アメリカの後ろで、もたつくヨーロッパ
Hobbling behind America
ユーロ圏の歩む長い道のりは、回復(recovery)か、衰退(decline)か。
英国エコノミスト誌 2013年5月25日号より
「アメリカのせい(blame America)」
ヨーロッパ人たちはとかく、欧州の危機をアメリカのせいにしたがる(like to blame)ようです。
でも数字を見てみると、ユーロ圏が危機対応(response)を誤ったこと(mishandle)は明白なようですが…。
「成長率(growth)」
たとえば成長率(growth)という数字を見てみましょう。
アメリカの経済生産(output)は、すでに危機前のピーク(pre-crisis peak)を超えてさらに成長しています。ところが、ユーロ圏はまだ失地(the lost ground)を回復できず、逆に縮小してしまっている(shrinking)のです。
「失業率(joblessness)」
失業率(joblessness)はどうでしょう。2008年の金融危機後は、欧州・アメリカともに10%を超えていました。
現在、アメリカの失業率は8%を下回るところまで低下してます。それに対して(whereas)、ユーロ圏では逆に12%にまで跳ね上がってしまいました。
「医療過誤(malpractice)」
もしヨーロッパのリーダーたちが医者だったら、今ごろ医療過誤(malpractice)で訴えられているかもしれません(might be sued)。
欧州経済という患者(patient)は、各国の緊縮財政(austerity)が厳しすぎたせいか、その病状が悪化しています。そして、そのしわ寄せで若い失業者たち(young unemployed)が路頭で苦しむことになってしまいました。
「大言壮語(bombastic talk)」
もはや、ユーロがドルと肩を並べる(rivalling)という大言壮語(bombastic talk)は立ち消えてしまったようです。
なんとかヨーロッパの衰退(the decline)を食い止めねばなりません。さもなくばヨーロッパは1980年代の中南米諸国のようにモロモロと崩れてしまうかもしれません。
「問題(issues)」
アメリカがシェールガス革命の恩恵を享受している(benefiting)その一方で、ヨーロッパはいかにエネルギー価格を引き下げるか(bringing down)に頭を悩ませています。
また、通常はもっと貧しい国を悩ますような問題、たとえば、どうやって銀行の秘密口座(secret bank accounts)に隠された資金を見つけ出すか、もしくは、どうやって多国籍企業(multinationals)に税金を払わせるか、といった問題に今のヨーロッパはかかりっきりになってしまっています。
「経済改革(economic reform)」
いままでドイツはしきりに財政規律(fiscal discipline)を唱えてきましたが、最近は経済改革(economic reform)のほうに重点が移っているようです。
1999年以降、ヨーロッパの赤字国(deficit country)では、労働者の賃金(wages)が生産性(productivity)をはるかに上回るペースで上昇していますが、そこに、ドイツの首相・メルケル氏は、改革の必要性を指摘しています。
「生産性と賃金(productivity and wages)」
イタリアでは、生産性(productivitiy)が向上していない(static)にも関わらず、労働者の賃金ばかりが上昇を続けました。まるで債務危機に陥ったスペインやポルトガルのように。
また、フランスの借り入れコスト(borrowing cost)はドイツ並みに低いのに、その実態はドイツよりも南ヨーロッパの債務国(debtor)によく似ているのです。
「正しい政策(the proper response)」
正しい政策(the proper response)は、生産性を引き上げ、賃金を引き下げる構造改革(structural reform)だと、ドイツは考えます。
ですが、賃金の引き下げは経済的な痛み(economic pain)を伴い、こうした改革は短期的に成果を上げるのが難しく(hard in the short term)、社会的不安(social strife)を招く恐れもあります。
「問題を抱えた国(troubled countries)」
ギリシャなど、問題を抱えた国(troubled countries)では、それでも調整が進められています。
救済(bail-out)を受ける条件として、労働・製品市場の自由化(liberalisation)が求められたり、失業(unemployment)によって賃金が容赦なくカットされているのです。
「より大きな難問(a bigger conundrum)」
さらに大きな難問(conundrum)はフランスです。まだ国債の金利高騰などの市場圧力(pressure from markets)は受けていませんが、いずれにせよ同国は規模が大き過ぎます(too big)。
もしフランスが衰退するようなことがあれば、ユーロを沈没させる恐れがあります。にも関わらず、フランスはドイツにとって極めて重要な国のため、ドイツは声高に非難することができません。
「赤字削減目標(deficit target)」
欧州委員会が各国ごとの勧告(country- specific recommendation)を公表する際、フランスには赤字削減目標(deficit target)の達成に2年の猶予期間(two extra year)が与えられる見通しです。その間に構造改革(structural reforms)をするようにと。
ですが、フランス大統領のオランド氏は、フランスの競争力(competitiveness)の問題を解決するのに、他国の人件費と福祉費用(labour and welfare costs)を引き上げることを求めています。なんと安易な抜け道を通ろうとしている(an easy way out)のでしょうか。
「ドイツを激怒させる考え(a mindset that infuriates Germany)」
フランスのオランド大統領の目論見は、ドイツを激怒させる考え方(a mindset)です。
ドイツが願うのは、ヨーロッパの他国がドイツに追いつくこと(catch up)ではなくて、どうすればヨーロッパが世界と競えるようになるかを考えているのです。だから、フランスにもグローバル化(globalisasion)をチャンスとして受け入れてほしいのです。
「硬直化した労働市場(rigid labour markets)」
ドイツの見解(view)によれば、ヨーロッパの硬直化した労働市場(rigid labour markets)が経済的に苦しんでいる国々(struggling countries)の高失業率(high unemployment)を招いている、ということになります。
守られすぎた労働者がグローバル化の妨げとなり、ヨーロッパ企業がなかなか世界的に成功できない(struggle to be globally successful)、というのです。
「構造改革(structural reforms)」
構造改革(structural reforms)に重点が移るまで、少々時間がかかりすぎたかもしれません(come late)。
欧州の各国政府はすでに、緊縮財政(austerity)に莫大な政治資本(political capital)を費やしてしまったため、自国経済を自由化する力はもうないかもしれません。
「負担(liabilities)」
ユーロ危機への対応の遅れ(delay)は、ドイツが自国への負担(liabilities)を限定したいと考えたからでもありました。
またフランスなど他の国々が、条約改正(modify the treaties)に消極的だったこと(reluctance)も影響しています。イギリスもEUの加盟条件を再交渉(renegotiation)を求めるなど、不快な行動をとりました。
「リスクの共有(risk sharing)」
ユーロ加盟国がそれぞれリスクを共有(share)しなくても、ユーロが存続できると考えるのは現実的ではありません。
フランスのオランド大統領は、ユーロを強化するために政治同盟(political union)を受け入れる用意があると言います。「何もしなければ欧州は倒れる(fall over)。あるいは世界地図から消えてなくなる(disappear)」とも言っています。
「銀行同盟(a banking union)」
ECB(ヨーロッパ中央銀行)は、ユーロ危機に陥った諸国に対して、ある程度まで(up to a point)「最後の貸し手(lender of last resort)」として介入しました(stepped in)。
そして、ゆっくりとしてペースではありましたが、金融セクターは銀行同盟(a banking union)の創設によって安定化しました。
「国家ではない(is not a state)」
ヨーロッパは一つの国家ではありません(is not a state)。それゆえ、一つの国家であるアメリカほど迅速に対応できない(cannot respond quickly)ともいわれます。
ある観測筋(observer)はこう言います。「ユーロは誰も止められない時限爆弾(infernal machine)と化した」。そして身動きが取れなくなった(trapped in it)と。
英語原文:
Hobbling behind America | The Economist