2015年09月09日

ブラジルの落ちた穴 [The Economist]



Brazil's policymakers have stuck their heads in the sand.

ブラジルの政治家たちは、砂の中に頭を突っ込んでしまった。

世界的なコモディテー・ブームの終焉、インフレの高進、消費の低迷、失業率の急増、通貨レアルの暴落(free-falling)…。なすすべのなくなってしまったブラジルの政治家たち。悲惨な現実から目をそらそうと頭を砂に突っ込んでしまった(ダチョウは危機を感じると、そうするという俗説がある)




Its economy is in deep trouble and its fiscal credibility is crumbling fast. Brazil's GDP is expected to contract by 2.3% this year.

深刻な問題を抱えこんだブラジル経済、その財政的な信頼性はもろくも崩れた。ブラジルの今年のGDPは2.3%縮小すると見られている。

ルセフ大統領は来年度の予算案(draft budget)において、ハイパーインフレ時代後(post-hyperinflation era, 1980-95)初の赤字(primary deficit)を組み入れなければならなかった。

This year a planned primary surplus (ie, before interest payments) has vanished. Once interest payments are included, the total deficit this year is projected to be 8-9% of GDP.

今年計画された、金利支払い前の黒字(primary surplus)は消え去っていた。金利の支払いを勘定にいれると、全体の赤字額(the total deficit)はGDP比8〜9%と見積られた。

政府は借金をしなければならなくなったわけだが、ブラジルの借り入れは高くつく。経済規模に比べて国の金利(interest rate)が高いからだ。

Since the turn of the century Brazil's government has been guided by three principles: a credible inflation target, a floating currency and primary surpluses, ideally large enough to bring public debt down. 

今世紀、ブラジル政府は3つの原則(three principles)によって導かれてきた。信頼のおけるインフレ目標、変動相場、そして黒字(surpluses)の3つであり、公的負債を減らすには十分すぎるくらいだった。

この三本柱(tripod)のおかげで、ブラジルはハイパーインフレという過去を拭い去ることができていた。くわえて、数百万人を貧困から抜け出させた力強い成長もあった。

しかし現在

All this is now in jeopardy.

これらすべてが今、危険にさらされている。





ルセフ大統領ひとりを責めるわけにもいかないが、8%という支持率(public-approval rating)はあまりにも低い。議会での権威も損なわれている。

Lawmakers are also angered by her finance minister's attempts to rein in pork-barrel spending, and alarmed by a wide-ranging investigation into corruption at the state-controlled oil giant, Petrobras.

ブラジルの政治家たちはルセフ大統領に怒っている、彼らの金ヅルである助成金(pork-barrel)が財務大臣によって減らされそうになっているからだ。そして国家の管理下にある巨大石油企業、ペトロブラスに対して広範な汚職(corruption)捜査をしないよう警告している。

ルセフ大統領はプライマリーバランスの黒字化のために、2007年に廃止されていた金融取引税(a tax on financial transactions)を復活させようとしている。しかし、これは不人気だ。彼女の側近は言う、

It is stuffed with short-termists who are more concerned with lining their pockets than securing Brazil's future. Many, both in the opposition and among her supposed allies, are wasting their energy trying to impeach Ms Rousseff.

ブラジルの将来を案じるよりも、自分の財布をいっぱいにしたい近視眼的な奴ら(short-termists)ばかりがひしめいている。反対派であれ支持派であれ、たくさんの人々がルセフ大統領を弾劾しようと、無駄にエネルギーを費やしている。

ブラジルの行き詰まり(impasse)を早急に解決しなければ、信頼感(confidence)は損なわれる一方だ。海外の投資家たちが手を引いてしまえば、ブラジルは何年となくスランプに落ち込み、国の格付けも下げられてしまうだろう。

Ms Rousseff falls far short of that ideal.

ルセフ大統領は、理想のずっと手前で落ちてしまった。

ブラジルの公的支出(public spending)はGDPの40%と、中所得国(middle-income countries)にしてはずいぶん高い。しかし、その削減を試みようにも、来年の予算案では最低賃金の上昇と社会福祉への支払いがすでに約束されており、逆に10%も上昇する計算である。

Brazil is in an economic hole, and still digging.

ブラジルは経済の穴に落ち込んでしまった。そしてさらに墓穴を掘り続けている。













(了)






出典:
The Economist, Sep 5th 2015
Brazil's disastrous budget "All fall down"


posted by エコノミストを読む人 at 07:42| Comment(0) | 南北アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年08月28日

ベネズエラ、コロンビアとの国境閉鎖。非常事態を宣言


ベネズエラ政府はコロンビアとの国境を閉鎖し、国境地帯の6自治体(municipalities)に非常事態(a state of emergency)を宣言した。密輸業者(smugglers)が兵士3人と民間人1人を銃撃・負傷させたことを受けてのことだった。

Venezuela's government closed the main border crossing with Colombia and declared a state of emergency in six frontier municipalities after smugglers shot and injured three soldiers and a civilian.

ベネズエラ政府が不法入国しているコロンビア人(those living illegally)を追放する(expell)と発表すると、千人以上のコロンビア人がベネズエラを去った。

More than a thousand Colombians left Venezuela when the government declared that those living illegally in the country would be expelled.


Politics this week
The Economist, Aug 29th 2015



posted by エコノミストを読む人 at 11:36| Comment(0) | 南北アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年08月24日

ブラジルの正念場。歯止めのかからぬ政府の拡大


ブラジル:正念場を迎えた大統領
Brazil : A moment of truth for Dilma

英国エコノミスト誌 2012年8月18日号より



「ブラジル・コスト(Brazil cost)」

100年前、ある経済史家は「ブラジルの対外貿易(foreign trade)はコモディティー(商品)に限られている」と指摘しました。なぜなら、「ブラジル・コスト」とも呼ばれる、高い国内税(internal taxes)などで他の輸出品の生産コストが国際的に競争できなかったからです。

ちなみに、経済用語としてのコモディティー(商品)というのは、原油やガスなどのエネルギー、金やプラチナなどの貴金属、大豆やトモロコシなどの穀物などなど、商品先物取引所で扱われている商品のことを指します。



「中国の需要(China's demand)」

たとえブラジルの輸出がコモディティーに限られていようと、それはそれで過去10年間、ブラジルに高成長をもたらしました。たとえば、中国の旺盛な需要はブラジルの鉄鉱石(iron ore)や大豆(soya beans)、石油などをドンドン買ってくれたのです。

高成長のお陰で、ブラジル国民の購買力(the purchasing power)も高まりました。それは、賃金(wages)が上昇したことに加え、ローンなどの借金もできるようになったからです(newly available credit)。



「行き詰まり(stall)」

ところが近年、ブラジルは行き詰まっているようです(has stalled)。100年前から指摘されていた「コモディティー頼み」に陰りが見えてきたのです。

ブラジル・コストとも揶揄されているように、ブラジルは投資先や生産拠点としては「極めて割高な場所(a widly expensive place)」であるため、コモディティー以外の産業が十分に育っていません。

そして、一時は借金(ローン等)によって高まった国民の購買力も、その借金が重しとなってきています。



「ブラジル産の鉄鉱石(Brazilian iron ore)」

日産のトップ、カルロス・ゴーン氏は、「ブラジルで鉄を買うよりも、ブラジル産の鉄鉱石(iron ore)を韓国で加工した鉄を買う方が安い」と不満を漏らしています。

それほどにブラジル・コストというのは割高で、企業に重くのしかかるものなのです。



「生産性の低さ(stagnant productivity)」

ブラジルの生産性(productivity)の低さは、100年前から競争力(competitiveness)にあまり注意を向けてこなかった結果でもあります。

それに加えて、ブラジル国内のインフラのお粗末さ(poor infrastructure)が企業のコストをさらに増大させています。ブラジルの道路は、まだ全体の14%しか舗装されていないのです。

WEF(世界経済フォーラム)のランキングでは、ブラジルのインフラは世界104位(142カ国中)。中国(69位)、インド(86位)、ロシア(100位)の下に位置しています。



「果てしなく膨れ上がった政府(the remorseless expansion of the state)」

コモディティーの力により、十分な国際競争力を持たないままに成長してきたブラジル経済。そのコモディティーの力は、ブラジル政府の支出を果てしなく膨張させもしました。

ブラジル政府の税金収入はGDPの36%をも占めます。これはヨーロッパ並みの高水準ですが、そのサービスはヨーロッパのそれに遠く及びません。たとえば、ブラジル国民の半数近くの家に下水道(sewerage)が通っていないのです。



「2倍になった公的部門の賃金(the public-sector wage has doubled)」

ブラジル政府の支出がそれほど膨張してしまったのは政府関係、いわゆる公的部門(public-sector)への出費がそれだけ増加したからです。政府に集められた税金は国民のサービスへ向かうよりも、ただただ政府関係者(insiders)によって食いつぶされてきたのです(gobbled up)。

たとえば、2003〜2010年の間に、公的部門の賃金は2倍以上に跳ね上がっています。通常、賃金の上昇はその国のインフレ率を超えることはありませんが、この同期間、ブラジルのインフレ率は50%を下回っています。それなのに、公的部門ばかりは100%以上も賃金が上昇したのです。



「需要拡大路線(twiddling the dials of demand)」

これまで、ブラジル政府の行った対策はといえば、特定の産業に対して優遇税制(tax breaks)を認めることであったり、低金利融資(cheap loans)を与えることでした。

しかし、こうしたブラジル政府の需要(demand)拡大路線は、今後のまともな成長(a decent clip)に寄与しません。むしろ、その増大が大きな荷物となって、成長の足を引っ張り始めているのです。



「高い供給コストの抑制(tackling the high cost of supply)」

そろそろブラジルは、需要拡大路線から高い供給コスト(ブラジル・コスト)を抑制する方向に舵をきる必要があるのかもしれません。

為替介入によって通貨を安くすることや、政策金利(interest rates)を下げて資金調達コストを安くすることばかりでは、国内の競争力が高まることはないのです。

逆に通貨安や低い金利は、急激なインフレ昂進(spike in inflation)を招きかねない両刃の剣でもあるのです。



「幅広い民間投資(widespread private investment)」

現在、ブラジル政府は4つの空港の改修工事を入札にかけたり、道路や鉄道に民間投資(private investment)を呼び込むと発表するなど、幅広い民間投資を募り始めています。

しかし、入札の条件があまりにも厳しすぎたり、投資のリターンが薄すぎたりと、まだまだ障害は多いようでもあります。



「公共支出の増加(the increase in public spending)」

ブラジル政府の予算の大半は、政府関係の組織や年金(pensions)などに向けられています。

たとえば、ブラジルの労働者の大半は50代前半から年金を受け取ることができるなど、馬鹿げた年金制度(absurd retirement rules)が政府の支出を拡大させています。



「法外な賃金要求(the exorbitant wage demands)」

ブラジルの経済規模に不釣り合いな年金制度に加え、公務員たち(civil servants)はさらなる法外な賃金(the exorbitant wage)を要求するストライキを決行したりもしています。

公的部門の人件費(payroll costs)は、ブラジル政府の自由裁量権(discretion)が行使できる数少ない予算項目の一つですが、これまではそれを抑制する方向には働いてきませんでした。



「公的部門の労働組合(public-sector unions)」

公的部門の賃金を抑制する方向に動かなかったのは、大統領率いる政権与党・労働党(Workers' Party)が、その支持の大半を公的部門の労働組合(public-sector unions)から得ているからでもあります。

ちなみに、前大統領のルラ氏は労働組合の元代表でもありました。



「ルセフ大統領の断固たる行動(her firm action)」

現大統領であるルセフ氏は、公金(public funds)の乱用(misuse)を容認した閣僚を解任するという断固たる行動を取ったことで、労働組合以外からの幅広い支持を獲得することにも成功しています。

ブラジル政府はそろそろ、強欲な巨大組織(the greedy Leviathan)との対決も視野に入れ始めているのかもしれません。そうしなければ、経済規模に不釣り合いなほどに、政府の規模ばかりが拡大していくのですから。





「100年前と同じ間違い(the faults of a century ago)」

100年前、ブラジル経済がコモディティー(商品)に過度に依存している危険性が指摘されたわけですが、現在においても、ほかの産業の生産性は低く、その根本的な構造には変化がないようです。

それにも関わらず、政府ばかりは100年前よりもずっと膨張し、そのサービスは非常に偏りのあるものにとどまっています。

成長の一段落した今、ブラジルは岐路に立たされているのかもしれません。そして、ここがルセフ大統領の正念場(a moment of truth)でもあるのでしょう。







英語原文:
Brazil: A moment of truth for Dilma | The Economist

posted by エコノミストを読む人 at 07:17| Comment(0) | 南北アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年03月29日

アメリカのキューバに対する癇癪は治まるのか?

「カストロ兄弟、キューバとアメリカ(The Castros, Cuba and America)
資本主義への道(On the road towards capitalism」


英国エコノミスト誌 2012年3月24日号より



「スターリン主義者の一団(a cohort of Stalinists)」

兄のフィデル・カストロ氏の後を継いだ弟ラウル・カストロ氏は、自身よりも高齢のスターリン主義者(Stalinists)の一団(cohort)に周囲を固められて(flanked)キューバを率いているとのことです。

「cohort」は統計用語でもあり、特定の期間内に生まれた同齢集団(団塊の世代など)という意味がある一方、古代ローマの歩兵隊(300〜600人)をも意味します。




「重大な変化(a momentous change)」

キューバで起こりつつある重大な変化(a momentous change)とは?

社会主義だった同国が、資本主義(capitalism)への道を歩み始めたというのです。



「積極的な反対意見(active dissent)」

しかし、その歩みは痛ましいほどに遅々としている(painfully slow)ようです。

なぜなら、キューバの一党独裁に対して、積極的な反対意見(active dissent)は許されていないからです。



「後援者(a benefactor)」

ソ連が崩壊した時、キューバはその支援(subsidies)が受けられなくなり、経済を若干開放しています(opened up)。

ところが、ベネズエラ(ウゴ・チャベス大統領)が新たな後援者(benefactor)となったことにより、経済開放は立ち消えとなりました。




「家父長主義(paternalism)」

社会主義国であるキューバでは、社会福祉が充実していたのですが、同国経済が疲弊しているために、その費用が捻出できなくなってきているそうです。

「paternalism(パターナリズム)」とは、「強者が弱者の利益に適うようにと、弱者の意志に反してその行動に介入・干渉すること」です。

威厳のあった父親も、年とともに往事の権威は薄れていくようです。



「覆せない(irreversible)」

キューバの農業は大部分が民営化され(privatised)、2015年までに労働人口の3分の1は民間部門に移行するようです。

こうした民主化への流れは、もはや覆せない(irreversible)ものです。



「どっちつかずの(ambivalent)」

それでもラウル・カストロ氏の態度はどっちつかず(ambivalent)のようです。

経済の発展のためには資本主義は必要であるものの、共産党の支配体制を解体する(dismantle)つもりはないからです。



「役得(perk)」

官僚たちも自分たちの役得(perk)を失うことを恐れています。

「perk」には、「臨時収入・役員手当・チップ」などの意味があります。



「配給手帳(ration book)」

キューバ政府は、全国民に食料品を配給する食料配給制度の廃止を提案していました。

ところが、世論の反対によりその案は撤回を余儀なくされました。




「憤慨(resentment)」

キューバの学校や医療の質は落ち、所得格差(inequalities of income)も問題になってきました。

富へのチャンスを与えられるが権力者の身内(insiders)だけということに、国民の多くは憤慨しているようです。




「革命の実績(revolutionary credentials)」

キューバ革命を率いたカストロ兄弟とは違い、次代の指導者は革命の実績(revolutionary credentials)を持たないことになります。

現在のところ、後継者(a successor)を育成すること(to groom)はうまくいっていないようです。




「雇われの殺し屋(hired guns)」

資本主義を向き始めたキューバでありますが、共産主義の崩壊は内戦(civil war)への危険もあります。

キューバの治安組織(security)や情報機関(intelligence agencies)が、雇われの殺し屋(hired guns)になってしまうかもしれません。



「国益(the national interest)」

アメリカは常に自国の国益(the national interest)を最重視してきました。

その国益のためならば、共産主義の国家とも正常な関係を築いてきました(中国やベトナムなど)。



「癇癪(tantrum)」

ところが、キューバに対するアメリカの政策は癇癪(tantrum)のようなものでした。

キューバはアメリカの言いなりになることを拒み続けたために、アメリカはむかっ腹が立ってしょうがなかったようです。

そのため、その政策はとうてい理路整然とした計画(a coherent plan)ではありませんでした。



「経済制裁(economic embargo)」

アメリカの癇癪(tantrum)から行われたキューバへの経済制裁(economic embargo)は、逆にキューバの団結を強めました。

キューバが絶えず唱え続けた言葉(the abiding trope)は、海の向こうの侵略者(the aggressor)に対する団結(unity)だったのです。



「潮時(high time)」

アメリカとキューバの感情はもつれがちでしたが、そろそろ潮時(high time)を迎えているのは確かです。

50年以上にわたる両者の確執は、新たな局面を受け入れる必要も出てきているようです。






posted by エコノミストを読む人 at 05:43| Comment(0) | 南北アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年04月18日

アメリカに一因があるメキシコ麻薬戦争 The Economist



メキシコが麻薬の抗争地となって久しいが、
もともとはアメリカの沿岸警備隊が
カリブのコカインルートを撲滅したために、
麻薬取引はメキシコに舞台を移したのだ。

コカインの需要が大きいのは、依然アメリカであり、
アメリカのコカインのほとんどが中米からの供給である。

アメリカのコカイン消費者は、
結果的に麻薬ギャングに資金を提供していることになる。

さらには、
「麻薬ギャングにかなりの銃を調達しているのは
アメリカの武器商人」なのだ。

つまり、アメリカの失策が、
メキシコの麻薬戦争を引き起こしているのだ。

一度は問題をメキシコに丸投げしたアメリカだが、
そのとばっちりは
メキシコからの不法移民の大量流入となって返ってきた。

メキシコで「争いが続くうえに、
仕事の機会もないというどうしようもない状況」とあっては、
お隣アメリカに逃げ込むしかなかったのだ。

posted by エコノミストを読む人 at 11:14| Comment(0) | 南北アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。