2013年09月04日

足の止まったインド



インド経済

なぜ、インドは怖気づいたのか
How India got its funk

インド経済は1991年以来、最大の窮地(its tightest spot)に陥っている。

英国エコノミスト誌2013年8月24日号より







「超低金利のカネ(ultra-cheap money)」

アメリカの中央銀行FRB(連邦準備理事会)は今年5月、近いうちに(soon)アメリカ国債の大量購入(vast purchases)を縮小し始めるとほのめかしました(hinted)。それまでFRBは、大量のドル紙幣を世界中にばらまいていましたが、そのボーナス・タイムがいよいよ終わりの時を迎えようとしているのです。

あわてた世界中の投資家たちは、新興国市場(emerging market)から一気に資金を引き上げ始めました。ブラジルやインドネシア、とりわけインドから。



「経済的な奇跡(economic miracle)」

少し前まで、インドは経済的な奇跡(economic miracle)に国が沸いていました。当時、インドのシン首相は、8〜9%という高成長がインドの巡航速度(cruising speed)だと誇らしげだったのです。

さらにシン首相は、「何世紀もの間、インド国民の宿命だった慢性的な貧困(chronic poverty)、無知(ignorance)、そして病気」の終焉までを予測していたのです。



「見通しは暗い(the outlook is difficult)」

ですが現在、シン首相はインドの今後の見通し(outlook)が下向いてしまったことを認めざるを得ません。

自国通貨ルピーは、ここ3ヶ月で13%下落(tumbled)。株式市場(stockmarket)は約25%もの急落(ドルベース)。借入金利(borrowing rates)はリーマン・ショックの頃の水準にまで戻ってしまいました。



「自己成就的なパニック(self-fulfilling panic)」

数字の低下にいらだった政府当局は、資本規制(capital controls)を強化。それは自国民が国外に資金を持ち出すのを防ぐことが目的だったのですが、外国人投資家をも怖がらせてしまいました。

そうした内外の不安が、自己成就的なパニック(self-fulfilling panic)を引き起こし、通貨ルピーはさらに下落、そしてインフレ(物価上昇)。こうしてインドは、1991年以来最大の国際収支危機(the balance-of-payments crisis)に陥ってしまったのです。



「致命的な慢心(deadly complacency)」

インドで起こっている経済惨事は、自国の力が及ばない(beyond its control)グローバルな流れに巻き込まれた部分があります。

とはいえ、インドには致命的ともいえる慢心(complacency)もありました。絶好調だった2003〜2008年の好況期(boom)に、政府は改革や自由化を怠っていたのです。交通網などインフラ整備はいまだ不十分であり、汚職(graft)や煩雑な手続き(red tape)などは、むしろ悪化していたのです。



「社会不安(civil unrest)」

現在、インドの経済成長率は4〜5%とかつての半分にまで減速。インフレ(物価上昇)率は10%と、どの経済大国よりも悪く、そのため民間企業は投資を削減しています(slashed)。

その姿は、期待された超大国(superpower)としてそれではなく、社会不安(civil unrest)が生じかねない危ういものとなってしまいました。



「経常赤字(the current-account deficit)」

通貨ルピーの下落はもとより、制限的な労働法(restrictive labour laws)や脆弱なインフラ(weak infrastructure)などにより、インド企業は輸出にまで打って出られません。裕福な国民もインフレ(物価上昇)を受け、金(gold)を輸入して殻に閉じこもる始末。

その結果、インドの経常赤字(deficit)は増大。穴埋めすべき外国資本(foreign capital)は来年2,500億ドル(約25兆円)にも及びます。これはどの新興国よりも巨額の数字です。



「改革の失敗(failure of reform)」

インドは何も、手をこまねいていただけではありません。一年前、新たに財務相(finance minister)となったチダムバラム氏は外国人投資家を支援しようと、ボトルネックの解消に乗り出していました。

ところが、党内からは中途半端な支持(lukewarm support)しか得られず、さらには野党からの妨害(opposition)にも直面し、同氏の経済に弾みをつけようとする試みは頓挫してしまっているのです。



「何も変わっていない(nothing has changed)」

結局、何も変わらなかった状況。国営銀行では不良債権(bad debts)が増加しており、融資残高の10〜12%がダメ(dud)になってしまっています。

発電用の燃料不足(fuel shortages)は、今後の成長をはばむ足かせです。



「よりポピュリスト的な政策(more populist tack)」

来年5月に選挙が予定されていることもあり、政府が今後、より目先の利益を国民に約束するポピュリスト的な政策(tack)に向かってしまうのではないかとの懸念があります。

食料助成金の支給(to subsidise food)など、費用のかかる政策(costly plan)が計画されているのです。



「裏目(backfire)」

政府の優先事項はこれ以上の悪化(rot)を食い止めることにあるわけですが、先の資本規制(capital controls)などは完全に裏目に出てしまいました(backfired)。

さらに政府は、空港から持ち込まれるテレビに関税(duties)を課すことにしましたが、これまた下手に出てしまうかもしれません(tinker runs deep)。



「変動相場制(float)」

1991年、インドがもう少しで国を破産させそうになった時(nearly bankrupted itself)、通貨ルピーは固定相場制(a pegged exchange rate)でした(それを守ろうとしたあまりの危機でもありましたが)。

今のルピーは変動相場制(floating)。通貨の下落(weaker)は、対外債務(foreign debt)を抱えた企業に大きな打撃を与えます。ですが幸い、インド政府には取り立てて言うほどの(to speak of)対外債務がなく、その支払能力(solvency)に対してまだ直接の脅威はありません。



「インフレの抑制(to control inflation)」

そのため、インド中央銀行は通貨ルピーの管理より、国内のインフレ(物価上昇)の抑制に注力する必要がありそうです。

通貨ルピーは揺れ動いているものの、まだその価値(fandamental value)が羽目を外すところ(overshot)まではいっていないようです。



「政府の税収(the government's tax take)」

インドの所得税(income tax)というのは、それを払っている国民がわずか3%しかいないという侘しいもの(puny)だそうです。

そんな税収(tax take)に乏しいインド政府の財政赤字(budget deficit)は現在、GDP(国内総生産)比で10%に拡大しています。財政を立て直す(in order)には、この数字を7%くらいまで抑制する必要がある、とエコノミスト誌は言います。



「新税(the proposed tax)」

新たな財源として、GSTと呼ばれる物品・サービス税(tax on goods and services)が提案されています。ですがそれは、党派間の際限ない協議(endless cross-party talks)にハマり込んでしまっているようです。

次の選挙までに、インド政府が長期的改革(long-term reform)を推進できるかどうか、難しいところです。



「ゾンビ銀行(the zombie bank)」

インド政府は、ゾンビ化している公的銀行(pablic-sector banks)の資本を増強する必要もあります。

赤字続きの政府にとって、それは思い切ったことかもしれませんが、それで信頼が(confidence)が高まるのであれば、それだけの価値がある(worth it)、とエコノミスト誌は言います。全面的な金融危機(a full-blown financial crisis)への恐れは、まだ燻っているのです。



「希望の光(glimmers of hope)」

今年7月の統計では、輸出が持ち直した(picked up)ことから貿易赤字(trade gap)が縮小しています。

ただ、神経質になっている世界市場(jittery global markets)にあって、それはまだ小さな光に過ぎません。



「雇用(find jobs)」

このままでは今後10年間、何千人ものインドの若者たちは何もないところ(where none corrently exit)から仕事を見つけなければなりません。

政府側がそうした雇用を創出するには、保護された産業(protected sector)、たとえば小売業などでの抜本的な規制緩和(radical deregulation)が求められます。また、石油や鉄道など国の独占企業(state monopolies)の解体、制限的な労働法の改革、インフラ整備(道路や港湾、電力)なども課題となるでしょう。



「プラスの遺産(positive legacy)」

1991年、インドを襲った国際収支の危機は、自由化改革(liberalising reform)につながるというプラスの遺産(positive legacy)も残してくれました。

そのおかげで、数十年におよんでいた停滞期(stagnation)に終止符が打たれ、その後、奇跡の急成長がインドに超大国への道を開いたのです。



「怖気(funk)」

インド経済の欠陥(flaws)が今回の自覚から対処されるのであれば、インドに眠る膨大な潜在能力(mighty potential)が解放されるかもしれません。

ただ今のところ、新たな改革には怖気づいている(got its funk)ようですが…。






(了)






英語原文:The Economist
India's economy: How India got its funk


posted by エコノミストを読む人 at 13:21| Comment(0) | アジア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年09月02日

アメリカの人種差別は、どう変わったのか?



ドリームを追って
Chasing the dream

キング牧師の演説から50年、アメリカの人種問題(racial ills)は?

英国エコノミスト誌 2013年8月24日号より








「アメリカ建国時の約束(America's founding promise)」

マーティン・ルーサー・キング牧師は、アメリカ建国時の約束をシンプルに説明しています(a simple clarification)。

”すべての人は平等につくられ(created equal)、生命(life)・自由(liberty)・幸福の追求(the pursuit of happiness)に対する権利を持っている”



「即興(ad-libbing)」

キング牧師の最高の演説となったのは、1963年8月28日、ワシントンに集まった人々を前に行った即興(ad-libbing)の演説でした。

”私には夢がある(I have a dream)。いつの日か(one day)、私の4人の幼い子供たちが、肌の色(the color of their skin)ではなく、人格(the content of their character)で評価される国に暮らすようになるという夢が”








「白人の偏見(white bias)」

今から50年前のキング牧師が生きた時代(in King's day)、アメリカ南部に住む黒人は、有権者として登録しようとするだけでリンチ(lynching)に遭う危険があったといいます。

黒人専用の水飲み場は質が悪く(inferior)、学校も白人とは分け隔てられていました。就ける職も格下で、黒人女性の仕事の60%は家事使用人(domestic servants)だったのです。



「見違えるほど変わった(changed beyond recognition)」

あの名演説から50年、アメリカという国家は見違えるほど(beyond recognition)変化しました。

黒人が選挙で投票できるのは当たり前となり、オバマ大統領をはじめ、黒人候補者(non-white candidates)も当たり前、白人の多いマサチューセッツ州知事も今は黒人です。



「異人種間の恋愛(inter-racial love)」

キング牧師の時代、異人種間の恋愛(inter-racial love)は法律で禁じられていました(illegal)。

ところが現在、アメリカでの結婚の15%がそうした人種を越えた結婚であり、黒人男性に至っては、その割合が24%にも上ります。



「人種の隔離(segregation)」

キング牧師の時代、人種の隔離(segregation)もアメリカでは法律で定めらていました。

ですが今では、「白人しかいない地域(all-white neighborhoods)は、事実上消滅した(effectively extinct)」と言われています。アメリカの大都市圏の上位85ヶ所すべてで、人種隔離は下り坂にあるとのことです。



「公民権革命(the civil-rights revolution)」

キング牧師らが活躍した公民権(civil rights)運動は、あの名演説(I have a dream)の翌年、時のトルーマン大統領により支持され、以後、黒人の地位は劇的に向上していきました。

いまや、黒人が大都市の市長になっても(たとえばワシントン、フィラデルフィア、デンバー)、黒人が大企業のトップになっても(たとえばメルク、ゼロックス、アメリカン・エキスプレス)、黒人が映画の世界で神を演じても(モーガン・フリーマン)、それをおかしいと思う人はいなくなりました。



「中断(interrupted)」

公民権革命後、黒人の所得(earnings)は絶対値(absolute terms)でも白人に対する相対値(relative)でも急増しました。

ところがリーマン・ショックら一連の経済低迷期に入った近年、黒人の世帯収入の中央値(median household income)は、白人のそれに対する比率で64%から58%に減少してしまいました(2000〜2011年)。



「貧富の差(the wealth gap)」

貧富の差は、もっと深刻です(more alarming)。住宅バブル(housing bubble)の崩壊後、それは劇的に拡大しました。

2005年には、白人世帯における純資産(net worth)の中央値が、黒人世帯の11倍だったのが、その4年後の2009年には20倍にもなってしまったのです。



「ほかの指標(other measures)」

黒人の数字は、その他の指標においても芳しくありません。

17歳の黒人の読み書き・計算能力(reads and manipulates numbers)は、13歳の白人ほどと低く、30〜34歳までに刑務所(behind bars)を経験する黒人は10人に一人と、白人の6倍以上です(白人は61人に一人)。



「婚外子(born out of wedlock)」

キング牧師の生きた1960年代、黒人の子供の25%近くが婚外子(born out of wedlock)であったことが、大変に懸念されていました。

ところが今や、その数字は72%にも達してしまっています(ちなみに白人は29%)。そして、そうした子供たちのほとんどが、同居するパートナーのいない完全に独り身(truly alone)の母親によって育てられいます。もはや、伝統的な黒人家庭(the traditional black family)の形は体をなしていないようです。



「根強く残る人種差別(the lingering effects of racism)」

ある人らは、根強く残る人種差別(racism)の影響を懸念します。

黒人の多い学校は資金不足で(underfunded)、企業は黒人の求職者(applicants)を無視しており(overlook)、刑事司法制度(the criminal-justice system)も黒人に偏見を持っていると言うのです。



「考えにくい(it seems unlikely)」

ですが、ここ10年(the past decade)アメリカでは人種差別が悪化したとは考えにくいことです。

というのも現在のアメリカにおいて、人種差別的な発言(racist opinion)はキャリアを終わらせる過ち(a carrer-ending mistake)ともなってしまいます。そうした企業は裁判所からだけでなく、消費者からも罰せられるのです。



「世論調査(polls)」

世論調査(polls)によれば、アメリカにおける人種差別は確実に弱まっています(dwindling)。とりわけ若い世代においては、ずっと偏見が少なくなっています(less bigoted)。

そして、努力次第では差別による障害(obstacles)は克服できる程度のもの(superable)ともなっています。たとえば大卒女性の場合、黒人と白人の所得の中央値はほぼ同じなのです。



「自己責任(their own problems)」

黒人であれ白人であれ、保守派の人々(conservatives)は個人の問題は自己責任(their own problems)だと考える傾向にあります。

とはいえ、過去のアメリカが培ってしまった人種差別の負の遺産(the legacy of discrimination)は、個人の力ばかりで振り払えるものではありません。アメリカがかつて容認した人種隔離政策の一つ、ジム・クロウ法(Jim Crow law)の影は少なくも依然残っているのです。



「ジム・クロウの影(Jim Crow's shadow)」

貧困は貧困を生む(poverty begets poverty)、その傾向は以前よりも強まっています。

経済危機の与える打撃は、明らかに一人親世帯(single-parent families)を直撃しています。アメリカの現行システムの中にも、白人よりも黒人にシワ寄せがいってしまうものが、いまだ存在しているのです。



「恥ずべき問題(the scandal)」

司法制度(the justice system)における恥ずべき問題(the scandal)は、人種差別よりも情け容赦のないこと(brutal)にあるといいます。

非暴力的な薬物犯罪者(non-violent drug offenders)ですら何十年も刑務所に閉じ込められ、その間、家族はばらばらに引き裂かれてしまいます。そうした軽犯罪者(minor criminals)には、薬物治療や監視装置(ankle tag)の着用などで対処する方がずっと効率的だ(far better)、とエコノミスト誌は言います。



「自滅的(self-destructive)」

オバマ大統領は、多くの黒人生徒は読書するクラスメートを「白人気どり(acting white)」と罵り仲間外れにしている、と嘆いています。

そうした自滅的な文化(self-destructive culture)が、スラム街の学校(inner-city schools)などには残っているといいます。こうした問題は、単に資金をばらまくこと(throwing money)で改善できるものではありません。



「幸福の追求(the pursuit of happiness)」

あれから50年、アメリカの恥ずべき過去(shameful past)はすっかり薄らぎ、肌の色(skin colour)はキング牧師の時代ほどの差別は生まなくなりました。

とはいえ、アメリカ建国時の約束の一つである「幸福の追求(the pursuit of happiness)」には、まだまだその終わりが見えません(never ends)。

今後、われわれが見据えるべき視点は、もう肌の色のように表面的なものではないのかもしれません…。













(了)






英語原文:The Economist
Race relations in America 「Chasing the dream」

posted by エコノミストを読む人 at 19:00| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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