2015年09月16日

保存されるべき種子 [The Economist]



農業は効率化されたがゆえに、ある特定の作物だけに集中してしまっている。

From the wheat in steaming noodles to the maize of fresh tortillas, just 30 crops now sate almost all of humanity's nutritional needs.

蒸し麺の小麦(wheat)からトルティーヤのトウモロコシ(maize)まで、たった30ほどの作物が現在、人類が求める栄養のほとんどを満たしている。



しかしながら、すべての卵を一つのカゴに入れてしまうのは危険である。

Monoculture carries great risks. A single disease or pest can wipe out swathes of the world's food production.

単一栽培(monoculture)には多大なリスクが内在する。たった一種の病気もしくは害虫が、世界の食物生産すべてを一掃してしまうこともありうる。

増大をつづける世界人口は、2050年までには今の70%増の食料を必要とすることになるそうだ。もし、アジアの洪水がもっと頻繁に、アメリカの旱魃がもっと深刻になるのだとしたら、食料の増産は容易ならざることになる。

Pests are on the move. Since the 1960s, unwanted beasties, spared harsh winter frosts, have moved polewards at an average of around 3km (2miles) a year.

好ましからざる害虫は1960年代から移動を続けている。厳しい冬の寒さを避けてきた害虫らは、年平均3km前後のペースで極地方向へと移動している。

地球全体の平均気温が上昇しているため、害虫にかぎらず病害までが、かつてない地域にまではびこりつつある。



40年前、アジアの水田(paddy fields)では害虫トビイロウンカ(brown planthopper)による大被害があった。その危機を救ったのは、ある野生のマコモ(Indian rice)の遺伝子だった。

The solutions to some of these problems lie in the genes of wild relatives of food crops. This is often cheaper and less controversial than genetic modification.

これらの問題(食糧問題)の解決策の一つは、栽培作物(food crops)の野生近縁種(wild relatives)の遺伝子のなかにある。この方法は、遺伝子組み換え(genetic modification)よりも安価、かつ反対意見が少ない。



種子バンク(seed bank)は現在、740万種のサンプルを保有しているという。種子のサンプルを健全に保つためには、乾燥や冷凍ばかりではなく、一定の繁殖(propagation)を繰り返す必要がある。そうした作業のなかで植物学者ら(botanists)は経験を積み、新たな種の発見へと至っていく。

だが、そうした費用は多大である。種子バンクの多くが1970〜80年代の設立であるため、現在では資金不足、もしくは戦争や火災によって失われてしまったものもある。生物工学(biotech)企業はといえば、金になる特定の作物にしか興味はない。ゆえに、生物の多様性(biodiversity)を維持するためには、政府の力が必要とされることになる。



世界の種子バンクは、135ヵ国およびEUによって2004年に調印された国際種子条約(the International Seed Treaty)にしたがって協力運営されている。

It identifies 35 food crops as so essential to global food security that their genetic diversity should be shared widely.

国際種子条約(the International Seed Treaty)は、35の食用作物(food crops)を世界の食の安全にとって極めて重要な作物と指定しており、それらの遺伝的多様性(genetic diversity)は広く共有されるべきものである。

しかし、生物資源の盗賊行為(biopiracy)に対する規制が、いくつかの国において国際種子条約の履行をさまたげている。

19世紀、泥棒男爵(robber baron)はアマゾンの密林からくすねてきた種子よって、財を築いた。たとえば探検家のヘンリー・ウィックハム(Henry Wickham)は、ブラジルから7万もの種子を得て、アジアにゴムの大農場をつくった。そのような歴史的経緯から、インドなどでは種子サンプルの輸出を禁じたままである。



過去100年のあいだに、作物の遺伝的多様性はその4分の3が失われたとされている。

Preserving what remains is an insurance policy against the effects of climate change. The damage from the brown planthopper came to $1 billion in today's money. Governments should share species and fund seed banks. Their work is a vital safeguard against hunger.

残った種を保全することは、気候変動(climate change)の影響に対して保険証書(an insurance policy)となる。トビイロウンカ(brown planthopper)による損害は、今の金額にすれば10億ドル(約1,200億円)に達しているのだ。政府は種子を共有し、種子バンクに出資すべきだ。そうすることが、飢餓に備える決定的な対抗手段となるのだ。













(了)






出典:
The Economist, Sep 12th 2015
Biodiversity; Growing pains.



posted by エコノミストを読む人 at 16:28| Comment(0) | 自然 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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