2015年08月03日

日本企業を包みこむ変化の空気 [The Economist]



2015年初め、大塚家具の創業者が社長である自分の娘を会社から追い出そうとする光景(spectacle)に皆くぎ付けになった。娘である大塚久美子氏は社外取締役(outside directors)を起用すると言って父親に反抗したのであった。

幸い、久美子氏は社長の座にとどまることができた。彼女は言う、「コーポレートガバナンス(corporate governance)に対する姿勢が変化してきたのです」と。





日本政府は2015年6月1日、「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)」の適用を開始した。その一つとして、企業に社外取締役を選任するよう求めている。現在、日本企業の多くが社外取締役を置いていないが、今回の新ルールによって、ものぐさな取締役会(slothful boards)もうかうかとしていられなくなった。

日本企業の世界的な競争力が低下した一つの原因として、不活発な取締役会(quiescent boards)が挙げられる。ジョージ・オルコット氏は言う、「会社の戦略について議論する取締役が少なすぎ、自分たちの仕事はすでに下された決断を単に承認するだけだと思っている取締役が多すぎる」と。

新たなコーポレートガバナンス・コード(corporate-governance code)によれば、企業は社外取締役(outside directors)を2人以上選任することを義務づけられる。政府が企業に対して詳細なルールを制定したのはこれが初めてで、これは安倍晋三首相によるアベノミクスの一環である。企業改革(the corporate reforms)は日銀の金融緩和(monetary easing)と並んで安倍首相の最も具体的な要素となっている。




日本では今、『ROE最貧国(the Poorest Nation)日本を変える』といったタイトルの本が飛ぶように売れている(flying off the shelves)という。

ROEとは株主資本利益率(Return on Equity)のことで、これまで日本企業はこの指標で欧米企業に遅れをとってきた(lagged behind)。日本企業は得られた利益を賢く投資して事業を拡大する代わりに、膨らむ現金の山(growing piles of cash)の上にあぐらをかいてきたのだった。

日本は世界第3位の経済大国(the world's third-largest economy)であるにも関わらず、その国民は不思議なほど起業家精神(entrepreneurship)をもっていないように見える。ロンドン・ビジネススクールの調査によると、昨年、日本で起業にたずさわったのは労働人口(the working population)に対してわずか4%だった。ちなみにアメリカでこの数値は14%、日本の3倍以上である。





日本には社内文化(internal culture)として、勤続年数の長い生え抜き(time-serving insiders)から次期社長を任命するという伝統がある。社員の給与は実績(performance)よりも勤続年数(length of service)に依存することが多い。いわゆる年功序列制度である。加えて、終身雇用(lifetime employment)という伝統も根強く残っている。

しかしアトゥル・ゴーヤル氏(証券会社ジェフリーズのアナリスト)は言う。

「考えてみてほしい(Imagine)、アップルやグーグル、アマゾンなどの世界企業が、実績ではなく勤続年数で昇格してきた人たちを経営幹部に据えたらどうなるでしょうか? そんなことをした会社がどれくらい持つと思いますか?」

戦後の日本経済は奇跡的な飛躍をとげて、ソニーやシャープのような世界企業を生み出した。しかし今や家電(consumer electronics and appliances)では、アメリカのアップル、韓国のサムスン、中国のハイアールといった企業に置いていかれてしまっている。



2008年、日立製作所は製造業として史上最大の赤字(the largest loss on record)を記録した。当時の日立は、日本有数の保守的な企業(most conservative)であった。従業員とその家族、もしくは仕入先とその家族が最優先される完全なコミュニティ企業(community firm)だった。

しかし、大赤字をくらって目の覚めた日立は改革に着手。消費者関連事業(薄型テレビ、携帯電話、コンピューターなど)を切り離し、発電所や鉄道システムなどに販売の焦点を定め直した。と同時に、古き日本的な社内文化にもメスを入れ、年功序列制度(the seniority-wage system)をほぼ捨て去った。

その成果は素晴らしかった。2015年3月期に営業利益(operating profits)が12%増加して6,000億円になった。





 「誰もが次の日立(the next Hitachi)を探しています」と、キャシー・松井氏(ゴールドマン・サックス)は言う。

日本ではこれまで、外国の”物言う株主たち(activist shareholders)”はガーデンパーティーのスカンク(skunk at a garden party)ほどにしか歓迎されてこなかった。ゆえに過去に相次いで押し寄せた投資家たちは、たいていは損を出して敗退する結果に終わっていた。



しかし近年、変化の風(winds of change)が吹きはじめている。

その風穴の一つをアメリカの最も好戦的な投資家、ダニエル・ローブ氏が開いた。彼は安倍総理、麻生財務大臣、黒田日銀総裁らと私的な会合(private meetings)をもった。

「彼がキャメロン英首相、メルケル独首相らと会うなんて、想像できますか?」



さらにローブ氏は、日本のロボットメーカーであるファナックの株式を取得し、社長である稲葉善治氏と富士山麓の本社でお茶を飲んだ。

ファナックはこれまで秘密主義をまもって、投資家と直接的な関わりをもつことを避けてきた。株主に還元するよりも現金の山を貯め込むことに熱心だった企業だ。そのファナックが2015年3月、現金の一部を投資家に還元するというニュースが世界の投資家たちを驚かせた。

いまやローブ氏は日本に第2の故郷(a second home)を見出している。





日本における企業改革は、国民のムード(the public mood)をつかみつつある。日本人経営者にとって「空気を読む(read the air)」ことは大切な能力である。

「現在その空気(the air)の中にあるのは、株主と株主利益に対する企業姿勢の改革(a revolution in companies' attitude)にほかならない」と国内外の投資家は考えている。日本の上場企業では外国人の持ち株比率(proportion of shares)が高まっており、それが日本企業に変化の圧力をかけている。

しかし社内革命の準備がまだできていない企業も多く、そうした企業は自社株買い(buying-backs)などによってその場をしのごうとしている。自社株買いの総額が2014年、3兆7000億円というリーマンショック以来の最高水準にまで達している。

サントリーの新浪氏は言う、「日本企業が業績不振(poor performance)の根本的な原因に対処しないまま、単に自社株買いのようなやり方でバランスシートを再構成するのだとしたら非常に残念だ」と。



それでも、改革を迫る空気は待ったなし。

日本政府が新たに定めたコーポレートガバナンス・コードに加え、投資家向けにもガバナンス・コード(スチュワードシップ・コード)が昨年すでに導入されている。企業経営者のみならず機関投資家(institutional investors)にも、無関心な不労所得者(supine rentiers)から責任ある管理者(responsible stewards)になることが求められている。

ISS(インスティチューショナル・シェアホルダー・サービシズ)はさらに厳しく迫る。「過去5年間で5%以上のROE(株主資本利益率)を達成できなかった日本企業の経営者には不信任票を投じてしまえ」とまで言うのだ。ちなみに現在、東証株価指数(TOPIX)を構成する1891社のうちの約4分の1の企業が、この基準を満たすことができない。

「空気を読むこと」を非常に気にかける日本人経営者に対して、東京証券取引所は昨年、「不名誉指数(shame index)」を導入している。この指数から外されるというバツの悪さ(the embarrassment)を嫌って、大慌てで改革を断行しようとする大企業の経営者もでてきている。





日本企業伝統の終身雇用(lifetime employment)や年功序列(the seniority-wage system)にしがみつきたがるのは40代後半の人々であって、若い労働者たちはむしろ新しい風を歓迎している。彼らは最近大ヒットしたテレビドラマ、半沢直樹に強い共感を抱いているのだ。

従来、日本の経営者の報酬体系は成果との連動性がが低いうえに、海外先進国と比べて報酬額も低かった。それはトップまで上り詰めた人たちが保守的で偏狭(narrow-minded)になってしまうためだった。野心的な若者でさえ、そうした硬いヒエラルキーの階層(the layers of hierarchy)を押し分けていくのは至難の技だった。

いまやパナソニック、ソニー、トヨタなども成果連動型の賃金・昇給システム(performance-related pay and promotion)に移行している。社内での出世(the ascent of the corpotate ladder)が勤続年数から実績へと移行していけば、出身大学による差別もなくなると若い人たちは喜んでいる。





ある改革はの経営者は言う。

「優良大企業(large blue-chip firms)の現在のトップのざっと半分は退任させるべきだ(should be turfed out)」と。

改革の風は吹いてきたとはいえ、まだまだ日本株式会社(Japan Inc)は昔ながらの伝統で出世した終身サラリーマン(lifetime salarymen)でひしめき合っている。



ドラスチックな対策を講じる意志が企業側にあるかどうか。

エコノミスト誌は言う。

「それを決めるのは外国人アクティビスト(物言う投資家)ではない。日本人自身(locals)なのだ。日本企業はかつてないほど自らが目覚めようとしはじめている」






出典:
The Economist「Japanese companies; Winds of change」
JB press「日本企業:大きな変化の風」



posted by エコノミストを読む人 at 07:02| Comment(0) | 企業 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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