2015年09月18日

立ち上がった日本の学生たち [The Economist]



何万という群衆(a crowd of tens of thousands)が日本の国会(the Diet)を包囲した。日本でのデモといえば、これまでは年配の方々の領域(the domain of elderly)だった。だが、今回は違う。


The student protests are a novelty in a country where the young have been singularly detached from politics.

若者たちが政治に対して極端に無関心なこの国で、学生デモが起こるのは実に珍しいことだ。




こうした20代の若者たちは、昨年(2014)の総選挙で3人の一人の割合でしか投票所に足を運んでいなかった。その彼らが、安倍政権の安保法案に対して反対の意を明確にしているのである。この新しい法案が通れば、アメリカなどの同盟国(allies)が攻撃を受けた場合、日本の自衛隊(Japan's armed forces)が出動することが可能となる。

"They've shown that it's not the action of a marginalised and weirdo few", says Jeff Kingston of Temple University.

アメリカ、テンプル大学のジェフ・キングストンは言う、「彼ら若者たちは、政府に対する抗議が社会のはみだし者や風変わりな少数派による行動ではないことを示している」。

Now students have made street protest normal, even fashionable, with trendy clothes and polite manners.

いまや学生たちは街頭デモ(street protest)をごく普通のことに、そしてよりおしゃれなものにした。流行の衣装に身をつつんだ彼らはたいへん礼儀正しい。

They are the toast of talk shows.

彼らはトーク・ショーで評判(the toast)だ。





今回、国会周辺を封鎖した街頭デモは、日本では過激な行動(a radical act)と報じられている。しかし、暴動のさなかに死者まで出した1960〜70年代の安保闘争と比較すれば、なんと穏やかなことか。

"So we behave well and take our rubbish home.", says Nobukazu Honma, student leader.

学生団体のリーダー、本間信和(ほんま・のぶかず)氏は言う、「私たちは行儀よく行動しています。ゴミは家に持ち帰ります」

Mr Okuda group's ultra-polite tone is a far cry from the student protests of the 1960s and 1970s.

奥田氏のグループの丁寧すぎるほどの声音(こわね)は、1960〜70年代の学生運動とはかけ離れている。

明治大学の奥田愛基(おくだ・あき)氏は、9月15日の参議院に招かれた。SEALDs(Student Emergency Action for Liberal Democracy s)という学生団体の代表として。

He bought a suit in the morning and re-coloured his dyed-brown hair back to fit in with the MPs.

午前中に彼はスーツを買って、茶髪を黒髪に染め直した、国会議員たちに合わせるために。





「あのー、すいません、こんなことを言うのは大変申し訳ないんですが、さきほどから寝ている方がたくさんおられるので、もしよろしければ、お話を聞いていただければと思います。



最初はたった数十人で、立憲主義の危機や民主主義の問題を真剣に考え、5月に活動を開始しました。


この安保法制に対する疑問や反対の声は、現在でも日本中で止みません。つい先日も、国会前では10万人を超える人が集まりました。しかし、この行動は何も、東京の、しかも国会前で行われているわけではありません。私たちが独自にインターネットや新聞で調査した結果、日本全国で2000カ所以上、数千回を超える抗議が行われています。累計して130万人以上の人が路上に出て声を上げています。



強調しておきたいことがあります。それは私たちを含め、これまで政治的無関心といわれてきた若い世代が動き始めているということです。



ある金沢の主婦の方がフェイスブックに書いた国会答弁の文字おこしは、またたくまに1万人もの人にシェアされました。ただの国会答弁です。普段なら見ないようなその書き起こしを、みんなが読みたがりました。なぜなら、不安だったからです。



いったいなぜ、11個の法案を2つにまとめて審議したか。その理由もわかりません。ひとつひとつ審議してはダメだったのでしょうか。全く納得がいきません。



どうかこれ以上、政治に対して絶望してしまうような仕方で、議会を運営するのはやめてください。



私たちは決して、いまの政治家の方の発言や態度を忘れません。3連休をはさめば忘れるだなんて、国民をバカにしないでください。



新しい時代はもう始まっています。もう止まらない。すでに私たちの日常の一部になっているのです。私たちは、学び、働き、食べて、寝て、そしてまた、路上で声を上げます。できる範囲で、できることを、日常の中で。

… 」



こうした学生らによる新しい動きは、さまざまな人を巻き込みながら活性化している。

Minako Saigo, a 28-year-old mother of three, founded a mothers' protest group last July after watching students; about 2,000 people marched under her banner in Shibuya in Tokyo.

3児の母、28歳の西郷南海子(さいごう・みなこ)さんは、学生たちの活動に触発されて、母親たちによる抗議団体(「安保関連法案に反対するママの会」)を7月に立ち上げた。東京渋谷、彼女の旗の下におよそ2,000人がデモ行進をおこなった。

Many in Mr Abe's Liberal Democratic Party are growing nervous about the prime minister's lower approval ratings ahead of an election for the upper house next summer.

来夏に参議院選をひかえる自民党員の多くは、安倍首相の支持率(approuval ratings)の低さに不安を募らせている。

No matter what happens with the security bills, people will not stop protesting, Mr Okuda insists.

安保法案がどうなろうと、国民は抗議を決してやめません、奥田氏(SEALDs)はそう断言した。












(了)






出典:
The Economist, Sep 19th 2015
Protest in Japan; To the barricades, politely




posted by エコノミストを読む人 at 09:25| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年09月06日

女性受難、日本のマタハラ [The Economist]


"Abenomics is womanomics"

アベノミクス(安倍経済)はウーマノミクス(女性による経済)

東京で開かれたWAW(World Assembly for Woman, 女性が輝く社会に向けた国際シンポジウム)のパーティー会場において、日本の安倍晋三首相はそう切り出した。

Shinzo Abe promised to help women "shine" at work as a way to boost Japan's talent pool and economy.

安倍晋三氏は、日本の人材プール(talent pool)と経済を活性化させる一助として、女性が職場で輝けるよう尽力すると約束した。




安倍首相の言に対し、小酒部(おさかべ)さやか(Sayaka Osakabe)さんは、こう返す。

Before "shining" women just need to be allowed to work without being harassed.

女性が輝くまえに、まずは嫌がらせを受けずに働けるようにする必要がある。

小酒部(おさかべ)さんはNPO「マタハラNet」の創設者(founder)。マタハラ(Matahara)とは、「妊娠(maternity)と嫌がらせ(harassment)の造語」であり、違法ながらも日本社会には蔓延している事実がある。





職場の上司から中絶(abortion)を迫られたケースもある。

One woman landed a prized "career-track" job at a big bank alongside her boyfriend, who worked in another department. After she became pregnant, a manager told her he would "crush" both her own career and that of her boyfriend if she went ahead and had the baby. In 2011 she took the hint and had an abortion.

ある女性は、大銀行の栄えある出世コース(career-track)に第一歩を踏み出した。彼女のボーイフレンドもまた、同じ銀行の別の部署でキャリアをスタートさせていた。ところが、彼女の妊娠を知った上司からこう言われた。もしこのまま子供を産んだら、彼もろとも台無しにしてやる(crush)と。2011年、察した彼女は中絶(abortion)を選んだ。

その哀れな彼女は現在、マタハラNetで小酒部(おさかべ)さんととも働いている。小酒部さん自身、流産(miscarriage)という苦い経験を2度もしているという。やはり職場での嫌なストレスがその一因であった。若い母親の5人に1人が、職場での嫌がらせ(office harassment)を受けている、と連合(日本労働組合総連合会)は言う。

Part of the problem is the country's culture of pointless workaholism. Office workers are expected to stay late even if have no work to do.

問題の一部は、意味のない仕事中毒(pointless workaholism)という日本の慣習にある。企業で働く人は、とくに仕事がないのに、なんとなく残業しなければならない。

妊娠した女性は早く帰れるという免罪符を得られるものの、居残る同僚(co-workers)に頭を下げながら帰宅することになる。多くの企業では産休(maternity leave)の代替員を雇わない。そのため、同僚らの重荷(burden)が増すのである。

It is one reason why seven out of ten women give up their jobs on having their first child

7人に一人の女性が、最初の子供(first child)ができたときに仕事をあきらめるというが、その一因がここにある。




 昨年はじめて、最高裁(the Supreme Court)はマタハラに有利な判決を下した。政府もまた、マタハラを軽視できない。とめどない人口減少は政治家にとっても頭が痛い。議会はもっと多くの女性が出世できるよう企業に求めている。

Women who find it hard to combine work and motherhood often forgo the latter.

仕事と母親の両立が難しいと考えたとき、多くの女性が母親になるのを見送ってしまう。


最後に、冒頭のWAW(World Assembly for Woman, 女性が輝く社会に向けた国際シンポジウム)のステージ上で安倍首相が述べた言葉を。

Our greatest barrier is a working culture that endorses male-centered long working hours.

最大の壁は、男性中心の長時間労働を是とする働き方文化(a working culture)です。

If men themselves do not awaken to this fact and take action, we will not be able to eliminate this bad practice

男性が自ら、気づき、行動を起こさなければ、この悪習(bad practice)を断ち切ることはできません。

First of all, we will expand a corporate culture that values working efficiently within a limited number of hours. Husbands will also actively take childcare leave and couples will share responsibility for household chores and child rearing

まずは、限られた時間で効率的に働くことを評価する企業文化(corporate culture)を広げ、夫も積極的に育休(childcare leave)を取得し、家事や育児(child rearing)を夫婦で共に担う。

We will make this the ordinary practice in Japan.

それを日本で当たり前(the ordinary practice)にしていきます。



The final curtain has been drawn on the era in which people ask why we promote the dynamic engagement of women in society. 

「なぜ女性の活躍(the dynamic engagement of women)を推進するのか」を問う時代は終わりました。

Now is the time for us to discuss how to bring it into reality

今は「如何に実現するか」を議論するときです。










 (了)






出典:
The Economist, Sep 5th 2015
Women and work in Japan "We're busy. Get an abortion"



posted by エコノミストを読む人 at 13:01| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年09月03日

日本独自(?)新しいインフレ指標 [The Economist]



日本の消費者物価指数(CPI, Consumer Price Index)は、7月の時点でマイナスに転じた。

エコノミスト誌は言う。

After two years of remission, Japan seems likely to sink back into the "chronic disease" of deflation.

2年ほど治まっていたデフレという持病(chromic disease)に、日本はふたたび落ち着いたように思われる。



”2年”というのは、日銀の総裁に黒田東彦氏が就任した2013年からの期間を指す。2年前、黒田氏は言った、2年後にはインフレ率を2%まで上昇させる、と。そして大量の円紙幣を印刷してバラ撒いた。

日銀がこれまで購入した日本国債(JGBs, Japanese government bonds)は、長期のもので約800億円にのぼる。これは2年分の長期国債発行額に相当する。総額では現在、既発債(outstanding bonds)の3分の1にあたる3兆円分を日銀が保有している。

こうした金融緩和(monetary easing)は副作用をともなう。日本円が弱くなることによって輸出を主体とする大企業は恩恵をうけるが、中小企業や家計は輸入品の物価上昇という打撃をうける。また、日銀ばかりが国債を買い占めることによって、市場の健全な競争が損なわれる。政府の財政規律(fiscal discipline)も蝕まれてしまう。



2年間の派手な金融緩和の末が物価下落だったことに対して、黒田総裁はこう説明している。

The falling oil price has pushed down core CPI.

原油価格の下落が、コア(基礎的)CPI(消費者物価指数)を下押した、と。

ちなみに、原油価格の変動はエネルギーには加算されるも、生鮮食品(fresh food)には加味されない。



黒田氏はこれまで、インフレターゲットの達成期限(the deadline for achieving)を2度延期している。新たな2%達成期限は来年の夏となっているが、それも難しくなってきた。

Shinzo Abe, the prime minister, said he understood the bank's explanation that reaching the target of 2% is in fact getting difficult.

インフレ目標の2%に到達するのは事実上、難しくなってきたとする日銀の説明に、安倍晋三首相は理解を示した。



日本経済は第2四半期に、年率換算1.6%縮小している。それでも政府と日銀は、経済が好転しつつある(on the mend)と信じている。そして最大の問題は「お気に入りのインフレ指標(つまりCPI)」にエネルギーが含まれていることだと考えた。

それゆえか、CPI(消費者物価指数)がマイナスに転じた7月、政府は静かに新しい指標(a novel measure)、「食料およびエネルギーを除く総合」を月次の報告書で公示した。それを人は「new core CPI」と呼ぶ。この新しい指標では、生鮮食品と同様、エネルギーのコストが排除されている。

するとどうだ、消費者物価指数は0.7%のプラスになるではないか!

"New core CPI" is rising by a relatively brisk 0.7%.






(了)






出典:The Economist, Aug 29th 2015
Finance and economics, Monetary policy in Japan




posted by エコノミストを読む人 at 09:52| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年08月21日

日本の有頂天政権 [The Economist]



日本の安倍晋三首相の支持率(approval rating)が急落している。

日経新聞が報じたところによると、つい最近(not long ago)までは60〜70%あった支持率が、7月末時点で38%にまで低下した(slid to 38%)とのこと。

それもひとえに、衆議院(the lower house)で安保法案を強行に通過させた(rammed through)ゆえのことであった。





安倍首相が変えようとしている安全保障案(the security legislation)は、攻撃を受けた同盟国(allies, とくにアメリカ)を自衛隊が守ることができるように、憲法(the constitution)の解釈を変えるものだ。

衆議院での野党の投票ボイコット、そして強行採決。そうした国会の光景は、日本国民を不安がらせる(fraught)とともに感情的(emotional)にさせた。東京では、学生や主婦たちから年配の方々までが街頭に繰り出し、安倍政権を非難した。

ある原爆生存者(the bomb survivors)は訴えた。「安保本案は戦争につながる(The devence bills would lead to war)」と。



今年は戦後70周年(70th anniversaries)。

70年前の8月15日、昭和天皇(Emperor Hirohito)はラジオ放送で「戦局かならずしも好転せず(not necessarily to Japan's advantage)…」と日本の敗戦、降伏(surrender)を知らせた。

それに先立つ8月6日の広島への原爆投下(the dropping of the atomic bomb)、つづく長崎へのさらなる原爆破壊(the atomic destruction)…。






今回の強引な強行採決(strong-arming of the bills)は、第二次世界大戦後の岸信介首相を思い起こさせる。彼は1960年、アメリカとの安全保障条約の改定(revised security treaty)を断行した(pushed through)。

奇しくも岸氏は、安倍首相の祖父。そのためか安倍首相は岸信介と比較されることを好む。今回巻き起こった抗議行動は、岸信介に対して起きた左翼の抗議行動(the left-wing protests)と似たところがある。



日本国民は、安倍首相が日本を平和主義(pacifism)から遠ざけようとしているのではないかと不満を募らせている。だが、当の本人は「落ち着きを深めるばかり(grows only more serene)」。エコノミスト誌いわく「支持率の低下に直面しても直面しても(In the face of falling populrarity)、首相は無頓着なように見える(the prime minister seems unconcerned)」。

安倍首相は同誌にこう語っている。「岸氏は不人気(unpopular)だったが、のちに正しかったことが証明された(vindicated)。それと同様、今回の安保法案についても自分が正しいことが証明されるだろう」。

この首相の落ち着きに対して、彼の顧問ら(handlers)は神経質にならざるをえない。なぜなら、岸氏はその正しさが証明されるずっと前に辞任を余儀なくされている(forced to resign)からだ。






内閣官房長官(the chief cabinet secretary)の菅義偉(すが・よしひで)氏は、とりわけピリピリしている(particularly edgy)。

菅氏は8月4日、予想外の行動(the unexpected step)に打って出た。沖縄の辺野古に予定されていたアメリカの新たな滑走路(a new airstrip)建設を一時的に中断すると発表。安倍首相の支持率低下をなんとか食い止めようとするかのように。

しかし、この決断は観測筋(ovservers)を唖然とさせた。なにせ、辺野古への移設(relocation)は20年もの長きにわたってアメリカと日本が尽力してきた計画だったからだ。今後の建設再開は難しくなるだろう。沖縄の翁長知事の強硬な反対(the staunch opposition)が予想される。






安倍政権を悪化させる政策は他にもある。

8月11日には九州・鹿児島にある川内(せんだい)原子力発電所の運転を再開させた(come back to on-stream)。これは東日本大震災における福島の原発事故以来、初の本格稼働となる(限定的に2012〜2013年、大飯原発が稼働している)。

国民世論の60%は未だ原発の再稼働には反対している。この反原発運動(the anti-nuclear movement)は安保法案反対の動きと軌を一にする恐れを孕んでいる。






安倍政権の政治資本(political capital)は急速に枯渇しつつある(being depleted)。以前の輝きはすでに色褪せている(shine comes off)。

それでも野党からの挑戦はほとんどない(little challenge)。安倍氏はそれを重々承知で、今夏の参議院選挙を悠々と待っている。しかし、ジェラルド・カーティス氏(コロンビア大学)は言う。「野党が魅力的でない(unattractive)からといって、国民が野党に投票しないと決まったわけではない」と。

カーティス氏が警告するように、最近の日本の有権者(voeters)は気まぐれ(volatile)である。






(了)






出典:
The Economist「Politics in Japan: enraptored」
JB Press 「日本の政治:戦後70年の節目での安保闘争」
posted by エコノミストを読む人 at 06:53| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年04月22日

安倍・黒田、両氏の不協和音



アベノミクス(Abenomics)は当初、首相・安倍晋三と日銀総裁・黒田東彦(くろだ・はるひこ)の蜜月関係(the affair)によって促進された。

安倍首相は見込んでいた。「黒田氏ならば、前例のない金融緩和(un orthodox monetary loosing)によって日本を再生してくれるはずだ」と。

デフレの泥沼(deflationary morass)から日本を救い出すには、急進的な量的緩和プログラム(radical programme of quantitative easing)が必要だと、安倍首相は考えたのだ。






そして2013年春、日銀の黒田総裁は、その期待に応えた。安倍・黒田両氏は緊密な関係(the tight bond)によって結ばれている、と思われた。

だが、ここへ来て、両氏の関係は悪化しているようだ。
"But now the two men appear at loggerheads".



その主な対立点(point of contention)は、財政政策(fiscal policy)に関してであり、金融緩和そのもの(monetary easing itself)を巡って意見が食い違いはじめている。

安倍政権は、これ以上の新たな国債買い入れはやりすぎだ(too much of a good thing)というサインを出しているようだ。

しかし、新たな国債の買い入れ(a fresh bout of bond-buying)は必要だ、と黒田氏は考える。あらゆる手段を使って(whatever it takes)インフレ率を2%にまで上昇させると自ら約束したのだから。






そもそも両者の不協和音(discord)の原因は、当初の計画が目論見通りにいかなかったことにある。

本来なら、構造改革(structural reforms)の成果として経済成長が促進されているはずだった。そして、消費税(consumption tax)は8%から10%に引き上げられ、プライマリーバランス(利払い前の基礎的財政収支)は2021年までに黒字化するという長年の目標(a longstanding connitment)を、段階的に達成できているはずだった。

しかし現実は、成長どころか日本は景気後退(recession)に陥ってしまった。その結果、消費税の増税は見送られ、物価は依然、足踏み状態(standstill)が続いている。



かつて黒田氏は財務省の要職(mandarin)にあった。ゆえに規律(dicipline)の維持は、彼にとって絶対である。ところが安倍首相は、消費増税のプランを変更しようとしていた。

黒田氏は力ずくでも首相を増税(tax hike)に踏み切らせようとしたのか、驚くべき手を打った。2014年秋、大幅な金融緩和拡大、資産買い入れ額を年間80兆円に拡大すると発表した。

この日銀の動きに、首相官邸の人々の多くはうんざりした(irked)という。






コアインフレ率(core inflation)がゼロに逆戻りしてしまった今、日銀は金融緩和を拡大せざるを得ないと感じている。しかし政府は、日銀による国債買い入れ拡大にはリスクがあると懸念を示している。

政府が量的緩和(quantitative easing)の拡大に反対するのは、政治的な理由(political reasons)もある。量的緩和は一部、不動産や株式市場、大手輸出業者には恩恵をもたらした。だが中小企業や一般家庭にとっては、円安によって輸入品の価格が上昇しただけだった。

また日銀ばかりが国債を購入してしまうことで、国債市場(bond market)は大きく歪んでしまった。ほかの参加者が市場から追い出されてしまったのだ。国債の流通市場(secondary market)が限定的になってしまうと、今後、国債の発行が難しくなる恐れがある。






日本の公的債務残高はGDP比でおよそ240%。先進国中では群を抜いて高い。当然、安倍首相も黒田総裁も、債務削減の必要性は感じている。

「ただし、安倍首相が経済成長(growth)に重きを置いているのに対して、黒田氏は財政規律(fiscal discipline)のほうを重視している」と政府高官の世耕弘成氏は言う。

”黒田氏はいつになく率直に懸念を示し、早急に財政規律(fiscal discipline)を導入する必要性を訴えている(『The Economist』誌)”



2015年の国家予算は過去最大規模(the record level)になっているという。高齢化にともなう社会保障費(social-security spending)の増大が大きい。社会保障支出の大幅削減は、政治的にタッチできない領域(politically off-limits)なのだ。

「さらに9兆円の財源(extra \9 trillion)を見つける必要がある」と政府は述べる。

日本にとって最も重大な試練(most important test)は、まだ先にある。



安倍氏と黒田氏の不和(falling out)は、まだ早すぎる(premature)。






(了)






ソース:
The Economist 「Economic policy in Japan: End of the affair」
JB press 「日本の経済政策:蜜月の終わり」



単語集:







posted by エコノミストを読む人 at 15:39| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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