2015年04月10日

縛られた大都市



「土地を買え(Buy Land)」

かつてマーク・トウェイン(米国の作家)は言った。



その理由は

「新しい土地がつくられることはないから」

"They're not making it any more."

つまり、土地には希少価値(scarcity)がある、と言ったのだ。



実際、ロンドン(イギリス)やムンバイ(インド)、ニューヨーク(アメリカ)などの大都市では現在、土地の価格が跳ね上がっている。その旺盛な需要(rampant demand)に対して、土地の供給が限られているからだ。

ロンドン中心部、メイフェア地区の住宅物件(residential property)は、高いもので1平方メートルあたり5万5,000ポンド(約1,000万円)。マンハッタンの住宅地1平方マイル(約2.56平方km)の価格は165億ドル(約2兆円)だ。香港の土地の実勢価格は、ここ10年間で150%上昇している。







大都市における土地不足に加え、その値を吊り上げているものに人為的な規制(artificial regulatory limits)がある。

『建物の高さと密度に関して規制が設けられており、これが供給を制限し、価格を吊り上げているのだ(The Economist誌)』

"Regulatory limits on the height and density of buildings constrain supply and inflate price."

LSE(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス)の分析によると

『ロンドンのウエストエンド地区では、土地活用の規制(land-use regulation)がオフィス物件の価格を約800%膨らませている。ミラノやパリでも、こうした規制が約300%も価格を押し上げている(The Economist誌)






厳しく規制されていることで建設コストがかさみ、新しいオフィスの建設はほぼ不可能(well-nigh impossible)。こうした不動産市場の機能不全(misfiring property market)は、貧しい労働者に代償を強いることになる。

『住宅価格が高いため、労働者は価格は安いが生産性の低い場所(less productive places)に住むことを強いられる。ある研究によると、サンフランシスコ付近のベイエリアの雇用は、仮に厳しい建築規制(tight limits on construction)がなければ、現状と比べて5倍の規模になっているはずだという(The Economist誌)』



規制によって失われた収入(lost earnings)。そして、活用されなかった人材の潜在能力(unrealised human potensial)。それらを合計すると目もくらむような(dizzying)金額に達する。

『アメリカの都市部の成長をはばむ障壁(barriers)をすべて撤廃した場合、同国のGDP(国内総生産)は6.5〜13.5%増加する可能性がある。この増加分は約1〜2兆ドル(120〜240兆円)に相当する。これほどの成長をもたらす政策は、そう多くは思い浮かばない(The Economist誌)』






20世紀には一時、都市の魅力が薄まった。というのも移動コスト(transport costs)が急落したためだ。

しかし21世紀に入り、都市の魅力は復権した(revival of the city)。デジタル革命により労働者の集中(clustering of workers)が必要になったからだ。ITや金融といった産業は知識集約型(knowledge-intensive)であるため、アイディアや専門知識を共有することが成長につながる。つまり大都市にあってこそ力を増すのである。



都市の土地利用が大きく規制されたのは19世紀後半。その無軌道な都市の拡大(unconstrained urban growth)が、犯罪や病気の蔓延を招いたためだった。

しかしグリーンベルトや土地利用の規制は、20世紀を通して山のように積み上がってしまった。

『建築許可の取得は、雨降りの午後にタクシーをつかまえるよりも難しくなっている(The Economist誌)』

"Getting planning permission is harder than hailing a cab on a wet afternoon"






ロンドンでは、新たな建築がセントポール大聖堂の眺め(views of St.Paul's Cathedral)をさえぎることを許さない。

シリコンバレーでは、グーグルの社宅で飼われるであろうペットが、付近に棲むフクロウの群れ(local owl population)を脅かすかもしれないという理由から、いまだ建築許可がおりていない。



『エコノミストの好きにさせたら、ニューヨークのセントラルパークもあっという間に舗装されてしまう(The Economist誌)』

"Give economists their way, and they would quickly pave over Central Park."

公的空間(pablic spaces)と街の歴史遺産(a city's heritage)は、最新の注意を払って開発に取り組まなければならない。しかしそのせいで、地域エゴの強い人々(nimbyish residents)が新たな建築計画を次々と阻止してしまっている(駐車スペースから照明の明るさまで!)。



活気あふれる都市ほど持ち家率(the home-ownership rate)が低いのはなぜか?

沈滞傾向にあるデトロイト都市圏の持ち家率が71%。好況に沸くサンフランシスコのそれは55%。つまり、家の所有というのはそれほど平等なものではない。

『大都市で家を持つ人を増やすためには、高層ビルを林立させる必要はない。サンフランシスコでは今の2倍の人口を抱えることも可能で、それでもマンハッタンと比べると人口密度は半分ほどにとどまる。アメリカの全人口はテキサス州の面積に十分に収まるはずで、その場合でも各世帯には1エーカー(4,000平方メートル強)以上の土地が行き渡る(The Economist誌)






本来、都市の規制(zoning codes)は社会的利益とコストのバランスを図るために編み出されたはず。しかし、歪んだ土地規制は、土地の所有者(land owners)を肥えさせ、彼らの資産(property)は盤石となるばかり。

エコノミスト誌は言う。

『政府は地価に対する課税を強化すべきだ』

"Government should impose higher taxes on the value of land."

『地価は脱税が難しい。土地をルクセンブルクの銀行の金庫にしまっておくことはできないからだ』

"They are difficult to dodge; you cannot stuff land into a bank-vault in Luxembourg."






とはいえ、都市計画の改善や地価税は、どちらも実施は容易ではない。政治的な障壁までクリアするのは並大抵のことではない。

『それでも、その厄介な問題を解決した者に1兆ドル(約120兆円)規模のメリットをもたらすような問題は、ごくわずかである(The Economist誌)』

"Few offer the people who solve them a trillion-dollar reward".

『世界の巨大都市では土地が有効に活用されておらず、多大な損失を招いている』

"Poor land use in the world's greatest cities carries a huge cost."













(了)






ソース:
The Economist「Urban land; Space and the city
JB press 「都市の土地問題: 成長のために空間を活かせ





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2013年06月06日

「環境」よりも「政治寄り」になってしまった電気自動車



エコカー
Low-emission cars

切れた電気自動車のバッテリー
Flat batteries



電気自動車は未来のエコカー(the green wheels)レースでエンストした(stall)。

英国エコノミスト誌 2013年6月1日号より






「交換可能なバッテリー(swappable batteries)」

イスラエルの電気自動車メーカー「ベタープレイス(Better Place)」は、交換可能なバッテリー(swappable batteries)を搭載した電気自動車で、2007年に10億ドル(約1,000億円)の資金調達を行いました。

ところが先月(5月26日)、同社はイスラエルで会社精算(liquidation)を申請するまで追い込まれてしまいました。



「破産(bankruptcy)」

電気自動車にとって、先月5月は楽しい月(the merriest month)ではなかったようで、アメリカでも5月1日に電気自動車メーカー「コーダ(Coda)」が破産(bankruptcy)を申請しています。

さらに、アメリカの自動車メーカー「フィスカー(Fisker)」もまた、破綻の瀬戸際(on the brink of collapse)に立たされています。まだ車を一台も生産していないというのに(!)。



「販売割り当て(quotas on sales)」

大手フィアットも「フィアット500」の電気自動車バージョンを販売していますが、同社は1台販売するごとに1万ドル(約100万円)の赤字が出るといっています(車両価格は約320万円、ガソリン・バージョンの約2倍)。

それでも販売しなければならないのは、カリフォルニア州が自動車メーカーに対して「ゼロ・エミッション(zero-emission)」の販売割り当て(quotas on sales)を課しているからだそうです。



「電気スポーツカー(battery-powered sports cars)」

電気自動車各社があえぐなか、電気スポーツカー(battery-powers sports cars)を手がける「テスラ(Tesla)」ばかりは好調の風の中にいます。

同社は四半期決算で初の黒字(profit)を計上し、4億5,200億ドル(約450億円)の政府融資を前倒しで返済した(repaid early)と発表しました。



「へま(flop)」

テスラの例を除けば、電気自動車は全体的にヘマ(flop)のほうが目立ちます。それは、完全なバッテリー駆動(purely battery-powered)にしろ、補助的に(as backups)ガソリンエンジンを用いるハイブリッド車(hybrids)にしろ同様のようです。

電気自動車はやはり高価(expensive)で、走行距離も限られているのです(a limited range)。



「すべての車が環境に優しい(all cars are greener)」

電気自動車がいまいち振るわないのは、ガソリンやディーゼルなど化石燃料を用いる従来の車が、以前よりずっと環境に優しくなっている(greener)からでもあります。

排ガス基準(emission standards)がそれを後押ししました。



「バイオ燃料(biofuels)」

ガソリン(もしくはディーゼル)エンジンは、低価格(low-cost)、低炭素(low-carbon)のバイオ燃料(biofuels)でも動くようにもなり、よりクリーンで長寿命にもなっています。

一方、電気自動車の燃料であるバッテリーは、その軽量化(lighter)、低価格化(cheaper)において、一歩遅れているようであります。



「不確実性(uncertainty)」

どうやら完全な電気自動車(pure electric cars)には、不確実性(uncertainty)が付きまとっているようです。賢い政治家ならば、そのリスクは企業(businesspeople)に負わせようとするでしょう。

リスクを背負わされた企業は、ヨーロッパでもアメリカでも、日本でも中国でも一様に不満をこぼしています(grumbled)。



「よりクリーンな未来(a greener future)」

電気自動車は確かに、未来なクリーンな道路環境(tomorrow's cleaner traffic)の一員ではあるでしょう。ただ今のところ、答えのすべて(the whole answer)ではないようです。

それでも政治家たちは、電気自動車に肩入れしすぎているようです。



「政治家たち(politicians)」

アメリカのオバマ大統領は、2015年までにアメリカ国内の道路に100万台の電気自動車を走らせると話していますが、これまで(so far)その目標達成率はわずか5%にとどまっています(5% of the way)。

ドイツのメルケル首相は、2020年までにドイツ国内で100万台の電気自動車を普及させることを目標(aim)としています。しかし、昨年ドイツで販売された電気自動車は3,000台にすぎません。



「攻撃(under fire)」

オバマ大統領はその無謀な目標を議会(congress)から攻撃されて、結局、電気自動車関連の企業に対する融資を取りやめました(stopped lending)。

ちなみにアメリカ政府は、破綻の瀬戸際にいる電気自動車メーカー「フィスカー」に一部出資もしていますし(partly financed)、電気自動車用のバッテリーを生産している「A123システムズ)」にも助成金(subsidy)を出しています。



「ほとんど意味がない(little sense)」

エコノミスト誌は、そうした政府の補助金(subsidies)には、ほとんど意味が無い(little sense)と言っています。もし政府が排ガス(emissions)を削減したいのならば、国民にお金を払って住宅に断熱材を入れてもらったほうがマシだ、と。

それでも電気自動車を捨てきれないオバマ大統領はまだ、電気自動車に対する連邦税額控除の限度額(the maximum federal credit)を7,500ドル(約75万円)から1万ドル(約100万円)に引き上げたがっているようです。

さらに中国政府も、電気自動車一台につき最高6万元(約100万円)を支給するという以前実施されていた補助金制度(old subsidy scheme)を再開させる模様です。



「はかなくもカネのかかった生涯(brief, expensive life)」

多くの破綻した電気自動車メーカーは、その儚くも(brief)カネのかかった生涯(expensive life)において、何を成し得たのでしょうか?

納税者(taxpayers)の負担の割りには普及も進まず、思ったよりも環境へ貢献できていないようでもあります。

あらかじめ勝者を選ぶということ(picking winners)は、ときには愚かなこと(the folly)でもあるようです…。










英語原文:
Flat batteries : The Economist

posted by エコノミストを読む人 at 05:54| Comment(2) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年03月11日

誰もがレンタル業者になれる日


個人間レンタル
Peer-to-peer rental
シェア経済の高まり
The rise of the sharing economy



インターネット上では、あらゆるものがレンタル品(for hire)になる。

英国エコノミスト誌 2013年3月9日号より



「シェア経済(sharing economy)」

シェア経済とは、個人がインターネットを通じて(via the internet)、宿泊場所(beds)や自動車、船などを貸し借りする仕組みのことです。

たとえば、エアビーアンドビー(Airbnb)という企業は、宿を提供してくれる個人と宿泊客をオンラインで引き合わせて、支払いもすべてオンラインで済ませてしまいます。



「取引コスト(transaction costs)」

こうしたシェア経済は、朝食とベッドだけを提供するB&B(bed-and-breakfast)や、別荘の共同所有(timeshare)、車の相乗り(car pool)などと似たところがあります。

ただ、新しいシェア経済では、インターネット技術のおかげで取引コスト(transaction cost)が下がり、これまでになく共有するのが簡単に、そして安くなっています(easier and cheaper)。



「レンタル可能な資産(physical assets)」

レンタル可能な資産(physical assets)のデータが増えたおかげで、それらを細かく貸し借りことも可能になっています。たとえば、サーフボードや電動工具、駐車スペースなどもレンタルできるのです。

それらの物やスペースは以前も誰かから借りることはできました。しかしかつては、レンタルする価値よりも煩わしさのほうが大きかった(more trouble than it was worth)のではないでしょうか。



「借りられる車(rentable car)」

たとえば、GPS搭載のスマートフォンを使えば、もっとも近くにある借りられる車(rentable car)を簡単に検索することができます。

さらに、フェイスブックなどのソーシャルネットワークを使えば、貸し手の身元も確認でき、新たな信頼関係を築くことが可能となります。決済はもちろんオンラインです(online payment systems)。



「即席のタクシー(ad hoc taxi)」

インターネットのサービスを使えば、いまや誰もが即席のタクシー(ad hoc taxi)やレンタカー会社(car-hire firm)になれます。自宅をブティック・ホテルにすることもできるのです。オンライン登録し、アプリをダウンロードするだけで。

それは、かつてイーベイ(eBay)やオークション・サイトが、あらゆる人を小売業者(retailer)に変えてしまったことと同様です。



「買うには高い(expensive to buy)」

みんなが持っているけど、買うには高い(expensive to buy)、そんなときに個人間レンタル(peer-to-peer rental)は大変に便利です。

たとえばその代表例は、自動車や宿泊部屋(bedrooms)でしょう。ちなみに、スウェーデンではキャンプのスペースが、オーストラリアでは農地(fields)が、フランスでは洗濯機(washing machines)までがレンタルの対象となっているとのことです。



「P2Pレンタル市場(peer-to-peer rental market)」

いまや、一般消費者むけのP2Pレンタル市場(peer-to-peer rental market)だけで、260億ドル(約25兆円)の巨大市場になっています。

より広い定義では、屋根にソーラーパネルを設置して余剰電力を電力会社(the grid)に売ることもP2Pレンタルに含まれるのだそうです。



「空きオフィスや使っていない機械(spare offices and idle machines)」

シェア経済は個人(individuals)に限定されているものではありません。企業にも空いたオフィス(spare offices)もあれば、使っていない機械(idle machines)もあります。

それら無駄に遊んでいる資産も、オンラインでは簡単に貸し出すことが可能なのです。



「共同消費(collaborative consumption)」

使っていない資産(underused assets)を持っている人は、それでお金を稼ぐことができます。

個人宅を宿にしてしまうエアビーアンドビー(Airbnb)によれば、サンフランシスコの宿主は年平均で58回自宅を貸し出し、年間9,300ドル(約90万円)を稼いでいるそうです。また、自動車の場合は月平均250ドル(約2万4,000円)の収入、なかには月1,000ドル(約9万6,000円)稼ぐ人もいるのだとか。



「環境面の利点(environmental benefits)」

自動車を一人一人が所有するよりも、共同で利用するほうが環境には優しいでしょう。必要な台数が少なくなり(fewer cars)、車の製造に費やされる資源も減るはずです(fewer resources)。

何より、個人も安く済ませられるでしょう(pay less)。



「社交的な人々(sociable souls)」

社交的な人々(sociable souls)にとっては、個人から部屋を借りたり、車を借りたりしすることは、人と知り合う魅力の一つ(part of the charm)となるかもしれません。

ウェブによる個人間のP2Pレンタルの斡旋が、信頼を築く手段にもなるのです(foster trust)。



「レビューと評価(reviews and ratings)」

もし、映画「サイコ」のノーマン・ベイツのような貸し手がいるのでは、と心配する人がいたら、オンラインのレビュー(reviews)や評価(ratings)が参考になるでしょう。

過去の履歴を確認すれば、運転の下手なドライバー(lousy drivers)や、バスローブを持ち帰る宿泊客(bathrobe-pilferers)、サーフボードを壊す人(surfboard-wreckers)などを簡単に特定することができます(easy to spot)。



「安全性(security)」

思えば15年前、オンライン・ショッピングがアメリカで始まった頃、慣れない消費者たちは、その安全性(security)を不安視していました。しかし、アマゾンなどが確固たる信頼性を示し続けたことで、別のサイトで買っても安全だという安心感が徐々に育まれていったのです。

いまはまだ黎明期にあるシェア経済、消費者が不安に感じるところがあるのは無理なからぬことですが、今のところ、エアビーアンドビーなどの利用者は、ほかのサービスも使ってみようという気になっているようです。



「新たな起業のチャンス(new opportunities for enterprise)」

オンライン・ショッピングの大成功を見るまでもなく、シェア経済の未来(peering into the future)は新たな起業のチャンス(new opportunities for enterprise)に輝いているようです。

既存企業(incumbents)の参入も始まっています。レンタカーの米エイビス(Avis)、自動車メーカーのゼネラル・モーターズ(GM)やダイムラー(Daimler)などなど。



「適応(to adapt)」

既存企業(incumbents)は、自動車やオフィス・スペースなどの余剰設備(excess capacity)をP2Pレンタルに登録するようなハイブリッド・モデルを作り上げるかもしれません。

オンラインの新しい波は、古いものを完全に駆逐してしまうわけではなく、古いやり方に大きな変化を迫るものです。オンライン・ショッピングが小売スーパー大手のウォールマートに適応を強いたように、オンライン・シェアリングも運輸・観光・設備賃貸などの業態を揺さぶることになるのでしょう。



「規制面の不透明さ(regulatory uncertainty)」

今後、最大の懸念とされるのが、規制面の不透明さ(regulatory uncertainty)です。

アメリカでは、古来のタクシー会社(traditional taxi firms)のロビー活動により、シェアリングのタクシー・サービス(P2P taxi services)を禁止した都市もあります。オランダでは、無認可のホテル(unlicensed hotels)の取り締まりが始まっています。



「軽い規制(lighter rules)」

消費者の被害(harm)を防ぐためには、相応の規制(some rules)も必要かと思われます。

しかし、自宅の部屋を貸す人にリッツ・カールトンと同じような規制は必要ないはずです。B&B(bed and breakfast)程度の軽い規制(lighter rules)でも十分すぎるくらいでしょう(more than adequate)。



「測り知れない可能性(immense potential)」

いずれにせよ、規制当局(regulators)や大企業が関心を向けざるを得ないくらいですから、シェア経済の生み出すであろう新たなモデルには測り知れない可能性(immense potential)が秘められているようです。

シェア経済の隆盛によって、インターネットが個人にもたらすであろう富(value)は、思っているよりも大きなものとなるのかもしれません。







英語原文:Peer-to-peer rental: The rise of the sharing economy | The Economist

posted by エコノミストを読む人 at 17:40| Comment(0) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年10月31日

早急な緊縮策がふさいだ成長への道


財政と景気:近道はない
No short cuts

英国エコノミスト誌 2012年10月27日号より



「財政・金融による刺激策(fiscal and monetary stimulus)」

リーマン・ショックに端を発した世界的な景気後退(recession)。

それは、各国の行った積極的な財政・金融による景気刺激策(fiscal and monetary stimulus)によって、打ち負かすことができたように思えました(vanquished)。これは2年前の話です。



「財政再建(fiscal consolidation)」

景気刺激策というのはお金のかかるものでありますから、景気後退さえ打ち負かしてしまえば、無駄な出費は避け、財政再建(fiscal consolidation)に乗り出さなければなりません。

その結果、ここ2年間で先進国の財政赤字(deficits)はGDP比で0.75%削減される見込みです。



「経済を覆う闇(economic gloom)」

ところが、各国政府が景気刺激策から手を引いた途端、やっつけたと思っていた敵(foe)は徐々に息を吹き返してしまいました。

どうやら、景気後退を退散させるためには、刺激策が十分ではなかったらしく、背を向ける(left behind)のが早すぎたようです。その闇(gloom)はふたたび世界を覆い始めています。さらに深くなって…。



「刺激策から緊縮へ(from stimulus to austerity)」

財布のヒモを緩める景気刺激策(stimulus)から、逆に緊縮(austerity)へと各国政府を向かわせたのは、支払い能力への不安(solvency worries)、つまり、借金が返せなくなるかもしれないという不安があったためです。

とりわけギリシャへの不安が掻き立てられると、次は自分の番かもしれない(they might be next)と、各国政府は戦々恐々としてしまったのです。



「緊縮財政(belt-tightening)」

危機が去ったかに思われた2年前、IMF(国際通貨基金)は各国に緊縮財政(belt-tightening)を呼びかけました。

論争(controversy)が巻き起こったのは、この時です。一部の学者は緊縮財政は早計であり、利益より害の方が大きくなるかもしれない(cuts could do more harm than good)と警告したのです。



「財政乗数(a fiscal multiplier)」

こうした議論の中心となったのは、経済学で「財政乗数(fiscal multiplier)」と呼ばれる変数(variable)についてのものでした。

財政乗数とは、政府の緊縮財政がGDPにどれほどのインパクトを与えるかを示す数字です。たとえば、乗数が「1.5」の場合、政府が支出を1ドル削減すれば、GDPはその1.5倍の1.5ドル減ることになります。

つまり、財政乗数がその国のGDPの成長率を超えてしまうと、その緊縮財政は経済に打撃を与えてしまうこととなるのです。



「単純な例(a simple example)」

たとえば、ある国の経済成長率が「1.5%」だったとします。もし、財政乗数がその成長率より大きい「2」の状態で、政府がGDP比1%の緊縮財政(spending cut)を行えば、それは経済成長に2倍の悪影響、つまり2%のマイナス効果をもたらします。

その結果、政府が行った1%の緊縮というのは水泡に帰すことになります。なぜなら、緊縮によって経済規模が小さくなるのであれば、小さくなったGDPに対する借金比率(debt-to-GDP ratio)が上昇してしまうからです。

この場合、緊縮できるギリギリのラインはGDP比0.75%までということになります。乗数によって2倍になっても、成長率の1.5%を超えません。



「2年前の分析(2010 analysis)」

IMF(国際通貨基金)による2年前の分析(analysis)によれば、財政乗数は「0.5」でした。すなわち、緊縮財政に踏み切っても、その半分しかGDPに影響を与えないと考えたのです。それゆえ、各国に緊縮財政を呼びかけたのでした。

しかし、財政乗数に関する試算(estimates)は多岐に渡ります(all over the map)。そんな中、同じ2年前の大方の一致した財政乗数は「1前後」。これはIMFの試算に比べて、2倍も厳しく現実を見つめていたものでした。



「相殺(can offset)」

IMFの試算が甘かったのは、緊縮財政による打撃(the blow)は、ほかの要素で相殺できる(offset)と考えていたためです。

政府の緊縮財政が、民間部門(private-sector)に拡大の余地(room)を与えるというのが、その理由です。つまり、民間企業のクラウドイン効果を期待していたのです。



「中和(counterweight)」

また、財政を緊縮させた分、金融政策を緩和させる(金利を引き下げる、もしくは紙幣を増刷する)こと(monetary easing)により、財政乗数は抑えることができるとされています。

すなわち、財政政策と金融政策をうまく組み合わせることで、経済への打撃を和らげることも理論上は可能なのです。



「ゼロ金利(near zero)」

ところが、先進国の金利はほぼゼロ。金融を緩和させるための金利引下げの余地は限りなく狭まっています(less room to act)。

紙幣増刷、もしくは国債買取などの手段は残されているにしろ、金利の下げ代がこれほど限定的な状況下にあっては、財政乗数が「3」を超える可能性も指摘されています。



「最悪のタイミング(less auspicious)」

さらに、多くの国が一斉に緊縮財政に走ることも、財政乗数を大きくしてしまいました。

というのも、開かれた経済(open economies)において、緊縮財政の打撃は他国に転嫁することも考えられたわけですが、みんなが一斉にやってしまったため(at once)、そのハケ口がなくなってしまったのです(couldn't easily be deflected elsewhere)。



「大問題のユーロ圏(big problem in the euro zone)」

とりわけ問題が大きくなってしまったのが、ユーロ圏です。なぜなら、共通通貨を持つがゆえに、弱い国だけが通貨の価値を切り下げる(devalue)ということも叶わなかったのです。

つまり、金利の引き下げ効果も小さければ、通貨による吸収力もほとんどなかったわけです。皮肉にも、最も弾力性に欠くこの地域が一番緊縮に熱心だったりするのですが…。



「失業率と貯蓄率の高さ(unemployment and saving were high)」

また、政府の緊縮にともなって期待された民間部門へのリソース開放にしても、うまく機能しませんでした。

失業率が高い状況下、民間企業は積極性を欠いており、投資よりも貯蓄(saving)に走ってしまったのです。



「過小評価(underestimated)」

当然、IMF(国際通貨基金)もこうした負の要素を認識し、警告もしていました。しかし、それでもIMFが緊縮財政による負のスパイラルを過小評価していたことは否めません。

2年前に財政乗数を「0.5」としていたIMFですが、実際には「0.9〜1.7」。つまり、予測よりも2倍も3倍も緊縮財政は世界に悪影響をもたらしてしまったのです。

結果的にIMFは、GDP比1%の緊縮に対する成長率を1%も過大評価してしまっていたことが明らかになってます。



「早急な緊縮財政(rapid belt-tightening)」

2年前に予測されたよりも、経済の苦境(hardship)は厳しいものであり、そのため、各国政府による財政再建も予想より進んでいません。

早急な緊縮財政(rapid belt-tightening)は表面的には赤字の数字を減らしてくれました。しかしそれは、今後の糧となるはずの経済成長を犠牲としたものでもあったのです。



「こうなることは分かっていたはずだ(it should have seen this coming)」

財政乗数を厳しく見積り、緊縮財政に反対し続けてきた人々は、こうなることは分かっていたはずだ(it should have seen this coming)と、IMFを批判します。

こんな映画を見たことがあるだろう、と彼らは言います。倒したと思っていた敵(foe)がじつは死んでおらず、背を向けた途端にふたたび襲ってくるという展開です。



2年前に死んだと思っていた景気後退は、じつはしぶとく生き続けていました。緊縮財政という美味しいエサをもらいながら…。

一時的な景気刺激策で退治することのできなかったモンスター。その戦いはすっかり長期戦の様相を呈しています。



籠城という戦略は、どこからか援軍が来ることを前提にして成り立つと言われますが、今の世界的な緊縮財政のもとにあって、援軍はどこからやって来るのでしょうか。

前回は頼みの綱になった中国までも、籠城に向かいそうでありますが…。







英語原文:
Free exchange: No short cuts | The Economist


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2011年09月21日

若者たちに仕事がなくなってきています。この現状は将来にどんな不安を残すのでしょうか?

記事タイトル:
「取り残されて(Left behind)」
若年失業(The jobless young)
(英国エコノミスト誌 2011年9月10日号より)

若者たちの失業率は、各国の失業率の2倍を越えるとされています。その思わぬ弊害とは?



「自信に満ちた女性(a confident woman)」


マリアさんはイギリスとスペインの学位(degree)を持ちますが、前途がない(no future)と感じているそうです。「私は存在しない世界(a world that does’t exist)のために教育を受けてきた」と悲観的です。

彼女ほど賢く(smart)、自信に満ちている(confident)はずの女性にも仕事がないのです。



「暗黙の契約(the implicit contract)」

かつては、「一生懸命働けば(work hard)、自分の両親たちよりも良い暮らしができる(better life)」という暗黙の契約(the implicit contract)がありました。

しかし、今やその契約は破られました(has been broken)。



「積年の課題(a perennial problem)」

2008年の金融危機(the financial crisisi)が起こる前、スペインの積年の課題(a perennial problem)とされていた失業率(unemployment)は、わずか「8%」となり、課題は解消されたかに見えました。当時は、信用ブーム(credit-fuelled growth)と建設バブル(construction boom)に沸いていたのです。

ところが、現在のスペインの失業率は「21.1%」に跳ね上がってしまいました。若年層だけに限れば、その数字は「46.6%」。唖然とするほど(staggering)高い数字(figure)です。



「切実な必要性(dire need)」

それでも、若者たちには切実な必要性(dire need)はないと考えられてきました。

なぜなら、彼らのは頼れる(fall back on)両親がおり、学校に長く留まることもでき、扶養家族(families to support)も持たないからです。一生、ゴミ溜め(the scrapheap)にいるわけではないと思われていたのです。



「格好のターゲット(obvious targets)」


景気が悪くなる(tough times)と、若者は真っ先に追い出されます(the first to lose out)。

若者たちは一般的に経験不足(inexperienced)で、技能に乏しい(low-skilled)からです。若者ほど簡単に解雇できる(easy to fire)のです。

若者たちは、コスト削減を図る(seeking savings)企業にとっては格好のターゲット(obvious targets)とされるのです。

OECDの若年層の失業率は人口全体の失業率の「2倍」。イギリス、イタリア、ノルウェー、ニュージランドに限れば「3倍」。スウェーデンでは「4倍」に達しています。



「緊縮財政(austerity)」

先進各国の低成長(poor growth)により、各国政府は緊縮財政(austerity)へと舵を切りました。

そのため、雇用創出を目的とした(job-creating)刺激策(stimulus measures)は次々終了し、失業率の改善が望めないまま(the lack of a sharp upturn)、長い低迷期に突入しています。

アメリカにおいては、前回(1980s)の深刻な景気後退期(the recession)よりも、回復に2倍近く長い時間がかかっており、いまだ低調なままです。



「直接的および間接的コスト(direct and indirect costs)」


失業による国家の直接的なコスト(direct costs)は、失業給付金(benefit payments)の増加、所得税収入(income-tax revenues)の喪失、生産能力(productivity)の浪費などとなります。

間接的なコスト(indirect costs)としては、国外への移住(emigration)があります。失業中の若者の4割が国外移住を考えているそうです(ポルトガルの例)。



「国家的な悲劇(a national tragedy)」

イタリアにおける頭脳流出(brain-drain)は、経済低迷(a stagnant economy)を長引かせる要因となっています。

「ケルトの虎(Celtic tiger)」たるアイルランドでは、国外居住者(migration)が倍増しています(doubled)。

若年層の失業の放置は、こうした国家的な悲劇(a national tragedy)をも引き起こしかねません。



♪ キーンコーン ♪ カーンコーン ♪

先進諸国は予想以上の景気低迷期にはまり込んでしまっています。そして、金策に汲々とするあまりに、若者たちは放っておかれています。

しかし、若年層の失業率の高止まりは将来的なコストを増大させる恐れもあります。

この悪循環はいつまで続くのでしょうか?

それでは、また!

お疲れ様でした〜。



posted by エコノミストを読む人 at 10:04| Comment(0) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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