の改革(managerial reform)は差し迫っています。教会の運営は恥ずべきほど酷い(scandalously badly run)とエコノミスト誌は苦言を呈します。

聖職者の公務員たち(clerical civil servants)は派閥間の小競り合いを繰り返し(the squabbling cliques)、性的虐待のスキャンダルに加え、金銭スキャンダルも絶えません。



「聖なる使命(Holy writ)」

新法王、フランシスコ1世は何をすべきなのでしょうか? 幸いにも、この76歳の新法王はユーモアのセンスを光らせています。

「新しい法王を見つけるのに世界の果てまで探されたようですね!」。彼はそう同胞の枢機卿たち(the college of cardinals)に笑顔で手を振って、「物事がちょっとばかり危険になり始めましたね」と皮肉ってみせたり。



フランシスコ1世は常に「自分らしくあろう」と心に決めているかのようです。

彼は年老いた自分を、「良いワインは年月を重ねて味を増す」と表現しています。

さて、そのワインのお味は?







英語原文:
Pope Francis: The first southern pope | The Economist

posted by エコノミストを読む人 at 07:25| Comment(0) | ヨーロッパ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年03月20日

あまり変わる気のなさそうな中国


中国の政治

旧体制と大革命
The old regime and the revolution



中国は政治的な転換点(tipping point)に近づいている。

英国エコノミスト誌 2013年3月16日号より



「腐敗した死骸(the putrescent carcasses)」

なぜ、何千匹ものブタの死骸(carcasses)が川を下って上海に流れ着いたのでしょうか?

それらの死んだブタは、上流の畜産農家が投棄したものと思われますが、なんとも不気味で説明のつきにくい事件です(unexplained)。



「新・国家主席(new president)」

腐ったブタが上海に流れ着いた、まさにその週(3月の第3週)、中国では新たな国家主席(new president)に、習近平(Xi Jinping)氏が就任しました。

国家主席の就任という晴れのニュースと、無数の死んだブタという不気味なニュースが同居した3月の第3週、なんとも切れ味の悪い新政権の船出となったものです。






「汚染と汚職(pollution and corruption)」

汚染(pollution)や汚職(corruption)の話題が絶えない中国。

川に浮かんだ無数のブタは、その国家の何か腐ったもの(something rotten)を象徴しているかのようでした。



「独裁体制(authoritarian regime)」

中国共産党による一党独裁の体制(authoritarian regime)が、限界(its limits)に近づいていると考える人もいます。

アメリカの学者、アンドリュー・ネイサン氏は「中国に転換点(the tipping point)はあるのか?」という論文の中で、中国の独裁体制は1989年の天安門事件以来、もっとも限界に近づいていると述べています。



「一党独裁の崩壊(the demise of one-party)」

一党独裁の礎を築いたのは、第二次世界大戦後の毛沢東(Mao Zendong)。ゆえに、彼の死後ずっと(1976〜)、その崩壊(demise)が語られてきました。

ところが、その体制の打たれ強さ(resillience)といったら外国人たちの予想以上であり、今の今まで一党独裁は続いてきているのです。






「革命の寸前(the brink of revolution)」

それでも毛沢東の死後、十数年経った頃、中国は革命の寸前(the brink of revolution)までいきました。それが1989年の天安門事件(Tiananmen crisis)です。

同胞の社会主義国家であったソビエト連邦の崩壊も相まって、次に倒れるドミノ(the next domino)は中国だと目されていました。ところが、中国の耐久性たるや強靭であり(more durable)、国民の支持も思ったより強かったのです。



「中国ブーム(China booming)」

崩壊すると思われていた中国よりも脆弱だったのは、じつは先進諸国の民主主義の方でした。

欧米諸国が経済的に低迷する中(floundered)、中国はそれを踏み台にするかのようにして自国の経済を急成長させ、世界第2位の経済大国にまでのし上がったのですから。



「天安門を知らない世代(no direct memory)」

しかし、今の中国では独裁的な共産党に対する恐れ(fear)は薄れてきています(diminishing)。

天安門事件を直接体験した古い世代は、流血の弾圧(bloody suppression)の記憶が生々しく、共産党に対する恐れも少なくありません。ところが、その事件を知らない世代(25歳以下)はそうではないのです。

皮肉にも、中国政府は天安門事件を若者たちに知られないようネットまで封鎖してきたのですから(keep in the dark)。



「嘲笑か無視(mocking or ignoring)」

共産党を恐れない世代(25歳以下)は、いまや5億人にも上っています。

彼らの中で正面切って政府に反対するのは少数派で、大多数の若者たちはオンライン上で中国共産党をバカにするか(mocking)、完全に無視するか(ignoring)です。



「デモや抗議行動(demonstrations and protests)」

中国では、デモ(demonstrations)や抗議行動(protests)が急増しています(proliferate)。

農民たちは土地の強奪(land-grabs)に憤怒し、工場労働者たちも親たちの世代より反抗的です(less docile)。こうした政府を恐れぬ中間層(middle class)が拡大し、集団事件(mass incidents)は多発しているのです。



「不満うずまく中間層(discontented middle class)」

中間層の台頭(emergence)は、国家の在り方を脅かします。隣国の韓国や台湾などでは、そうした力が独裁政権を打倒したのです(brought down)。

中国の巨大な中間層は今、政府に不満タラタラです(discontented)。汚職や格差(inequality)、食品汚染や大気汚染。挙げ句の果てには、腐ったブタの死骸で飲み水が汚されたのです。そりゃ怒りもするでしょう(furious)。



「バラバラに散らばった不満(atomised grievances)」

インターネット時代の到来以前、中国全土の不満はバラバラのままで、それらが集積して一つの運動にまで発展することはマレでした。

ところが今、インターネットのみならず携帯電話の通信(mobile telephony)が、中国全土に散らばった不満を一つの形にしていける力を持っています。



「ヌカに釘(to pin jelly to the wall)」

かつての中国政府は、各地の不満をモグラたたきのようにハンマー(hummers)で叩き潰していれば、それで事足りていました。

ところが、今や叩いても叩き切れません。毛穴という毛穴から不満が噴き出しはじめているのです。中国政府は今なおハンマーと釘をたくさん持っていますが、それはまるでヌカ(jelly)に釘を打つような作業となってしまっています。



「強力な既得権益(powerful vested interests)」

中国政府の政治改革(political reform)を難しくしてるのは、強力な既得権益(vested interests)を握る勢力なのでしょう。

習近平国家主席は、収賄役人(freeloading officials)の一掃し、政府の合理化(streamlining)に取り組むと言っています。



「硬い骨にかじりついてでも(gnawing at a hard bone)」

習氏の決意は固いようです。彼の言葉を借りれば、「硬い骨にかじりついてでも、危険な浅瀬(a dangerous shoal)を渡れ」、と共産党に対して勇敢な改革を要求しています。

習氏に言わせれば、「歩きながらガムを噛む(chewing gum)」のは弱虫(wimps)のすることだそうです。



「一党独裁の強化(strengthening party rule)」

ここで注意しておかなければならないのは、習近平国家主席の言う改革(reform)とは、社会主義から民主主義への移行ではありません。

むしろその逆で、一党独裁の強化による共産主義(Communism)の発展であり、社会主義体制を中国風に自己改善(self-improvement)することです。



「他山の石(object lesson)」

習氏にとって、ソ連の共産党は失敗したのであり、ゴルバチョフ書記長は倣うべきではない他山の石(object lesson)にすぎません。

ソ連の失敗の原因は、軍の掌握の甘さだと考える習氏は、自分は軍の手綱(the grip on the military)をもっと強く握ると明言しています(spell out)。



「旧体制(old regime)」

なるほど、習近平国家主席の言う改革とは、旧体制(old regime)を強化することのようです。

フランス革命を題材にしたアレクシ・ド・トクビルは、旧体制が倒れるのは、変化に抵抗した時ではなく、期待を裏切ったときだ(dash the expectations)、と言っています。

はたして習氏は中国国民の期待に応えることができるのでしょうか。



「ブタが空を飛ぶ(pigs will fly)」

中国共産党がこれからの時代を生き延びるために、改革は必要とされるでしょう。抜本的な政治改革(fundamental political change)も求められるかもしれません。

もし、それが中国に成される時、ブタは川を下るだけでは済まないでしょう。もう空を飛んでいるかもしれません(笑)。







英語原文:The old regime and the revolution | The Economist

posted by エコノミストを読む人 at 14:11| Comment(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年03月17日

倹約の先には道がない…? 立ち往生するイギリス経済


成長宣言
A growth manifesto

もう少し速くできないのか?
A little faster, George?



イギリス経済は行き詰まっている(stuck)。

英国エコノミスト誌 2013年3月9日号より



「今回はそうではない(not so this time)」

エコノミスト誌は過去170年間の長きに渡って、イギリス経済を見て続けてきたといいます。

1857年の世界不況(the global slump)では壊滅的なショック(devastating shocks)を受け、1930年代の世界恐慌(the 1930s Depression)では大打撃を食らったイギリス経済。

それでもイギリスはこれまで、大惨事の5年以内には立ち直ってきました。2度の世界大戦のあとですらそうです。

しかしながら、今回ばかりはそうもいかぬようです(not so this time)…。



「悲惨な状態(dismal)」

イギリスの通貨ポンドは下落し、貿易収支(the balance of trade)は悲惨な状態です(dismal)。イングランド銀行によれば、2007年にピークをつけている経済生産(output)は、あと2年後の2015年まで回復しない見込みです(実質ベース)。

イギリス経済は今、辛うじて前に進んでいる(barely bumping along)という苦しい状況なのです。



「逆風(ill wind)」

痩せ細った賃金(meagre wages)に、執拗なインフレ(stubborn inflation)。そんな苦境の中、国民の購買力(spending power)は上がりようがありません。

イギリス国民の52%は、今後ともに家計が悪化すると悲観しています(pessimistic)。



「構造的財政赤字(the structural budget deficit)」

こうした成長できない状況(failure to grow)は、企業や家計の痛手であることはもちろん、国家の財政(the books)を均衡させることをも難しくしてしまっています。

イギリス財務相(Britain's chancellor)ジョージ・オズボーン氏の掲げる緊縮計画(austerity)では、2017〜2018年までにGDP(国内総生産)比3.6%の構造的財政赤字(the structural budget deficit)を削減することを目指していました。

しかし残念ながら、もはやその目標には手が届きそうにないのです(out of reach)。



「格下げ(downgrade)」

鈍い成長(sluggish growth)のせいで、給付金(benefit)の支払いが高止まりする一方、税収(tax revenues)も落ち込んでいます。

イギリス政府の債務(debt)は現在、1.1兆ポンド(約160兆円)。2008年に比べると、180%にまで膨れ上がっており、それが格下げ(downgrade)の一因ともなってしまいました。



「借り入れコスト(borrowing costs)」

イギリス政府の借り入れコスト(borrowing costs)は、今のところ低いままですが、民間銀行は企業(firms)に対して、政策金利よりもはるかに高い金利(much higher rates)を課しています。

それが、2009年以来、企業の借り入れ(borrowing by businesses)が減り続けている理由の一端とされています。



「融資用資金供給(FFL, Funding For Lending)」

イングランド銀行にはFFL(融資用資金供給)という枠が設けられていますが、それを使うと、商業銀行(commercial bank)は資金調達コスト(funding cost)を引き下げることができるそうです。そして、その引き下げ分は融資先にも還元できるのです。

しかしながら、この枠組み(scheme)はとても小さく、国内融資残高(existing stock of British loans)の5%をカバーするに過ぎません。住宅ローン(mortgage)の金利は多少低下したようですが…。



「研究集約型の中小企業(research-intensive small firms)」

イギリスの将来の成長(future growth)のためには、イノベーションを導く研究集約型の中小企業(research-intensive small firms)への投資が必要とされています。

しかし現状はといえば、目先の配当ばかりを気にする金融市場(dividend-obsessed financial markets)に、そんな余裕はないようです。



「ゾンビ企業(the undead firms)」

イギリスの激減した生産高(a colossal reduction)に対して、倒産した企業は思ったよりも少ないようです。それは、経営者が倒産の汚名(the stigma of going bust)を嫌うからであり、銀行も融資の損失を避けたいからです(unwillig to take losses)。

しかし、完全に死なないゾンビ企業(the undead firms)の存在は、より優れたアイディアをもつ企業の台頭を妨げてしまいます。この点、イギリスの破産法(the bankruptcy rules)はアメリカに未だ立ち遅れている(still lag)と言えるでしょう。



「公的サイフ(the public purse)」

鉄道や道路、橋、そしてブロードバンドなどへの歳出は、1ポンド当たりの成長促進効果が高いそうです(a bigger boost)。

ところが皮肉にも、最も歳出が削減されたのがこの分野でした。公的部門の純投資額は、485億ポンド(約70兆円)から280億ポンド(約40兆円)に減少しています(43%減)。



「今すぐできるプロジェクト("shovel-ready" projects)」

道路や鉄道、信号機の補修工事など、小規模で地味な仕事(unglamorous projects)は、すぐにでも着工できます(shovel-ready)。そして、それらのインフラ整備は成長効果も高いのです。

それでも財務相は、大型プロジェクトの予算配分を待っているかのようです。



「土地の価値(the land value)」

不思議なことに、イギリスの企業は開発用地(development land)をそのまま眠らせていることも多いようです。それは構造物の建設が始まらなければ税金がかからないからです。

もし、地価(the land value)に対して課税されるのであれば、眠らせている土地は逆に高くついてしまうため、土地活用は促進されるでしょう。それは好循環(a virtuous circle)の始まりともなり得ます。



「自傷行為(self-harm)」

イギリス政府は移民の削減(to cut immigration)に取り組んでいるようですが、それは若者や高学歴者(the young and educated)の入国を阻むものでもあります。

過去一年間の移民の減少は、その大半が学生数の減少だったそうです。そうした能力ある人材(talented people)の拒絶は、将来的な自傷行為(self-harm)ともなりかねません。



「贅肉のついた公的部門(the tabby public sector)」

緊縮論(the austere talk)が叫ばれる中、イギリスの医療費(health spending)は特別に保護されています(598億ポンドから1,214億ポンドに倍増)。また、年金生活者(pensioners)向けの燃料費補助(fuel subsidies)などは、収入の多寡にかかわらず一律に支給されています(now-universal)。

「民間企業の経営者(private-sector boss)ならば、これほど急激なコスト増加を許すであろうか?」



「長期的な成長を促すインフラ(long-term growth-promoting infrastructure)」

エコノミスト誌の主張によれば、イギリスは長期的な成長(long-term growth)を促すインフラ整備に投資すべきだとのことです。

少なくとも、生産性の低い政府事業(less productive parts of Leviathan)からは資金を移すべきであり、借り入れを増やしてでも(more borrowing)、インフラに投資すべきだと言うのです。



「倹約家(the austere)」

はたして、倹約家(the austere)のオズボーン財務相は、今後どんな決断を下していくのでしょうか?

倹約一辺倒では、現在のイギリスを成長に向かわせることは、よほどに困難なようです。

「結局のところ、成長がなければ(without growth)イギリスは完全に行き詰まるのだ(going nowhere)」







英語原文:A growth manifesto: A little faster, George? | The Economist

posted by エコノミストを読む人 at 06:40| Comment(1) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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