2013年04月25日

本当は危険な人間の運転。自律自動車の話


クルマの未来
The future of the car

クリーンで安全な自律走行車
Clean, safe and it drives itself



自動車はすでに人間の生活スタイルを一変させた(changed the way we live)。そしてまた、それが起こりそうだ(likely to do so again)。

英国エコノミスト誌 2013年4月20日号より



「周期的な大跳躍(periodic leaps)」

生物がそうであるように、発明(inventions)の中には周期的な大跳躍(periodic leaps)を遂げるものがあります。

どうやら、自動車という発明品は、その一つのようです。



「大躍進(breakthrough)」

自動車が最初の大躍進(breakthrough)を遂げたのは、その発明から25年ほど経った時のことでした。

カール・ベンツ(Karl Benz)が最初のモートルヴァーゲン(Motorwagen)の生産をはじめてから25年後、アメリカのヘンリー・フォード(Henry Ford)は、T型フォード(the Model T)でその業界にブレークスルー(breakthrough)をもたらしたのです。



「流れ作業の組み立てライン(moving assembly lines)」

フォードがデトロイトの工場に導入した、流れ作業の組み立てライン(moving assembly lines)。

それが自動車製造の所要時間を劇的に短縮し(drastically cut the time)、結果的に大幅な製造コスト削減につながりました(1913)。



「ありふれた大量生産品(the ubiquitous, mass-market item)」

より安価になった自動車はその後、ありふれた大量生産品(the ubiquitous, mass-market item)となり、個人の移動手段(personal mobility)に革命が起きたのです。

大衆品となった自動車が都市の風景(urban landscape)を一変させ、そして現在、およそ10億台近い自動車(almost a billion cars)が、世界中の高速道路を駆け巡るようになっています。



「自動車保有率(car ownership)」

先進国が先駆けた自動車革命ですが、現在では新興国(emerging markets)も猛烈に自動車の所有台数を増大させています。

もし、全世界の自動車保有率(car ownership)がアメリカ並みになれば、世界の自動車台数は現在の4倍(quadruple)に跳ね上がることになります。



「排気ガス(its emissions)」

すでに中国では主要都市がスモッグに包まれていますが(choked in smog)、世界に自動車が増え続ければ、その排ガス(its emissions)はどれほどのものになるのでしょう。

そうした環境汚染(pollutions)にとどまらず、都市部の渋滞(congestion)、燃料価格の高騰、さらには地球温暖化(global warming)なども頭の痛い問題です。



「規制強化と技術向上(stricter regulations and smarter technology)」

幸いにも、近年の規制強化(stricter regulations)や技術の向上(smarter technology)は、新しい自動車をよりクリーンに、より安全に、燃費の良い乗り物にしてくれました(more fuel-efficient)。

あの中国も、ヨーロッパの例にならい、有害な窒素酸化物(noxious nitrogen)と微細なスス粒子(fine soot particles)の排出規制に乗り出しています。



「電気自動車(battery-powered cars)」

期待の大きかった電気自動車(battery-powers cars)は、今のところ大きな期待には応えきれていないようです。

車両価格は依然として高額で、走行可能距離も短いままです(lack range)。また、石炭を燃料とする発電所(coal-fired power stations)の電力で走る場合などは、見た目ほどに環境に優しいとは言えません(dirtyer than they look)。



「広がる選択肢(widening choice)」

電気と内燃機関(internal-combustion)を組み合わせたハイブリッド車(hybrids)をはじめ、自動車メーカーは電気以外のクリーンな技術に大々的に投資しています(investing heavily)。

超低燃費(super-efficient)のガソリン車やディーゼル車、さらには天然ガスや水素(hydrogen)を動力とする自動車など、将来的な選択肢はその幅を広げています(widening choice)。



「運転支援技術(driver assistance technologies)」

新しい自動車には、さまざまな運転支援(driver assistance)技術を搭載したものもあります。

たとえば、縦列駐車(reverse-park)、標識(traffic signs)の読み取り、安全な車間距離(safe distance)の維持、自動ブレーキ(break automatically)による事故回避などなど。



「運転手のいない車(the driverless car)」

グーグルは、5年以内に運転手のいない車(the driverless car)を一般向けに販売しようと、その開発に力を注いでいます。

同社はまったく新しい自律自動車を一から開発して(build from scratch)、世界に販売しようと考えています。カリフォルニアのフリーウェイを走るその試作車(the prototypes)はすでにかなりの完成度のようです。



「飲酒運転やメールを打ちながらの運転(drive drunk or while texting)」

人は時として、飲酒運転(drive drunk)やメールを打ちながらの運転(while texting)をしてしまいますが、コンピューター制御された自律自動車なら、絶対にそんなことをしません。

もし、コンピューターによる自律走行の運転データを、人間の運転するそれと照らし合わせてみれば、きっと自律走行の車(the car on autopilot)の方が安全だと証明されることでしょう。



「不注意な手や足(reckless hands and feet)」

人間の手足はじつに不注意なもので、その手足がハンドルやアクセルを操らないだけで、多くの事故を回避できる可能性があります。

高齢者(elderly)や身体の不自由な人たち(disabled)も、自律走行車に乗れば、自分一人での移動手段(personal mobility)を取り戻せるはずです。グーグルは実際、目の見えない人(a blind man)を自律走行車に乗せて、テイクアウトのタコス(takeaway tacos)を買いにいけることを実証しています。




「膨大な数の交通事故死傷者(the colossal toll of deaths and injuries)」

人間が運転することの危うさは、その膨大な数(the colossal toll)の交通事故による死傷者(deaths and injuries)が証明しています。

全世界では年間120万人が交通事故で死亡し、病院送りになる負傷者は、アメリカだけでも200万人にのぼります。



「医療や保険のコスト(the costs to health system and insurers)」

もし、コンピューターに自動車の運転を任せて、交通事故の死傷者数が減るのであれば、それは医療や保険(insurers)のコストの軽減にもつながるはずです。

若いドライバーたちも、多額の自動車保険(crippling motor insurance)を支払う必要がなくなるかもしれません。



「渋滞緩和と燃料節約(ease congestion and save fuel)」

自律走行車(driverless cars)は、人間が運転するよりも前の車との車間を詰められるので、それは渋滞(congestion)の緩和につながるでしょう。

また、前の車との車間が詰まると、それは空気抵抗を減らすスリップ・ストリームのような状態(road trains)になり、より燃費が向上するはずです。



「たわごと(bunk)」

グーグルの自律走行車が見せる夢は、あまりにも突拍子もないため、それを戯言(bunk)と考えている自動車メーカーもあります。

なぜなら、コンピューターはクラッシュするものであり、そんな車で高速道路を突っ走るなんて恐ろしくてできない、と言うのです。



「破滅的な訴訟費用(ruinously expensive lawsuits)」

もし、自社の自律自動車が事故でも起こせば、その訴訟費用は破滅的な額(ruinously expensive)にのぼる恐れもあります。

そうなってしまうと、もはや技術開発を継続する意欲は失われてしまうかもしれません。



「人による運転を必要としない飛行機(planes that no longer need human drivers)」

自動車の運転をコンピューターに任せるのを恐ろしいという人でも、人間が運転していない飛行機や電車には平気で乗っているかもしれません。それとは気づかずに(unwittingly)。

自律自動車への移行(shift)も、そのように徐々に進んでいく可能性は高いとみられています。



「グーグルの自律走行車(Google's self-driving cars)」

グーグルの自律走行車(self-driving cars)の走行距離は、すでに70万kmに達しています(大抵の人よりもずっと長いはずです)。

その培った経験(データ)は、同じソフトウェアを使うほかの車に活かされ、いずれは、人間が無意識に使っている勘や技(tricks)にも匹敵するようになるでしょう。たとえば、道路にボールが転がってきたら、その後を子供が追いかけてくるかもしれないと予測してブレーキを踏む、など。



「ありそうもない?(far-fetched)」

しかし、まだ実際に自律走行車を目にしたことのない人々にとって、その実現が間近に迫っている(round the corner)などとは、にわかに信じられません(far-fetched)。

ここで思うのは、テレビがない時代に初めてテレビを目にした人々、もしくは、空気より重いはずの飛行機が空を飛ぶのを目の当たりにした人々のことです。



「当てにならない運転者(fallible operators)」

もし、未来にとって自律走行車が当たり前であったとしたら、未来の人々はこう思うかもしれません。

いったいなぜ昔の人たちは、人間のように当てにならない運転者(fallible operators)に、自動車のように危険な乗り物の運転を任せていたのだろう、と。







英語原文:
The future of the car: Clean, safe and it drives itself | The Economist

posted by エコノミストを読む人 at 14:45| Comment(0) | サイエンス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年08月20日

人体に住む圧倒的多数派「マイクロバイオーム(微生物)」


微生物が人体をつくる
Microbes maketh man

英国エコノミスト誌 2012年8月18日号より



「従来の考え方(the traditional view)」

従来の考え方(the traditional view)で言えば、人体は10兆個の細胞の集合体(a collection)であり、それらは2万3,000個の遺伝子(genes)を元にして作られていることになります。



「マイクロバイオーム(microbiome)」

ところが、人体を隈なく(every nook and canny)調べてみると、細胞の他にも無数の住人たちが住んでいることに気づかされます。

それらはマイクロバイオーム(microbiome)と称される、100兆個にも上る数100種類の微生物や細菌たちです。なんと、人体の細胞の数の10倍もいるではありませんか。



「非ヒト遺伝子(non-human genes)」

その100兆個のマイクロバイオームたちは、全体で300万個の遺伝子を持っています。そして、それらは非ヒト遺伝子(non-human genes)を持っています。つまり、彼らは遺伝子的にも、まったく赤の他人ということです。

冒頭でも軽く触れた通り、人体の遺伝子は2万3,000個。それに対して、マイクロバイオームの遺伝子は300万個。なんと、人体の遺伝子の130倍も、赤の他人の遺伝子(非ヒト遺伝子)が人体に入り込んでいるではありませんか。



「超有機体(super-organisms)」

こうした観点に立てば、人体を単一の有機体(single organisms)とする従来の考え方を改めざるを得ません。

新しい考え方に従えば、人体は超有機体(super-organisms)、すなわち「無数の小さな有機体が連携して成り立っている状態にある」ということになります。なにせ、人体の細胞数の10倍、人間の遺伝子数の130倍もの他人(マイクロバイオーム)が住み着いているのですから…。





「ひねくれた主張(perverse to claim)」

こうした新しい革命的な考え方は、ひねくれた主張(perverse to claim)に過ぎないのでしょうか?

いえいえ、ここ数ヶ月というのも、世界有数の科学誌である「ネイチャー」や「サイエンス」がこぞって取り上げている有力な学説なのです。



「寄生体でもお荷物でもない(neither parasites nor passengers)」

ところで、無数のマイクロバイオームたちは何者なのでしょうか? 寄生体(parasites)でしょうか、それとも単なるお荷物(passengers)でしょうか?

実は、そのどちらでもなく、彼らは十分な会員資格を持つ立派なコミュニティー構成員(fully paid-up members of a community)なのです。というのも、彼らには彼らにしか出来ない仕事があり、我々人間はその恩恵を多分に受けていることが明らかになってきているのです。



「摂取カロリーの10%以上(more than 10% of daily calories)」

驚くべきことに、我々人間の摂取するカロリーの10%以上が、マイクロバイオームによりもたらされているのだそうです。

マイクロバイオームの持つ酵素(enzymes)には、ヒトの酵素では分解できないものまで分解する力があります。たとえば、植物性の炭水化物(plant carbohydrates)がその典型で、マイクロバイオームがそれらを分解してくれるお陰で、我々はそれを栄養として摂取することがでてきているのです。



「母乳(mother's milk)」

もっと驚くのは、じつはヒトの酵素が母乳(mother's milk)の一部を分解できないということです。

ヒトの酵素が分解できないのは、母乳に含まれるグリカン(glycans)と呼ばれる多糖類。これらはマイクロバイオームの力を借りることによって初めて、赤ちゃんが栄養にできるのです。

こうした実例が紐解かれるにつれ、いかにマイクロバイオームが大昔から人間と共に進化してきたかが分かってきます(co-evolved over the years)。



「ビタミンを作る(makes vitamins)」

マイクロバイオームは食物を消化する(digest)ばかりではありません。なんと、ビタミまで作ってくれるのです。ビタミンB群と呼ばれるビタミン(B2、B12、葉酸など)は、マイクロバイオームが人体内で生産できるのだそうです。

マラウイやベネズエラといった、ビタミンが不足しがちな地域(vitamin-hungry places)では、他の地域の人々よりもずっと多くのビタミンB群がマイクロバイオームによって作られています。つまり、マイクロバイオームは体内におけるビタミンの過不足を考慮して、その生産量を調節しているのです。

また、新生児はビタミンB群のうちでも、とくに葉酸(folic acid)をたくさん必要としますが、新生児のマイクロバイオームは成人のそれ以上に、葉酸を生産する力が強いとのことです。



「人体の健康を守る(maintains the host's health)」

マイクロバイオームは、体外からの有害な侵入者(hostile interlopers)を食い止める力も持っています。

体外からの敵は、人体の敵であると同時に、その住人たるマイクロバイオームの敵でもあります。この点、両者は利害を共有する同盟者(allies)なのです。





「マイクロバイオームの乱れ(an upset microbiome)」

もし、強力な同盟者であるマイクロバイオームに乱れが生じれば? その人体は数々の病気に悩まされるかもしれません。

肥満(obesity)や栄養失調(malnutrition)、糖尿病(diabetes)、動脈硬化症、心臓疾患、多発性硬化症、喘息、湿疹、肝疾患、腸疾患…。詳細が明らかになっていないことは多いものの、マイクロバイオームの乱れ(upset)は、幾多の病気につながっている可能性があるようです。



「治療に効果(effect a cure)」

もし、マイクロバイオームの乱れた結果(consequence)が病気なのだとしたら、逆に考えれば、マイクロバイオームの乱れを整えることが病気の治癒につながるということでもあります。

実際、過敏性腸症候群(irritable-bowel syndrome)において、6種類前後の細菌の混合体(いわゆるプロバイオティクス)が、その症状を和らげる働きがあることが確認されています。

※プロバイオティクス(probiotics)というのは、ヨーグルトなどにも含まれており、ヨーグルト・メーカーはこの効用を声高に主張しています。



「便移植(stool transplants)」

少々汚い話になりますが、ある種の感染症(infection)の患者のお尻に、健康な人の便(the faeces)を浣腸することで、その感染症を防ぐ効果があることが明らかになっています。

その感染症とは、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)と呼ばれるもので、年間1万4,000人ものアメリカ人が犠牲になっている恐ろしい感染症です。

この感染症にかかってしまった患者の腸内マイクロバイオームは、すっかり乱れた状態にあるわけですが、そこに健康な人の健康なマイクロバイオーム(便)を浣腸することで、感染症患者のマイクロバイオームの乱れが収まるのだそうです。

多少汚い話とはいえ、心臓や肝臓などを移植することを考えれば、便中のマイクロバイオームを移植することは、はるかに容易なことなのです。なにせ浣腸一本なのですから。



「遺伝子(genes)」

マイクロバイオームそのものを操作することの他に、その遺伝子を利用することも考えられています。

たとえば、心臓疾患(heart disease)などは、家族での遺伝がヒトの遺伝子の中に認められている一方で、同様の家族性が見られる自閉症(autism)では、家族的な遺伝のつながり(genetic link)が見いだせていません。

そこで疑われているのがマイクロバイオームの遺伝子です。もしかしたら、自閉症はヒトの遺伝子ではなく、マイクロバイオームの遺伝子によって家族間に伝わっているかもしれないのです。





「誤った遺伝子群(the wrong set of genes)」

マイクロバイオームの遺伝子は、ヒトの遺伝子と同様、親から子に受け継がれます。それは、出産という混沌としたプロセスを通してです。

ヒトの遺伝子は2万3,000しかないのに対して、マイクロバイオームの遺伝子はその100倍以上の300万もあるのですから、圧倒的大多数のマイクロバイオームの遺伝子を精査することは、新たな病気の原因を突き止めることにつながるかもしれません。



「マイクロバイオーム革命(the microbiome revolution)」

いったい、病気の本当の原因は何なのか?

人間の細胞や遺伝子ばかりを見ていても、解決不能の問題(intractable problems)の答えはなかなか見い出せません。もし、その答えがマイクロバイオームやその遺伝子にあったとしたら?

我々はそろそろ、考え方の裏と表をひっくり返す(turning inside out)必要があるのかもしれません。



「革命、万歳!(Vive la revolution!)」

マイクロバイオームにすべての答えがあるわけではないでしょうが、今まであまり注目されてこなかったものに目を向けることは、新たな知見(new insights)を生み出すことにもつながります。

まさに、「マイクロバイオーム万歳! 革命、万歳!」です。



ちなみに、万歳が「viva la 〜」とフランス語で表記されているのは、記事の冒頭で、フランスの革命家「ロベスピエール(Robespierre)」の名前が登場しているからです(本当に名前だけですが…)。

ロベスピエールは1789年のフランス革命にかかわった人物で、賄賂などに一切興味を持たなかった「清廉の人」として歴史に記録されています。しかしその一方で、恐怖政治を敷いた「独裁者」として、最期には処刑されてしまいました。



こうした二面性を持つ革命家の名前を登場させることは、マイクロバイオームの起こすであろう革命が、そうした二面性を持ちうることを示唆しているようにも思います。

善と転ぶか? 悪と化すのか?

それはマイクロバイオームの問題というよりも、畢竟、ヒトの問題なのでしょう。






英語原文:
Modern medicine: Microbes maketh man | The Economist

posted by エコノミストを読む人 at 19:24| Comment(4) | サイエンス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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