ギリシャに握られたヨーロッパの未来
Europe's future in Greece's hands
The Economist
Jul 4th 2015
過去、これほどの惨状はギリシャにあっただろうか。
シャッターが下ろされた銀行(barred banks)
先進国による初のデフォルト(対IMF)
巨額救済プログラムの破綻(the collapse)
…
ギリシャのGDP(国内総生産)は過去5年間で4分の1も減少し、失業率(unemployment)は25%を上回り、若年層にいたっては失業率が50%を超えている。ギリシャの資金はもう尽きかけている(running out of money)。
ギリシャのユーロ離脱(Greece's exit)の可能性はいよいよ高まっているかに見える。
エコノミスト誌は言う。
「ギリシャがいない方が、ユーロ圏は安定するだろうと今や多くの人が考えている(Without Greece, many now conclude, the euro zone might actually be more stable)」
しかし即座に否定する。
「残念ながら、それは間違っている(Sadly, that is wrong)」
いったい、どのようなルール違反がユーロ追放(expulsion)につながるというのか?
それは誰にも分からない(nobody would know)。
ギリシャの機能不全(dysfunction)をギリシャ特有のものと考えることは危険である。そうした発想は、単一通貨ユーロのみならずEUそのものを破壊してしまいかねない。
エコノミスト誌は言う。
「ギリシャが混乱におちいった責任の一端は、債権者(ドイツなど)が押しつけた緊縮策(austerity)にある。とりわけ危機勃発当初、ギリシャの財政赤字(badget deficit)をあまりにも大幅かつ急激に(too far too fast)削減しようとしすぎた」
2015年1月の選挙で、左派の寄せ集め(ragbag of leftist)であるSYRIZAがギリシャの政権を握ることになったのは、ユーロ諸国がギリシャを厳しく締め付けすぎた結果ともいえる。
そして不幸にも、選挙に勝ってギリシャを率いることになった男、チプラス首相は無能(useless)であった。
彼は最初、自分に交渉力(bargaining power)があると信じていた。チプラス首相は、債権者ら(creditors)がユーロ圏の分裂を阻止しようとしている限り、必ずギリシャに屈服するはずだと考えていた。
しかしながら、債権者らがチプラス首相の脅し(blackmail)に屈することは決してなかった。債権者らにとってはギリシャのユーロ離脱よりも、システムの規律(discipline)を守ることの方がよっぽど重要だった。無条件の財政移転(unconditional transfers)など過去に受け入れられたことはない。
とはいえ、ユーロ諸国によるギリシャに対する場当たり的な救済(ad hoc bail-out)は、ドイツら債権国(creditors)とギリシャら債務国(debtors)の対立を浮き彫りにし、両者の二極化(polarisation)は深刻化した。
債権国は軽蔑(contempt)を、債務国では恨み(resentment)を噴出させた。その負のスパイラル(downward spiral)は、ギリシャを瀬戸際戦略(prinkmanship)へと追いやった。
もしギリシャの首相が賢明であったのなら、この混迷のなかでも優れた知恵と相応の手腕(nous and skill)を見せたことであろう。哲学者プラトンを生んだ国なのだから。
しかし残念ながら、チプラス首相にはその両方が欠けていた。そして彼は、ばかげた国民投票(absurd referendum)へと舵をきった。債権国に突きつけられた改革案に反対すれば、交渉を有利にもっていけると誤解したのである。
投票前夜、ヨーロッパ諸国の首脳たちは警告した。「反対票を投じれば、事実上、ユーロ離脱に票を投じることになる(a No is in fact a vote to leave)」と。
エコノミスト誌は言う。
「現時点でギリシャに必要なのは新しい首相だ(Right now Greeks need a new prime minister)」
ギリシャのユーロ離脱(いわゆるグレジット、Grexit)を加速させかねない国民投票(referendum)の実施は、貧窮する国民(the beggary of the people)をさらに追い詰めただけだった。もはや、チプラス首相の無能さは彼自身の責任(own fault)にとどまらない。
エコノミスト誌は言う。
「不誠実なチプラス首相(the devious Mr Tsipras)との関係は破綻した(shuttered)。チプラス首相が政権の座に留まるかぎり、ギリシャはユーロ残留に苦労するだろう(they will struggle to stay in the euro)」
将来に目をむければ、ユーロ圏は”第2のギリシャ(more Greece)”を出さないためにも、その体制を強化する必要がある。
エコノミスト誌は言う。
「たとえば共同の失業保険制度(unemployment insurance)があれば、不況の国に追加の資金(extra funds)を流せるはずだ。ユーロ圏が必要としているは何らかの形のユーロ債(Eurobonds)、つまり共同保証の公債であり、それを現在よりも強い財政規則(fiscal rules)により統制することだ」
しかし、ユーロ各国の国民(とくに反EUのポピュリスト)は国の主権(sovereignty)をこれ以上明け渡したくないと考えている。とはいえ、安定した通貨(a stable currency)と財政主権(fiscal sovereignty)がトレードオフ(二者択一)の関係にあることを理解しなければならない。
新たな変化が必要なことはユーロ圏も承知しており、控えめながらも銀行同盟(banking union)構想は前進している。
エコノミスト誌は言う。
「ヨーロッパの市民は、今すぐユーロの矛盾(the euro's contradictions)と向き合わなければならない。それがギリシャの惨事の教訓(the moral)だ」
出典:
The Economist 「The euro and Greece; Europe's future in Greece's hands」
JB Press 「ギリシャの手中にある欧州の未来」