アベノミクス(Abenomics)は当初、首相・安倍晋三と日銀総裁・黒田東彦(くろだ・はるひこ)の蜜月関係(the affair)によって促進された。
安倍首相は見込んでいた。「黒田氏ならば、前例のない金融緩和(un orthodox monetary loosing)によって日本を再生してくれるはずだ」と。
デフレの泥沼(deflationary morass)から日本を救い出すには、急進的な量的緩和プログラム(radical programme of quantitative easing)が必要だと、安倍首相は考えたのだ。
そして2013年春、日銀の黒田総裁は、その期待に応えた。安倍・黒田両氏は緊密な関係(the tight bond)によって結ばれている、と思われた。
だが、ここへ来て、両氏の関係は悪化しているようだ。
"But now the two men appear at loggerheads".
その主な対立点(point of contention)は、財政政策(fiscal policy)に関してであり、金融緩和そのもの(monetary easing itself)を巡って意見が食い違いはじめている。
安倍政権は、これ以上の新たな国債買い入れはやりすぎだ(too much of a good thing)というサインを出しているようだ。
しかし、新たな国債の買い入れ(a fresh bout of bond-buying)は必要だ、と黒田氏は考える。あらゆる手段を使って(whatever it takes)インフレ率を2%にまで上昇させると自ら約束したのだから。
そもそも両者の不協和音(discord)の原因は、当初の計画が目論見通りにいかなかったことにある。
本来なら、構造改革(structural reforms)の成果として経済成長が促進されているはずだった。そして、消費税(consumption tax)は8%から10%に引き上げられ、プライマリーバランス(利払い前の基礎的財政収支)は2021年までに黒字化するという長年の目標(a longstanding connitment)を、段階的に達成できているはずだった。
しかし現実は、成長どころか日本は景気後退(recession)に陥ってしまった。その結果、消費税の増税は見送られ、物価は依然、足踏み状態(standstill)が続いている。
かつて黒田氏は財務省の要職(mandarin)にあった。ゆえに規律(dicipline)の維持は、彼にとって絶対である。ところが安倍首相は、消費増税のプランを変更しようとしていた。
黒田氏は力ずくでも首相を増税(tax hike)に踏み切らせようとしたのか、驚くべき手を打った。2014年秋、大幅な金融緩和拡大、資産買い入れ額を年間80兆円に拡大すると発表した。
この日銀の動きに、首相官邸の人々の多くはうんざりした(irked)という。
コアインフレ率(core inflation)がゼロに逆戻りしてしまった今、日銀は金融緩和を拡大せざるを得ないと感じている。しかし政府は、日銀による国債買い入れ拡大にはリスクがあると懸念を示している。
政府が量的緩和(quantitative easing)の拡大に反対するのは、政治的な理由(political reasons)もある。量的緩和は一部、不動産や株式市場、大手輸出業者には恩恵をもたらした。だが中小企業や一般家庭にとっては、円安によって輸入品の価格が上昇しただけだった。
また日銀ばかりが国債を購入してしまうことで、国債市場(bond market)は大きく歪んでしまった。ほかの参加者が市場から追い出されてしまったのだ。国債の流通市場(secondary market)が限定的になってしまうと、今後、国債の発行が難しくなる恐れがある。
日本の公的債務残高はGDP比でおよそ240%。先進国中では群を抜いて高い。当然、安倍首相も黒田総裁も、債務削減の必要性は感じている。
「ただし、安倍首相が経済成長(growth)に重きを置いているのに対して、黒田氏は財政規律(fiscal discipline)のほうを重視している」と政府高官の世耕弘成氏は言う。
”黒田氏はいつになく率直に懸念を示し、早急に財政規律(fiscal discipline)を導入する必要性を訴えている(『The Economist』誌)”
2015年の国家予算は過去最大規模(the record level)になっているという。高齢化にともなう社会保障費(social-security spending)の増大が大きい。社会保障支出の大幅削減は、政治的にタッチできない領域(politically off-limits)なのだ。
「さらに9兆円の財源(extra \9 trillion)を見つける必要がある」と政府は述べる。
日本にとって最も重大な試練(most important test)は、まだ先にある。
安倍氏と黒田氏の不和(falling out)は、まだ早すぎる(premature)。
(了)
ソース:
The Economist 「Economic policy in Japan: End of the affair」
JB press 「日本の経済政策:蜜月の終わり」
単語集: