2015年08月31日

世界同時株安


It was a dramatic week for global stockmarkets, as fears deepened about whether the Chinese economy was heading for a "hard landing". Many share indices swung wildly.

世界の株式市場(stockmarkets)にとって、なんとドラマチックな一週間であっただろう。中国経済がハード・ランディング(硬着陸;急失速)に向かっているのではないかという懸念が深まりゆくとともに、多くの株価が荒々しく揺れ動いた(swung wildly)

The main Shanghai index plunged by more than 8% in a single day, its biggest loss since early 2007, wiping out the gains it had made since the start of the year.

上海市場はたった1日で8%以上の急落(plunged)、2007年初頭以来、最悪の損失となった。これで年初からの上昇分(gains)が帳消しとなった(wiping out)

The S&P 500, FTSE 100 and other markets in Europe and Asia were also rattled, with some recording their steepest falls since the financial crisis in 2008.

S&P500やFTSE100をはじめ、ヨーロッパやアジアの株式市場は大混乱(rattled)。2008年の金融危機以来、記録的な急激な落ち込みとなった。

By mid-week the markets had rebounded, chalking up huge gains in some places, but trading remained tense.

週の半ばまでは市場も反発(rebounded)、一部地域では巨大な利益が得られた。しかし、緊迫したトレードはまだ続いている(remained tense)


Business this week
The Economist, Aug 29th 2015






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2015年07月25日

株暴落に狼狽、中国政府 [The Economist]


中国株
Stocks in China


The Economist
Jul 11th 2015



2015年7月第2週
中国の株式市場は暴落した(stockmarket crash)。

7月7日の取引は、上場2,774銘柄のうち90%以上が売買停止(susupended)あるいはストップ安(halted)に陥った。株価は3分の1に急落、3兆5,000億ドル(約420兆円)相当の資産が吹き飛んだ。これはインド株式の時価総額を上回る額だ。







悲観論者は「経済崩壊(an economic collapse)の予兆だ」と叫んだ。

だがエコノミスト誌は「それはまずあり得ない(most unlikely)」と冷静だ。



まず、中国株がわずか数週間で3分の1下落したといえども、それでも1年前より75%も高い。4か月前(2015年3月)のレベルに戻っただけである。

また、中国全土の株式市場の浮動株(free-float value)は、中国GDP(国内総生産)の3分の1しかなく、それが100%を超える先進諸国と比べると格段に低い。しかも家計が株式に投資しているのは、その金融資産の15%足らずしかないため、株価急落が一般消費に与えるダメージはほとんどない(その逆もまた真、株価急騰にあっても消費が押し上げられることはほぼなかった)。

中国では株式の多くが借入金(debt)によって購入されている。その債務を解消するため、株価急落が株式売却に直結して暴落に歯止めがかからなくなってしまった。それでも、株式向け融資は金融システムの1.5%程度を占めるに過ぎない。



以上を踏まえ、エコノミスト誌は言う。

「中国経済は堅調だ(The economy is solid)。成長は減速しているものの、安定している(Growth, though slowing, has stabilised)」

長らく沈静状態だった不動産市場(the property market)も復調しはじめ、市場金利(money-market rates)は低いうえに大きな変化がない。それは銀行が安定しているからだ。



だが、その堅調な経済の裏に深刻な問題が潜んでいる。

それは、この株価暴落を食い止めようとして打たれた、中国政府のパニック的な対策の数々(frenzied attempts)。株式市場が受けた打撃を修復しようとした中国当局の試み(botched attempts)は失敗に終わり、ただでさえ悪い状況をさらに悪化させる結果にしかならなかった。

今回の株式市場の大混乱は、習近平・国家主席と李克強・首相にとって就任後初の経済的汚点(economic blemish)となった。







中国共産党は2013年、市場原理(market forces)に「決定的役割(decisive role)」を担わせると宣言した。だが2015年現在も、まだ完全に市場原理に経済を委ねているわけではない。

たとえば、新興企業(start-ups)向けの株式市場「創業板(ChiNext)」。その新規株式公開(IPO, initial public offerings)に関しては規制当局(regulators)が厳密に、どの企業がいつ、どれほどの価格で上場されるのかを事実上決定している。

運よく上場を勝ちとれた新興企業(start-ups)の株価は、急騰するのが常。中国政府が新たなIPOの認可に消極的だったため、買い待ちをする長い投資家の行列(the long queue)ができているためだ。それゆえ、創業板(ChiNext)の株価収益率(PER, price-to-earnings ratio)は147倍と、ドットコム・バブル(the dotcom era)当時のNASDAQと同等の水準に達している。



当局の規制が厳しい中国では、投資家たちがカネを注ぎ込める選択肢(alternatives)がまだ少ない。ここ10年、旺盛な投資熱(investment frenzies)は不動産、切手、緑豆(mung beans)、ニンニク、茶葉などの値を高騰させた。

株式市場に資金が集中するのもそのためで、いわば中国の株式市場はバブルが膨らむ素地が醸成されていたといえる。2007年以来の株ブーム(a stock frenzy)が起こっていたのだから。







この株ブーム(the bull run)は当初、習国家主席・李首相チームの経済改革の正しさを証明するもの(an endorsement)ともてはやされた。ゆえに、その評判を守ろうと、規制当局は株価急落を食い止めるため躍起になった。

相場の下落を受けて、規制当局は空売り(short-selling)に規制をかけ、年金基金が株の買い入れを増やすと言明、政府はIPO(新規株式公開)を凍結した。しかし、矢継ぎばやに打ち出された株価安定策は、投資家を落ち着かせるどころか、悲鳴を絶叫にかえてしまった。

市場の混乱(turmoil)に直面した優秀な官僚たち(capable technocrats)は、ぶざまであった(haplessness)。明らかに割高になっていた株価(overvalued shares)は当然のように調整をむかえる局面がくる。それが予期されていたにもかかわらず、彼らはパニック状態に陥ったのである。



部分的に自由化された中国の市場は、投資家たちの思惑を歪ませる。そのため、それを管理するには尋常ではない手腕(extraordinary demands)が要求される。中国の官僚たちの能力が著しく高いというイメージは幻想(illusion)だったのか。

エコノミスト誌は言う。

「学ぶべき実際の教訓は、中国政府は市場に決定を委ねなければならない」
”The real lesson is that it must let the markets decide"







出典:
The Economist 「Stocks in China; China embraces the markets」
JB Press 「中国株:市場の洗礼うける中国政府」



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2015年04月17日

強いドルは迷惑か?



アメリカ・ドルが強い。

ここ3ヶ月で11%の上昇(ascent)、ここ1年間では22%の急騰ぶりである(主要通貨バスケットに対して)。

過去数十年間において、米ドルがこれほど強含んだことはない。あのリーマンショックの混乱時でさえ、5%しか上昇しなかったのだから。すなわち、米ドルは「未踏の領域(uncharted waters)」に足を踏み入れている。


なぜ米ドル(the green back)は、かくも強くなったのか?

その最大の理由(the principal reasons)は他の主要国が弱くなったからだ。ヨーロッパや日本は経済停滞(the doldrums)にはまり込み、新興国は成長を減速させている。ブラジルとロシアは深刻な景気後退(deep recession)、中国では成長のエンジンだった不動産市場(property market)が冷え込んでいる。

一方、アメリカ経済は今年(2015)、3.6%成長すると予測されている(IMF)。



また、アメリカのFRB(連邦準備理事会)はすでに、金融政策(monetary policy)の引き締めをはじめている。資産購入(asset purchases)プログラムは打ち切られる。さらには、年内にも利上げに踏み切る姿勢をみせている。

アメリカが金融引き締めに向かう一方で、他の先進国の中央銀行は依然、緩和をつづけている。だから当然、投資家たちはドル建て資産(dollar-denominated assets)から大きな利益を得ることができる。これで米ドルが上昇しないはずはない。



米ドルの高騰で、世界はどう変わるのか?

”これほどの規模の動きは大抵、誰かを窮地に追い込むことになる”
”Moves of this magnitude usually catch someone out".
(『The Economist』誌)



”誰か(someone)”とは誰だ?

まず新興国(emerging markets)の借り手たち(borrowers)は、ダブルパンチ(a double whammy)を食らう恐れがある。ドル高に加え、借り入れ(borrowing)借り換え(refinancing)コストの上昇だ。



新興国の企業はドルの低い金利に誘われて(seduce)、ドル建て債務(dollar-denominated dept)を積み上げている。自国通貨(local-currency)よりもずっと金利が安いのだから。

BIS(国際決済銀行)によれば、アメリカ外の非金融会社が抱えるドル建て債務の残高は9兆ドル(約1,000兆円)に達している(リーマンショック後から50%の上昇)。そしてその半分を占めるのは新興国である。たとえば中国などは、2008年のドル建て融資は2,000億ドル(約25兆円)前後だったが、現在は1兆ドル(約120兆円)に急増している。

自国通貨に対してドルが高くなれば、ドル建ての借金額は上昇する。さらに米FRBが金融引き締めに乗り出せば、その金利も上昇する。まさにダブルパンチ(a double whammy)。






もし、ドル建ての借金だけでなく、ドル建ての収入(income)もあれば、通貨のミスマッチ(currency mismatches)は相殺される可能性もある。だが残念ながら、そううまくはいかない。

たとえば中国の企業債務の4分の1(25%)はドル建てだが、ドル建ての利益となると全体の9%にすぎない。ただ中国の場合、通貨・人民元(Yuan)が対ドルでほとんど下落していないのが救いだ。



輸出業者(exporters)ならば、自国通貨安から利益を得られるのではないか?

いや、アメリカと取引しているならともかく、やはり自国通貨が安くなっている国と取引をしている可能性が高い。

外貨準備(foreign-exchange reserves)の豊富な国なら、苦境にある企業を下支えできるのではないか?

いや、ロシアやブラジルならともかく、南アフリカやトルコなどはそれほど多くの資金をもっていない。多額の短期政府債務(government debts)を抱え込んでいる。



そういえば2年前(2013)、同じようなことがあったような…。

米FRBが量的緩和(quantitative easing)プログラムのテーパリング(段階的縮小)を発表し、マネーがアメリカに殺到、新興国が重圧下(under pressure)におかれた。

あの嵐を、新興国は乗り切ったではないか。



だが残念ながら、いまの新興国は当時よりも弱含んでいる。

そして企業の積み上げたドル建て負債は、もっと多くなっている。












(了)






ソース:
The Economist 「The strong dollar; Mismatch point」
JB press 「強いドル:通貨のミスマッチで新興国のピンチ」

単語集:



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2012年09月30日

好調なるメキシコの銀行。テキーラの新たな未来


メキシコの銀行:テキーラ危機からサンライズへ
Mexican banks : From tequila crisis to sunrise

英国エコノミスト誌 2012年9月22日号より



「危なっかしい銀行(dodgy banks)」

メキシコの銀行といえば歴史的に、安心してお金を預けておけるような場所ではありませんでした。

今から20年ほど前の1995年、通貨ペソの切り下げ(devaluation)とテキーラ危機(tequila crisis)によって、彼らは破綻した(collapsed)のですから。



「無責任な貸し出し(the irresponsible lending)」

破綻したメキシコの銀行の救済(bail-out)に乗り出した友好国や近隣国は、その無責任な貸し出し(the irresponsible lending)に唖然とし、舌打ちした(tut)ものです。



「様変わりした事態(things have changed)」

メキシコの銀行が危なっかしかったのは今は昔。いまや、欧米の銀行よりもたくましくなっています(sturdier)。

逆に欧米の銀行のほうが、もがき苦しみ、そこにメキシコの銀行が命綱(lifeline)を差し出している状況なのです。




「子会社(subsidiaries)」

欧米の銀行がメキシコに開いた子会社たちは、親会社以上に優秀で、親会社の自己資本比率(capital ratio)を満たすための大きな助けとなっています。

スペインの銀行「サンタンデール(Santander)」は、メキシコの子会社を上場させることで資金を調達しました。



「欧米銀行よりも有利な条件(a better deal than European or American banks)」

サンタンデールのメキシコ子会社の売出価格(the offering)は、純資産(book value)の2倍。これは欧米の銀行以上に有利な条件(better deal)です。

なぜなら、このメキシコ子会社の株主資本利益率(return on equity / REO)は20%近く、欧米平均の約2倍も収益性が高いのです(profitable)。



「親会社よりも高い格付け(less risky than their parents)」

スペインのビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行(BBVA)のメキシコ子会社、バンコメール(Bancomer)は、グループ全体の利益の3分の1をも稼ぎ出しています。

メキシコに置かれたこうした子会社は、親会社よりも信用力があることも珍しくなく、格付け機関ムーディーズは、親会社よりもリスクが少ないと判断しています。「藍は藍よりいでて、藍より青し」







「ブラジルの影(Brazil's shadow)」

メキシコの銀行の良好さは、同国経済の好調さの現れでもあります。

長らくメキシコはブラジルの影(Brazil's shadow)になっており、とりわけ注目されることもありませんでした。ところが昨年、メキシコの成長率は偉大なライバル・ブラジルのそれを凌ぎ、今年もブラジルの2倍以上となる4%成長を達成する見込みです。

メキシコの銀行ばかりでなく、メキシコの国全体が脚光(the limelight)を浴びているのです。



「中国の減速(slowing growth in China)」

コモディティー(商品)を通じて中国経済と深くリンクしていたブラジル経済は、中国が減速することにより、それにつられて落ちていきました。

一方、メキシコは中国の減速が加速要因となりました。中国の賃金や輸送費(wages and shipping cost)が上昇するにつれ、メキシコの魅力が俄然高まったのです(increasingly attractive)。

アメリカ市場でも同様、中国、カナダがそのシェアを減らす中、メキシコばかりはシェアを拡大しています。



「用心深さ(their own caution)」

一度危機を痛感しているメキシコは、この軽快な成長(bouncy growth)に浮かれすぎず、十分な用心深さを保っています。

メキシコの民間債務(private debt)はGDP比で20%足らず。まったくバブルは膨らんでいないのです。ちなみに、浮かれたブラジルの民間債務は50%を超えています。



「守りすぎ(too safe)」

メキシコの銀行は安全第一の姿勢が強すぎると不満が出るほどの用心深さです。

メキシコ企業で銀行融資を受けられるのは全体の3分の1に過ぎず、中小企業(small firms)ともなると、ますます融資を受けられません。



「厳格な信用評価制度(a strict credit-scoring regime)」

銀行自身が運営する民間機関による信用評価(credit-scoring)は、顧客を等級分けするのではなく、ただ単に信用力があるか否か(creditworthy or not)に2分するだけです。

ブラックリストに載せるかどうかの判断は、その最低基準が設定されていません(no lower limit)。そのため、電話代(phone-bill)を滞納した程度でブラックリストに載せられ、融資を受けられなくなる(ineligible for loans)ケースまでがあるとのこと。

凄まじいまでの貸し渋り(the stinginess)です。



「法外な金利(steep rates)」

幸運にも融資適格であるとされた人々も安穏とはしていられません。次に彼らが直面するのが法外な金利(steep rates)です。

基準金利が4.5%に設定されているにも関わらず、実際のクレジットカードは40%を超える金利を請求するのです。

その逆に、銀行預金者の金利(interest)は極めて低く、それはインフレ率を下回るほどです(below-inflation)。つまり、銀行に預けておいたカネは、時とともに増えるどころか、目減りしてしまうのです。



「非常に多い潜在的顧客(so many potential new customers)」

審査が厳しすぎて、お金を預けても利子が低い。さらには法外な金利。そんなメキシコの銀行は、経営的に大丈夫なのでしょうか?

幸いにも、メキシコの銀行は頑張らなくても利益を出せる(no need to work that hard to turn a profit)そうです。それほどまでに潜在的な顧客(potential new customers)が大量にいるのです。

メキシコの人口は1億人以上、その中所得階級の潜在力には偉大なるものがあるようです。



「増える銀行貸し出し(lending is rising)」

貸し出しの基準が異常に厳格なのにも関わらず、メキシコの銀行の貸し出しは年間15%ものペースで増加を続けています。この最速に近いペースが続けば、あと10年もせずに銀行貸し出しがGDP比35%に達する見込みです。

こうした需要増に対応するため、スペインの銀行サンタンデールはメキシコ国内の支店を年間100店舗以上追加しているとのことです。



「たくさんの祝うこと(plenty to celebrate)」

現在の安定した経済成長とメキシコの銀行の健全性が歩調を合わせれば、その成長はより着実なものとなるでしょう。株式の上場(listing)も増えれば、メキシコの証券取引所(stock exchange)も活気を増します。

なるほど、メキシコには祝うべきことが山とあるようです(plenty to celebrate)。

ただ、祝いすぎて、テキーラを飲み過ぎる(go easy)のだけは気をつけなければならないのかもしれません。今のところは、テキーラ危機(1995)の痛みを身体が覚えているようではありますが…。






英語原文:
Mexican banks: From tequila crisis to sunrise | The Economist

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2012年09月07日

なぜ増える? 民主国家の借金


民主主義と借金
Democracies and debt

英国エコノミスト誌 2012年9月1日号



「民主主義国の数(the number of democracies)」


第二次世界大戦(the second world war)以降、民主主義国(democracies)の数は着実に増加し、いまや世界人口の半数近く(almost half)が民主主義国に住んでいるということです。



「禁句(a dirty word)」


ただ、ここで忘れられがち(easy to forget)なのは、その大半の国家が歴史的に民主主義であった期間が短く、むしろ、かつては民主主義という言葉自体が、政治家や哲学者たちにとっての禁句(a dirty word)だったということです。



「破滅を招く(lead to ruin)」


民主主義という言葉が禁句とされていたのは、民主主義が破滅を招く(lead to ruin)と政治家や哲学者たちに恐れられていたためです。

古代ギリシャの哲学者・プラトンは、こう警告しました。「民主主義は金持ちから財産を奪い取る(rob the rich)。指導者はできるだけ自分の懐にカネ(the proceeds)を入れ、その残り(the rest)を人々に分け与える」と。



「紙幣に対する欲望(a rage for paper money)」


アメリカ建国の父(founding fathers)の一人、ジェームズ・マディソンは民主主義を、こう懸念しました。

「紙幣への欲望(a rage)、借金の帳消し(an abolition)への欲望、その他もろもろの悪質な企て(wicked projects)…。民主主義はこれらを引き起こしかねない」と。



「平等の名のもとに(in the name of equality)」


アメリカ第2代大統領のジョン・アダムズは、こんな心配をしました。「民主主義は、平等(equality)の名のもとに、金持ち(the rich)に対して重税(heavy taxes)を課すのではないか?」と。

その結果、「怠け者(the idle)や悪者たち(the vicious)が放蕩の限りを尽くすことになるのではないか?」と。





「民主主義に代わる体制(alternative systems)」


民主主義の欠点を懸念した人々は、歴史上、それに代わる体制(alternative systems)を模索しました。しかし、なかなか欠点(faults)のない体制というのは見つからなかったようです。

たとえば、独裁政権(dictatorships)や絶対君主制(the absolute monarchies)などは、財政的に堅実(prudent)とは言えませんでした。



「財政問題(financial problems)」


独裁政権(dictatorships)は、自らの力を強化する(shore up)ために強い軍隊を必要とし、その費用は巨額となります。と同時に民衆への施しも求められます(暴れられないように)。

また、絶対君主制(the absolute monarchies)を敷いていたスペインとフランスは、17世紀と18世紀に財政危機(fiscal crises)に陥ってしまい、イギリスとオランダに取って代わられてしまいました。

ソ連崩壊(the collapse)も、その一因は財政問題です。



「債務危機(debt crisis)」


歴史は巡り、民主主義が世界に普及した今、もっとも初期の段階で民主主義を導入した国家は、債務危機(debt crisis)に苛(さいな)まれています。

おや? 財政的に強いとされた民主主義が、借金で首が回らなくなるとは…。はたして、民主主義を禁句としていた過去の政治家や哲学者たちの懸念は、ここに来て現実となった(come to pass)のでしょうか?



「その正反対(quite the reverse)」


確かに民主主義が万全でなく、その結果、国家の借金ばかりが増えていったのは事実ですが、その過程は過去の偉人たちが懸念したものとは、まったく正反対(quite the reverse)です。

昔の人は、民主主義はお金持ちからカネを奪う、と心配していたわけですが、アメリカやイギリスなどでは逆に、お金持ちが益々お金持ちになって、その格差(inequality)は広がるばかりです。



「現代の政治家(modern politicians)」


さらに、現代で政治家になるためには、自らが裕福でなくてはなりません(need to be wealthy)。もしくは、他の金持ちからの資金援助(financial backing)が必要です。

そして、その政治家は社会に対して、利益を与える大きな源泉(a huge source)となるのです。



「受益者(the recipients)」


政治家たちが社会に還元する利益を受けるのは、その国の国民たちです。

そうした民主主義の国の国民が受ける利益(goodies)は、その税負担に対して、一般的に非常に価値が高い(highly valuable)ものであります。そのため、受益者(the recipients)たちは喜んでそのコスト(税金)を負担し、納税に反対する理由はさほど感じません(little reason)。



「フジツボに覆われた船(a barnacle-encrusted ship)」


民主主義国の納税者たち(国民)が大人しく税金を収めるのは、その額が比較的小さい(single perk will be small)からでありますが、その税金が政治家たちによって適切に運営されていないと、国家には少しずつ少しずつ、借金がたまっていきます。

それはあたかも、航行する船の底に付着する貝・フジツボ(barnacle)のようなものであり、それが溜まっていくと次第に船の速度は遅くなっていき、しまいに沈んでしまうのです。その重みに耐えかねて…。



「典型的な実例(textbook example)」


その沈んだ船の典型的な実例(textbook example)は、ギリシャ経済と考えることもできます。国民から徴収する税金以上に浪費してしまったギリシャという船は、フジツボだらけとなってしまったのです。



「解決策の一つ(one answer)」


フジツボだらけとなった船を、まともな船に戻すには、どうしたら良いのでしょうか?

一つの解決策として、財政政策(fiscal policy)を選挙で選ばれた政治家たちの手から切り離す(out of hands)というものがあります。というのも、票を得ようとする政治家たちは、選挙民に甘い約束をしてしまいがちだからです。

その愚を避けるため、金融政策(monetary policy)に関してはすでに政治家の手を離れており、金融政策の責任は独立した中央銀行(independent central bankers)に一任されています。



「選挙を経ていない政治家たち(unelected leaders)」


実際、財政政策で失策を犯した国家、たとえばギリシャやイタリアなどでは、選挙で選ばれた政治家たちが排除され、その代わりに選挙を経ていない指導者たち(unelected leaders)が国政を任されました。

ギリシャを一時的に率いたパパデモス氏は元中央銀行家であり、イタリアのマリオ・モンティ首相はEUの元欧州委員です。



「実務家(technocrats)」


こうした選挙を経ていない政治家たちは、テクノクラート(実務家)と呼ばれております。彼らに期待されるのは、国民に不人気な決断(unpopular decisions)を積極的に下すことです。というのも、選挙に生命線を握られた政治家たちには、そうした決断が下せないからです。

選挙でアメを約束してしまう政治家たちは、国民にアメばかり与えて、国をダメにしてしまいます。それに対して、選挙が絡まないテクノクラートたちは、バシバシとムチ打って、その行いを正してくれるのです。



「超党派の委員会(a bipartisan commision)」


また別の手段としては、政党間のカベを超えた超党派(bipartisan)の委員会に重要な決断を任せるという方法もあります。これはアメリカが時々やろうとしていることです。

その効用はテクノクラートを起用するのと同様、政党の綱領にがんじがらめにされてしまった政治家たちを、そこから解放してやることにあります。政党がなければ選挙には勝てない。しかし、その政党が政治家たちを縛ってしまう。そんなジレンマが民主主義にはあるのです。



「見捨てられた?(abandaned)」


テクノクラートや超党派に重要な決断を委ねることは、民主主義に反する側面もあります。なぜなら、テクノクラートは選挙で選ばれていないのであり、超党派は選挙で約束した政党の決まりを無視するからです。

しかしそれでも、民主主義が完全に見捨てられたわけではありません。テクノクラートの決断にしろ、超党派のそれにしろ、最終的には議会の採決(a parliamentary vote)にかけられるのですから。



「上限なし(no limit)」


民主主義の歴史において、民主国家が借りられるカネには上限(limit)がないかのように、長らく勘違いされてきました。

たしかに、他の政治体制に比べれば、突然の政策変更が少ないために、国民が国に貸したカネが返ってこなくなるリスクは、あまり懸念されていなかったのです。



「先送り(postponed)」


しかし、民主国家に破綻が少なかったのは、その危機の到来時期(the crunch point)が、ただ単に先送りされていた(postponed)からに過ぎませんでした。

船底に付着するフジツボは、少しずつ少しずつ増えてはいっていたのですが、当面は気になるほどではなかったのです。本当は、あまり付着されないうちに対処しなければならなかったのですが…。



「膨大な借金(higher debt)」


フジツボを放っておいた船が無事でいられるはずはありません。船が傾き始めた頃には、その借金の額が手に負えないほどに膨れ上がっていたのです。

その積み上がった膨大な借金は、歴史上のどんな不安定な国家(volatile countries)も成し得たことがないほどに巨大なものでした。



「富の没収(confiscate the wealth)」


なぜ、民主国家は借金をそこまで放っておけたのでしょうか?

それは、国民から富を没収する(confiscate)方法が許されていたからです。たとえばインフレ(物価上昇)を起こして、借金の価値を減額したり、ときにはデフォルト(債務不履行)を宣言して返済を放棄したり、または増税により、直接国民からの集金額を上げたりして。

歴史の先人たちが懸念していた通り、民主主義には国民の財産を奪う側面がありました。しかしそれは、金持ちからだけの没収とは限りませんでしたが…。



「外国の貸し手(foreign lenders)」


しかし、インフレやデフォルト、増税などで借金を誤魔化すことができるのは、せいぜい国内の国民に対してのみ有効な手段です。その同じ手法は、外国の貸し手(foreign lenders)には通用しないのです。

昨今のユーロ金融危機の根っこは、ここにありました。財政が破綻した国家というのは、国内からの富の没収に限界をきたし、外国から大金を借りてしまっていたのです。この点、日本国家は借金が多いといえど、いまだ国内問題にとどまっているのです。



「限界(limit)」


なるほど、民主主義の限界はここにありました。財政問題が国境を越えた時に、その限界は顕在化し、たまりにたまったフジツボの重みは船を沈めようとし始めるのです。

そして、危機の到来を先延ばしにしていた分だけ、その回復には、どの政治体制よりも困難を極めるということです。



かつて金融政策(紙幣発行や金利決定)が政治家の手からもぎ取られたように、新たな民主主義のもとでは、財政政策(予算策定など)も政治家の手から切り離す必要が生じそうです。なにせ、人気取りばかりの政治家たちは、アメを配ることにだけは熱心なのですから…。

冒頭に述べられているように、民主主義の歴史はまだまだこれから。今まで問題が少なかったのは、その歴史が浅かったことにも起因します。

目先では、たまりにたまった民主国家の借金をどう帳尻合わせていくのかに焦点を当てざるを得ないでしょう。民主国家に渦巻く債務危機、これを乗り越えた先にしか民主主義の未来は見えてこないようであります。その点、ヨーロッパの国家債務危機は、格好の試金石といったところでしょうか(日本も他人事ではありませんが…)。







英語原文:
Buttonwood: Democracies and debt | The Economist

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