2015年07月26日

ギリシャの失敗は特例か? [The Economist]



ギリシャに握られたヨーロッパの未来
Europe's future in Greece's hands

The Economist
Jul 4th 2015



過去、これほどの惨状はギリシャにあっただろうか。

シャッターが下ろされた銀行(barred banks)
先進国による初のデフォルト(対IMF)
巨額救済プログラムの破綻(the collapse)


ギリシャのGDP(国内総生産)は過去5年間で4分の1も減少し、失業率(unemployment)は25%を上回り、若年層にいたっては失業率が50%を超えている。ギリシャの資金はもう尽きかけている(running out of money)。

ギリシャのユーロ離脱(Greece's exit)の可能性はいよいよ高まっているかに見える。







エコノミスト誌は言う。

「ギリシャがいない方が、ユーロ圏は安定するだろうと今や多くの人が考えている(Without Greece, many now conclude, the euro zone might actually be more stable)」

しかし即座に否定する。

「残念ながら、それは間違っている(Sadly, that is wrong)」



いったい、どのようなルール違反がユーロ追放(expulsion)につながるというのか?

それは誰にも分からない(nobody would know)。

ギリシャの機能不全(dysfunction)をギリシャ特有のものと考えることは危険である。そうした発想は、単一通貨ユーロのみならずEUそのものを破壊してしまいかねない。



エコノミスト誌は言う。

「ギリシャが混乱におちいった責任の一端は、債権者(ドイツなど)が押しつけた緊縮策(austerity)にある。とりわけ危機勃発当初、ギリシャの財政赤字(badget deficit)をあまりにも大幅かつ急激に(too far too fast)削減しようとしすぎた」

2015年1月の選挙で、左派の寄せ集め(ragbag of leftist)であるSYRIZAがギリシャの政権を握ることになったのは、ユーロ諸国がギリシャを厳しく締め付けすぎた結果ともいえる。

そして不幸にも、選挙に勝ってギリシャを率いることになった男、チプラス首相は無能(useless)であった。







彼は最初、自分に交渉力(bargaining power)があると信じていた。チプラス首相は、債権者ら(creditors)がユーロ圏の分裂を阻止しようとしている限り、必ずギリシャに屈服するはずだと考えていた。

しかしながら、債権者らがチプラス首相の脅し(blackmail)に屈することは決してなかった。債権者らにとってはギリシャのユーロ離脱よりも、システムの規律(discipline)を守ることの方がよっぽど重要だった。無条件の財政移転(unconditional transfers)など過去に受け入れられたことはない。



とはいえ、ユーロ諸国によるギリシャに対する場当たり的な救済(ad hoc bail-out)は、ドイツら債権国(creditors)とギリシャら債務国(debtors)の対立を浮き彫りにし、両者の二極化(polarisation)は深刻化した。

債権国は軽蔑(contempt)を、債務国では恨み(resentment)を噴出させた。その負のスパイラル(downward spiral)は、ギリシャを瀬戸際戦略(prinkmanship)へと追いやった。



もしギリシャの首相が賢明であったのなら、この混迷のなかでも優れた知恵と相応の手腕(nous and skill)を見せたことであろう。哲学者プラトンを生んだ国なのだから。

しかし残念ながら、チプラス首相にはその両方が欠けていた。そして彼は、ばかげた国民投票(absurd referendum)へと舵をきった。債権国に突きつけられた改革案に反対すれば、交渉を有利にもっていけると誤解したのである。

投票前夜、ヨーロッパ諸国の首脳たちは警告した。「反対票を投じれば、事実上、ユーロ離脱に票を投じることになる(a No is in fact a vote to leave)」と。



エコノミスト誌は言う。

「現時点でギリシャに必要なのは新しい首相だ(Right now Greeks need a new prime minister)」

ギリシャのユーロ離脱(いわゆるグレジット、Grexit)を加速させかねない国民投票(referendum)の実施は、貧窮する国民(the beggary of the people)をさらに追い詰めただけだった。もはや、チプラス首相の無能さは彼自身の責任(own fault)にとどまらない。

エコノミスト誌は言う。

「不誠実なチプラス首相(the devious Mr Tsipras)との関係は破綻した(shuttered)。チプラス首相が政権の座に留まるかぎり、ギリシャはユーロ残留に苦労するだろう(they will struggle to stay in the euro)」







将来に目をむければ、ユーロ圏は”第2のギリシャ(more Greece)”を出さないためにも、その体制を強化する必要がある。

エコノミスト誌は言う。

「たとえば共同の失業保険制度(unemployment insurance)があれば、不況の国に追加の資金(extra funds)を流せるはずだ。ユーロ圏が必要としているは何らかの形のユーロ債(Eurobonds)、つまり共同保証の公債であり、それを現在よりも強い財政規則(fiscal rules)により統制することだ」

しかし、ユーロ各国の国民(とくに反EUのポピュリスト)は国の主権(sovereignty)をこれ以上明け渡したくないと考えている。とはいえ、安定した通貨(a stable currency)と財政主権(fiscal sovereignty)がトレードオフ(二者択一)の関係にあることを理解しなければならない。

新たな変化が必要なことはユーロ圏も承知しており、控えめながらも銀行同盟(banking union)構想は前進している。



エコノミスト誌は言う。

「ヨーロッパの市民は、今すぐユーロの矛盾(the euro's contradictions)と向き合わなければならない。それがギリシャの惨事の教訓(the moral)だ」







出典:
The Economist 「The euro and Greece; Europe's future in Greece's hands」
JB Press 「ギリシャの手中にある欧州の未来」



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2015年07月25日

株暴落に狼狽、中国政府 [The Economist]


中国株
Stocks in China


The Economist
Jul 11th 2015



2015年7月第2週
中国の株式市場は暴落した(stockmarket crash)。

7月7日の取引は、上場2,774銘柄のうち90%以上が売買停止(susupended)あるいはストップ安(halted)に陥った。株価は3分の1に急落、3兆5,000億ドル(約420兆円)相当の資産が吹き飛んだ。これはインド株式の時価総額を上回る額だ。







悲観論者は「経済崩壊(an economic collapse)の予兆だ」と叫んだ。

だがエコノミスト誌は「それはまずあり得ない(most unlikely)」と冷静だ。



まず、中国株がわずか数週間で3分の1下落したといえども、それでも1年前より75%も高い。4か月前(2015年3月)のレベルに戻っただけである。

また、中国全土の株式市場の浮動株(free-float value)は、中国GDP(国内総生産)の3分の1しかなく、それが100%を超える先進諸国と比べると格段に低い。しかも家計が株式に投資しているのは、その金融資産の15%足らずしかないため、株価急落が一般消費に与えるダメージはほとんどない(その逆もまた真、株価急騰にあっても消費が押し上げられることはほぼなかった)。

中国では株式の多くが借入金(debt)によって購入されている。その債務を解消するため、株価急落が株式売却に直結して暴落に歯止めがかからなくなってしまった。それでも、株式向け融資は金融システムの1.5%程度を占めるに過ぎない。



以上を踏まえ、エコノミスト誌は言う。

「中国経済は堅調だ(The economy is solid)。成長は減速しているものの、安定している(Growth, though slowing, has stabilised)」

長らく沈静状態だった不動産市場(the property market)も復調しはじめ、市場金利(money-market rates)は低いうえに大きな変化がない。それは銀行が安定しているからだ。



だが、その堅調な経済の裏に深刻な問題が潜んでいる。

それは、この株価暴落を食い止めようとして打たれた、中国政府のパニック的な対策の数々(frenzied attempts)。株式市場が受けた打撃を修復しようとした中国当局の試み(botched attempts)は失敗に終わり、ただでさえ悪い状況をさらに悪化させる結果にしかならなかった。

今回の株式市場の大混乱は、習近平・国家主席と李克強・首相にとって就任後初の経済的汚点(economic blemish)となった。







中国共産党は2013年、市場原理(market forces)に「決定的役割(decisive role)」を担わせると宣言した。だが2015年現在も、まだ完全に市場原理に経済を委ねているわけではない。

たとえば、新興企業(start-ups)向けの株式市場「創業板(ChiNext)」。その新規株式公開(IPO, initial public offerings)に関しては規制当局(regulators)が厳密に、どの企業がいつ、どれほどの価格で上場されるのかを事実上決定している。

運よく上場を勝ちとれた新興企業(start-ups)の株価は、急騰するのが常。中国政府が新たなIPOの認可に消極的だったため、買い待ちをする長い投資家の行列(the long queue)ができているためだ。それゆえ、創業板(ChiNext)の株価収益率(PER, price-to-earnings ratio)は147倍と、ドットコム・バブル(the dotcom era)当時のNASDAQと同等の水準に達している。



当局の規制が厳しい中国では、投資家たちがカネを注ぎ込める選択肢(alternatives)がまだ少ない。ここ10年、旺盛な投資熱(investment frenzies)は不動産、切手、緑豆(mung beans)、ニンニク、茶葉などの値を高騰させた。

株式市場に資金が集中するのもそのためで、いわば中国の株式市場はバブルが膨らむ素地が醸成されていたといえる。2007年以来の株ブーム(a stock frenzy)が起こっていたのだから。







この株ブーム(the bull run)は当初、習国家主席・李首相チームの経済改革の正しさを証明するもの(an endorsement)ともてはやされた。ゆえに、その評判を守ろうと、規制当局は株価急落を食い止めるため躍起になった。

相場の下落を受けて、規制当局は空売り(short-selling)に規制をかけ、年金基金が株の買い入れを増やすと言明、政府はIPO(新規株式公開)を凍結した。しかし、矢継ぎばやに打ち出された株価安定策は、投資家を落ち着かせるどころか、悲鳴を絶叫にかえてしまった。

市場の混乱(turmoil)に直面した優秀な官僚たち(capable technocrats)は、ぶざまであった(haplessness)。明らかに割高になっていた株価(overvalued shares)は当然のように調整をむかえる局面がくる。それが予期されていたにもかかわらず、彼らはパニック状態に陥ったのである。



部分的に自由化された中国の市場は、投資家たちの思惑を歪ませる。そのため、それを管理するには尋常ではない手腕(extraordinary demands)が要求される。中国の官僚たちの能力が著しく高いというイメージは幻想(illusion)だったのか。

エコノミスト誌は言う。

「学ぶべき実際の教訓は、中国政府は市場に決定を委ねなければならない」
”The real lesson is that it must let the markets decide"







出典:
The Economist 「Stocks in China; China embraces the markets」
JB Press 「中国株:市場の洗礼うける中国政府」



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2015年07月24日

なぜイランは核合意をしたのだろう?




イラン核合意
Nuclear Iran

The Economist
Jul 18th 2015



2015年7月14日
イラン(Iran)は主要6カ国(six world power)とEUの間で核交渉を合意した。



その成果への反応は二分する。

核拡散(nuclear proliferation)を食い止め、36年間にわたるイランとアメリカの確執(36 year fued)を修復するきっかけになると評価される一方で、イスラエルのネタニヤフ首相などは

「驚くべき歴史的な過ち」
"stunning historic mistake"

と手厳しい。それは、この合意がイランの核大国化をお膳立てし、国外での侵略行為に資金源を与えてしまうことになるからだという。

いずれにせよ、ことイランのこととなると支持派(backers)も批判派(critics)も「摩訶不思議な思考(magical thinking)」に陥ってしまう傾向があるようだ。







イランの現政権は核燃料サイクルの専門技術について、国力の証(a badge of national power)であり、アメリカによる軍事攻撃(military attack)に備えた保険だと考えている。

そして今回の合意で、イランは「核敷居国(a threshold nuclear state)」として国際的に認められたことになる。それは核保有が目前であることを意味する。

しかしイランは今後10〜15年間、ウラン(原子爆弾の燃料)を濃縮し核兵器を開発する能力は大きく制限されることとなった。その後も、核拡散防止に関する国際条約(international treaty)が全面的に適用されることとなる。イラン政府は、すべての核施設への立ち入り調査(intrustive monitoring)を認め、要請があれば「管理された立ち入り(managed access)」を受け入れることに同意している。

その交換条件が経済制裁(sanctions)の解除である。もちろん、イランが合意内容に違反した場合には、再度、制裁が科されることになっている。







はたして、今回の合意よりもましな選択肢(the alternatives)はあったのだろうか。

他の選択肢は、さらに良い条件の合意ができるまで待つか、戦争に突き進む(go to war)のいずれか。

経済制裁によってイランの譲歩(concessions)を引き出すことができたのだから、さらなる制裁によってさらなる譲歩を引き出せるかもしれない。だがそれは、絶対に実現しない最高の条件(a bargain that never comes)なのかもしれない。

イラン政府の変貌(transformation)にあまり大きな期待はかけられない。イランが核開発の中枢部分(the guts)を放棄すると考えるのは無謀は賭け(a reckless gamble)だろう。



かといって、武力行使に踏み切るのか。

エコノミスト誌は言う。戦争は軍事管理(arm-control)の手段としては効果が薄い。
”war is a poor form of arms-control"

アメリカが数ヶ月をこえる軍事作戦を実行する胆力(the stomach)があったとしても、空爆(bombing)では核のノウハウ(know-how)まで破壊することはできない。かえって核開発プログラムがを地下へ潜伏させてしまう恐れがある。

戦争はあくまで、イランが核兵器にむかって猛進しはじめたときの最後の手段(a last resort)であろう。







しかしアメリカの国力が衰えている今、イランの野心(ambitions)は掻き立てられている。

イランは経済制裁を受けてなお、乏しい資金を積極的にイラクやシリアなどの混乱地域に注ぎ込んでいた。レバノンでは民兵組織であるヒズボラを援助し、バーレーンやイエメンでは人心を扇動している。制裁が解除された今、イランの国外における暴力行為(violence abroad)はエスカレートする恐れがある。

イスラム国(IS)のジハード主義者、イエメンでのサウジアラビアとの戦争、弱体化するシリア政権…。イランの攪乱する中東地域は、はなはだ混乱状態(turmoil)におかれている。



それでも今回の合意で、アメリカが中東地域(the Middle East)に腰を据えることとなった。

アメリカのオバマ大統領にとって、イランとの核合意は「外交政策における遺産(foreign-policy legacy)」であり、彼自身が最高責任者(enforcer-in-chief)である。それは大統領が代わっても継続される。

制裁が解除されイランの資金が増えれば、確かにイランの活動は活発化するであろう。しかし、「資力の大小によって支配力が決まるわけではない(dominance is not determined by resources)」。それはアメリカがイラクで思い知った教訓だ。

アメリカが中東地域で外交努力(regional diplomacy)を継続するならば、きっとイランの封じ込め(contain)に役立つだろう。







ところで、なぜイランは核計画の制限に合意したのか?

イランの最高指導者であるハメネイ師は、国際社会にふたたび加わる決断を下した。それは核協定を裏切った北朝鮮の金王朝(Kim dynasty)とは対照的だ。ハメネイ師は世界のノケ者(a pariah)でいるよりも、国民に繁栄の可能性(a shot at prosperity)があると思わせておくほうが得策だと判断したのかもしれない。

イランでは神権政治(theocracy)が国民を支配している。国民の革命への熱意(revolutionary zeal)はとうの昔に失われてしまった。まるで中国のように。



いずれにせよ今回の合意により、ハメネイ師はイランをより開かれた国へと導いた。

世界の他の国々との貿易が増えれば増えるほど、イランは世界経済の網に織り込まれていくことになる。そうなれば必然、他国とイガミ合っているよりも、まともな関係(decent relations)を築くほうが富を増すことにつながっていく。



合意いかんに関わらず、イランほどの高度な知識(sophistication)をもつ大国は、いずれ核兵器を手にすることになるであろう。

「その事実はどうあっても変えられない」
"Nothing can change that"

ただその時、イランと外界とのつながりが密になっているほど、イラン国内にも穏健派の声(moderating voices)が大きく響くことになるだろう。










出典:
The Economist 「Nuclear Iran; Hiyatollah!」
JB press 「イラン核合意:この機会を逃すな」




posted by エコノミストを読む人 at 06:46| Comment(0) | 中東 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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