2015年04月22日

安倍・黒田、両氏の不協和音



アベノミクス(Abenomics)は当初、首相・安倍晋三と日銀総裁・黒田東彦(くろだ・はるひこ)の蜜月関係(the affair)によって促進された。

安倍首相は見込んでいた。「黒田氏ならば、前例のない金融緩和(un orthodox monetary loosing)によって日本を再生してくれるはずだ」と。

デフレの泥沼(deflationary morass)から日本を救い出すには、急進的な量的緩和プログラム(radical programme of quantitative easing)が必要だと、安倍首相は考えたのだ。






そして2013年春、日銀の黒田総裁は、その期待に応えた。安倍・黒田両氏は緊密な関係(the tight bond)によって結ばれている、と思われた。

だが、ここへ来て、両氏の関係は悪化しているようだ。
"But now the two men appear at loggerheads".



その主な対立点(point of contention)は、財政政策(fiscal policy)に関してであり、金融緩和そのもの(monetary easing itself)を巡って意見が食い違いはじめている。

安倍政権は、これ以上の新たな国債買い入れはやりすぎだ(too much of a good thing)というサインを出しているようだ。

しかし、新たな国債の買い入れ(a fresh bout of bond-buying)は必要だ、と黒田氏は考える。あらゆる手段を使って(whatever it takes)インフレ率を2%にまで上昇させると自ら約束したのだから。






そもそも両者の不協和音(discord)の原因は、当初の計画が目論見通りにいかなかったことにある。

本来なら、構造改革(structural reforms)の成果として経済成長が促進されているはずだった。そして、消費税(consumption tax)は8%から10%に引き上げられ、プライマリーバランス(利払い前の基礎的財政収支)は2021年までに黒字化するという長年の目標(a longstanding connitment)を、段階的に達成できているはずだった。

しかし現実は、成長どころか日本は景気後退(recession)に陥ってしまった。その結果、消費税の増税は見送られ、物価は依然、足踏み状態(standstill)が続いている。



かつて黒田氏は財務省の要職(mandarin)にあった。ゆえに規律(dicipline)の維持は、彼にとって絶対である。ところが安倍首相は、消費増税のプランを変更しようとしていた。

黒田氏は力ずくでも首相を増税(tax hike)に踏み切らせようとしたのか、驚くべき手を打った。2014年秋、大幅な金融緩和拡大、資産買い入れ額を年間80兆円に拡大すると発表した。

この日銀の動きに、首相官邸の人々の多くはうんざりした(irked)という。






コアインフレ率(core inflation)がゼロに逆戻りしてしまった今、日銀は金融緩和を拡大せざるを得ないと感じている。しかし政府は、日銀による国債買い入れ拡大にはリスクがあると懸念を示している。

政府が量的緩和(quantitative easing)の拡大に反対するのは、政治的な理由(political reasons)もある。量的緩和は一部、不動産や株式市場、大手輸出業者には恩恵をもたらした。だが中小企業や一般家庭にとっては、円安によって輸入品の価格が上昇しただけだった。

また日銀ばかりが国債を購入してしまうことで、国債市場(bond market)は大きく歪んでしまった。ほかの参加者が市場から追い出されてしまったのだ。国債の流通市場(secondary market)が限定的になってしまうと、今後、国債の発行が難しくなる恐れがある。






日本の公的債務残高はGDP比でおよそ240%。先進国中では群を抜いて高い。当然、安倍首相も黒田総裁も、債務削減の必要性は感じている。

「ただし、安倍首相が経済成長(growth)に重きを置いているのに対して、黒田氏は財政規律(fiscal discipline)のほうを重視している」と政府高官の世耕弘成氏は言う。

”黒田氏はいつになく率直に懸念を示し、早急に財政規律(fiscal discipline)を導入する必要性を訴えている(『The Economist』誌)”



2015年の国家予算は過去最大規模(the record level)になっているという。高齢化にともなう社会保障費(social-security spending)の増大が大きい。社会保障支出の大幅削減は、政治的にタッチできない領域(politically off-limits)なのだ。

「さらに9兆円の財源(extra \9 trillion)を見つける必要がある」と政府は述べる。

日本にとって最も重大な試練(most important test)は、まだ先にある。



安倍氏と黒田氏の不和(falling out)は、まだ早すぎる(premature)。






(了)






ソース:
The Economist 「Economic policy in Japan: End of the affair」
JB press 「日本の経済政策:蜜月の終わり」



単語集:







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2015年04月17日

強いドルは迷惑か?



アメリカ・ドルが強い。

ここ3ヶ月で11%の上昇(ascent)、ここ1年間では22%の急騰ぶりである(主要通貨バスケットに対して)。

過去数十年間において、米ドルがこれほど強含んだことはない。あのリーマンショックの混乱時でさえ、5%しか上昇しなかったのだから。すなわち、米ドルは「未踏の領域(uncharted waters)」に足を踏み入れている。


なぜ米ドル(the green back)は、かくも強くなったのか?

その最大の理由(the principal reasons)は他の主要国が弱くなったからだ。ヨーロッパや日本は経済停滞(the doldrums)にはまり込み、新興国は成長を減速させている。ブラジルとロシアは深刻な景気後退(deep recession)、中国では成長のエンジンだった不動産市場(property market)が冷え込んでいる。

一方、アメリカ経済は今年(2015)、3.6%成長すると予測されている(IMF)。



また、アメリカのFRB(連邦準備理事会)はすでに、金融政策(monetary policy)の引き締めをはじめている。資産購入(asset purchases)プログラムは打ち切られる。さらには、年内にも利上げに踏み切る姿勢をみせている。

アメリカが金融引き締めに向かう一方で、他の先進国の中央銀行は依然、緩和をつづけている。だから当然、投資家たちはドル建て資産(dollar-denominated assets)から大きな利益を得ることができる。これで米ドルが上昇しないはずはない。



米ドルの高騰で、世界はどう変わるのか?

”これほどの規模の動きは大抵、誰かを窮地に追い込むことになる”
”Moves of this magnitude usually catch someone out".
(『The Economist』誌)



”誰か(someone)”とは誰だ?

まず新興国(emerging markets)の借り手たち(borrowers)は、ダブルパンチ(a double whammy)を食らう恐れがある。ドル高に加え、借り入れ(borrowing)借り換え(refinancing)コストの上昇だ。



新興国の企業はドルの低い金利に誘われて(seduce)、ドル建て債務(dollar-denominated dept)を積み上げている。自国通貨(local-currency)よりもずっと金利が安いのだから。

BIS(国際決済銀行)によれば、アメリカ外の非金融会社が抱えるドル建て債務の残高は9兆ドル(約1,000兆円)に達している(リーマンショック後から50%の上昇)。そしてその半分を占めるのは新興国である。たとえば中国などは、2008年のドル建て融資は2,000億ドル(約25兆円)前後だったが、現在は1兆ドル(約120兆円)に急増している。

自国通貨に対してドルが高くなれば、ドル建ての借金額は上昇する。さらに米FRBが金融引き締めに乗り出せば、その金利も上昇する。まさにダブルパンチ(a double whammy)。






もし、ドル建ての借金だけでなく、ドル建ての収入(income)もあれば、通貨のミスマッチ(currency mismatches)は相殺される可能性もある。だが残念ながら、そううまくはいかない。

たとえば中国の企業債務の4分の1(25%)はドル建てだが、ドル建ての利益となると全体の9%にすぎない。ただ中国の場合、通貨・人民元(Yuan)が対ドルでほとんど下落していないのが救いだ。



輸出業者(exporters)ならば、自国通貨安から利益を得られるのではないか?

いや、アメリカと取引しているならともかく、やはり自国通貨が安くなっている国と取引をしている可能性が高い。

外貨準備(foreign-exchange reserves)の豊富な国なら、苦境にある企業を下支えできるのではないか?

いや、ロシアやブラジルならともかく、南アフリカやトルコなどはそれほど多くの資金をもっていない。多額の短期政府債務(government debts)を抱え込んでいる。



そういえば2年前(2013)、同じようなことがあったような…。

米FRBが量的緩和(quantitative easing)プログラムのテーパリング(段階的縮小)を発表し、マネーがアメリカに殺到、新興国が重圧下(under pressure)におかれた。

あの嵐を、新興国は乗り切ったではないか。



だが残念ながら、いまの新興国は当時よりも弱含んでいる。

そして企業の積み上げたドル建て負債は、もっと多くなっている。












(了)






ソース:
The Economist 「The strong dollar; Mismatch point」
JB press 「強いドル:通貨のミスマッチで新興国のピンチ」

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2015年04月15日

ドイツに楯つくギリシャ



今年(2015)一月、ギリシャ国民は総選挙(general election)によって新たな首相(prime minister)を選んだ。

アレクシス・チプラス(Alexis Tsipras)
急進左派(radical-left)連合、SYRIZA





彼の政治レバー(political levers)は乱暴だ(crude)。

ロシアのプーチン大統領に取り入ったり(cosy up)、ドイツに第二次世界大戦の戦時賠償(war reparations)を求めたり、ドイツの資産(assets)を没収する(seize)と脅したり。

はたして、それらはギリシャの経済的苦境(economic woes)を解決することにつながるのだろうか。もしくは、他のユーロ圏(euro zone)諸国から譲歩(concessions)でも引き出そうとしているのだろうか。





ドイツの首相(chancellor)、アンゲラ・メルケルがEU最強の指導者(most powerful leader)とすれば、ギリシャのチプラス首相は、EU最大の問題児(biggest troublemaker)だ。

その問題児チプラスは、最強メルケルに脅迫まがいの言動(the whiff of blackmail)を繰り返す。

ヨーロッパをテロリストを含む移民(migrants)で溢れさせるぞ。

戦時賠償(war reparations)、1,600億ユーロ(20兆円)を支払え。さもなくば、ギリシャにあるゲーテ・インスティトゥート(Goethe Institute)とドイツ人の別荘(holiday homes)を没収するぞ。

※ゲーテ・インスティトゥートとは、ドイツ政府による国際交流機関で、外国人に対するドイツ語教育などを行っている。世界92カ国158カ所に展開する。日本では東京、大阪、京都。



問題児チプラスはロシア(Russia)に急接近している。

ロシアは同じ正教会国家(Orthodox country)として、ギリシャを喜んで助けるかもしれない。ロシア自体、欧米から受けている制裁(sanctions)を苦々しく思っている。

かつてアメリカのトルーマン大統領(President Truman)は第二次世界大戦直後、ロシア(当時はソ連)に急接近したギリシャに支援(aid)を提供したことがある。それはソ連の侵略(encroachment)を回避するためだった。





ギリシャの脅し(threats)は効くのだろうか?

ドイツに歯向かうことによって、ユーロ圏から猶予(reprieve)を勝ち取るどころか、自身の最大の債権者(creditor)であるドイツを遠ざけている(alienate)だけなのではないか。ドイツに反対する傾向にあるフランスやイタリアまでもが、ギリシャから遠ざかりつつある。

ギリシャ国民は明らかにユーロにとどまることを望んでいる。しかし、大半のドイツ人はギリシャのユーロ圏離脱を望んでいる。双方にとっての最善の結果(best outcome)はギリシャがユーロにとどまることのはずなのだが。





ギリシャからは資金流出がとまらない。

一週間に約20億ユーロ(2,500億円)のペースで銀行から流れ出てゆく。そのため、ギリシャは救済措置(bail-out)の4ヶ月間延長を求め、改革プログラムを約束した。さもなくば資本規制(capital control)の憂き目に遭うところだった。

ギリシャには資金の枯渇(running out of cash)という危険が差し迫っており、チプラス首相は強気な態度を覆さざるをえなかった。



チプラス首相は、その激しい言葉遣い(the fiery rhetoric)によって、他の欧州諸国と取引する機会を無駄にしてきた(squander)。

ギリシャ国民に約束した極端な選挙公約(extravagant election promises)はおそらく守れないだろう。

チプラス首相がチャンスを使い果すのは、そう先の話ではないのかもしれない。






(了)






ソース:
The Economist [Greece v Germany; Dangerous liaisons]
JB press 「ギリシャ vs ドイツ:危険な関係」

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2015年04月14日

弱点をさらしつつあるIS(イスラム国)



イスラム国(Islamic State)、IS。

世界で最も危険なテロ組織
The world's most dangerous terrorist organization

男性の捕虜(prisoners)をむごたらしい動画(gory videos)のなかで殺害し、女性の捕虜を奴隷にした。






IS(イスラム国)は今までのジハード主義組織(jihadist groups)とは異なる。

敵(foes)の扱いが残酷すぎるうえに、プロパバンダを広める能力が極めて高い(competent)。そして、カリフ制イスラム国家(the Islamic caliphate)を復活させようと目論んでいる。



カリフというのはイスラム国家の最高権威者のことで、カリフ制はオスマン帝国(the Ottoman empire)の崩壊後、近代トルコ(modern Turkey)によって廃止されている。

その復活(revival)によって、IS(イスラム国)は過去数十年間にわたる屈辱(humiliation)を消し去ろうとしている。かつて繁栄していたアラブ社会は、外国人たちによって衰退したと、彼らは考える。






「イスラム教徒よ、汝の国へ駆けつけよ」

"Rush , O Muslims, to your state"

そのIS(イスラム国家)による呼びかけに、多くのイスラム教徒が馳せ参じた。数千の熱狂者たち(zealots)は奮い立った。ヨーロッパの女学生までが、家族や友人をなげうって参加した。

一時、IS(イスラム国)はイラクの首都バクダッドの門前にまで迫る勢いだった。






しかし今、IS(イスラム国)にヒビ割れ(cracks)が生じはじめている。

クルド人部隊(Kurdish fighters)はアメリカの空爆支援を得て、IS(イスラム国)をシリアの都市コバニ(Kobane)から追い出した。シーア派民兵(Shia militias)はイラクとイランの支援を受けて、イラクの都市ティクリート(Tikrit)を抑えこみつつある。

かつては考えられなかった同盟関係(unlikely allies)がIS(イスラム国)を苦しめ、その領土を最盛期の約25%までに封じ込めている。



IS(イスラム国)の資金(funds)も目減りしている。

アナリストの試算によれば、IS(イスラム国)は収入の最大75%をすでに失った可能性があるという。豊富な資金源だった石油施設(oil facilities)はアメリカ軍にり空爆され、人質(hostages)の大半はすでに身代金と交換されるか、斬首(beheadings)されてしまった。征服による略奪品(the loot of conquest)も尽きた。



IS(イスラム国)の支配地域の住民(residents)、およそ800万人は不満を抱えている。

IS(イスラム国)による強奪(extortion)、暴力的な圧政(violent repression)、公共サービスの劣化が住民たちを怒らせているのだ。IS(イスラム国)は支配する人々の支持(consent)を失いつつある。

下手に広い領土(territory)と多くの人口(population)が、IS(イスラム国)の首を締めはじめている。もてる者は小さなつまずき(setbacks)に対してすら、脆い面をもつ。






亀裂が入っているとはいえ、IS(イスラム国)を打倒することは容易ではない。

まずはイラク第2の都市、モスル(Mosul)を是が非でも奪還(recapture)しなければならない。IS(イスラム国)がここを根城にしている限り、彼らの主張は揺るがない。

しかし、たとえモスルが奪還できたとしても、彼らの安全な避難場所(unchallenged haven)が、まだシリアにある。シリアの都市ラッカ(Raqqa)だ。シリア国内の問題は解決できない問題(the insoluble problem)であり、今はそれを考える者すらいない。IS(イスラム国)はシリアに潜伏しつつ、次の好機を待つこともできる。



IS(イスラム国)根絶(destruction)の道のりは遠い。

この中東の混乱(chaos in the Middle East)は、最終的にアラブ世界の各国政府を再建(rebuilding)しなければ収まらないだろう。そのためには何十年かかるかわからない。



この世界の深刻な脅威(a grave threat)に対しては、常に目を光らせておく必要がある(need constant watching)。

そしてまずは、IS(イスラム国家)のさらなる縮小(cutting back)を図らなければならない。

それが必要不可欠な第一歩(the vital first step)だ。







(了)






ソース
The Economist 「The war against Islamic State; The caliphate cracks」
JB press 「イスラム国との戦い:カリフ制国家のひび割れ」



単語集




posted by エコノミストを読む人 at 18:37| Comment(0) | 中東 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年04月13日

なぜ香港人は中国人を嫌うのか?



香港(Hong Kong)で買ったものを中国本土の闇市場(black-market)で売りさばく。そうした商売(racket)を香港の人(Hong Kongers)は「並行交易(parallel trading)」と言って嫌う。



ところでなぜ、わざわざ香港で買い物するのか?

中国本土の消費税(sales tax)が17%なのに対して、香港では0%。無税で買えるとあらば、商売は十分に成り立つ。

しかし本土(mainland)から大量の人々が香港に押し寄せるものだから、香港の人々は辟易している。本土の人々はがさつ(boorish)で、店の棚を空っぽにしてしまう様は「イナゴ(locstas)」のようにしか見えない。



もともとの香港の人口は700万人程度。

それに対して本土からの人の波は4,700万人(2014)。香港人のおよそ6〜7倍という圧倒的多数だ。中国人訪問者は2013年から16.5%も増えており、この調子でいけば、2020年までにはその数が1億人を超えるという予測もある。

香港では2002年、イギリスによる植民地支配(colonial rule)が終わった5年後に、中国人旅行者(tourists)の人数制限(quota)を撤廃した。それ以来、隣接する深圳から境界線を越える人々は後を絶たない。



香港のモノは安いだけでなく、質も良い。

たとえば2008年、乳幼児の粉ミルク(fomula)が中国本土で汚染されたとき、香港では極端な粉ミルク不足(shortages)に見舞われた。香港政府が粉ミルクの輸出に厳しい制限をかけたほどだ。

客が来るのであれば、香港の小売店にとって喜ばしいはずだ。実際、本土の熱狂的な顧客(the frenxied custom)を歓迎する向きもある。しかし流れに乗れなかった多くの古い店舗(older outlets)は、賃料の上昇により閉鎖を余儀なくされてしまっている。



「上水文化を締め出している」

”lock out Sheung Shui culture”

本土との協会に近い上水(Sheng Shui)の新康街には、並行輸入(parallel import)に反対する団体ができた。



香港は中国でありながら中国ではない。

最新の世論調査(poll)では、自分たちを”中国人(Chinese)”と考えたがらない香港人が、かつてないほど増えていた。

「人々は怒っており、苦々しい気持ちを抱いている」

"People are angry and bitter"

香港の立法会(議会)議員、劉慧卿(Emily Lau)は言う。



ここ数週間、民主派のデモ隊(pro-democracy demonstrators)の抗議行動が再燃している。本土からの侵略(the mainland's encroachment)に対する憤怒(resentment)が香港人を暴力的にさせているのである。

かつてデモが行われるのは、香港都市部の人口密集地域(densely populated city)に限られていたが、最近では本土寄りだった境界線に近い場所(near the border)でも怒りが燃えている。



香港政府の立場は苦しい(in a bind)。それでも反本土感情(anti-mainland sentiment)に迎合して抗議者たちの味方をする気はない。

というのも、本土からの買い物客は法律をまもっている。最大5,000元(約10万円)という持ち帰り品(bring back goods)の枠の中におさまっている。闇商人(black-market traders)ですらそうだ。



しかし香港人は感情的にならざるをえない。

所得格差(income inequality)が広がっていることも、不動産価格(property prices)が急騰していることも、人口が高齢化していることも、”責任は本土の人間にある”と考えている人が少なくない。そして味方してくれない香港政府に対して、

”北京の中央政府に寝返った”

”Hong Kong's government has sold out to the one in Beijing"

と怒っている。とりわけ若い人などなおさらだ。



新たな火種(flashpoint)は、2017年の香港政府トップを選ぶ行政長官選挙に関する取り決めだ。これは昨年(2014)後半、香港の人々数千人をデモに駆り立てた案件である。香港政府のトップを選ぶ権利が彼らにないことに腹を立てたのだった。この件に関して、香港の立法会(議会)は今年夏までに議論をまとめなければならない。

また愛国教育(patriotic education)に関する問題もある。中国の歴史を学校でどう教えるべきかについてである。



6月4日

香港人は毎年の恒例行事として、天安門事件のデモ弾圧(1989)を記念した集会(rally)を行う。

7月1日

香港の中国返還記念日は大規模デモに発展しやすい。



香港政府に息抜きする暇はない。

The government will have little respite.













(了)






ソース:
The Economist 「Hong Kong-mainland relations; Aisles apart」
JB press 「香港と中国本土:遠のく関係」
単語集:




posted by エコノミストを読む人 at 11:43| Comment(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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