失業の世代
Generation jobless
仕事と若者
Work and the young
仕事から外れている若者たち(young people out of work)。その数たるや、アメリカの人口に匹敵するほどだ。
英国エコノミスト誌 2013年4月27日号より
「若者は怠けるべきではない(Young people ought not to be idle)」
そう述べたのは、イギリスのサッチャー元首相。1984年のことでした。若者たちを中途半端な状態(in limbo)で放っておくことは、社会の悪だと彼女は言ったのです。
「失業手当(the dole)」
社会に出ると同時に失業手当(dole)を受けてしまうと、後々まで賃金が低く(lower wages)、その後の人生でも失業する期間は長くなってしまう(more spells of joblessness)といいます(およそ2倍に)。
それは、若年期に技術(skills)を身につけられなくなるからであり、自分への自信(self-confidence)も持てなくなってしまうからだそうです。
「ニート(Not in Employment, Education or Training)」
ところが現在、世界にはかつてないほど多くの、職を持たない若者たちがあふれています。
OECD(経済協力開発機構)の統計によれば、先進国の2,600万人以上の若者たち(15〜24歳)が、ニート(NEET)状態。職に就かず(not in employment)、教育もなく(not in education)、訓練も受けていない(not in training)のです。
「経済的に無活動(economically inactive)」
2007年以降、失業中の若者は30%増加し、全世界で7,500万人の若者が仕事を探して得られていないといいます(ILO・国際労働機関)。
世界銀行(World Bank)の調査によれば、新興国(emerging market)の2億6,200万人が経済的に無活動(economically inactive)となっています。統計の取り方次第では、その数はアメリカの全国民数(約3.1億人)に匹敵するのだとか。
「労働需要(demand for labour)」
若者たちは怠けたくて職を持たないわけではありません。長期にわたり低迷する先進諸国において(long slowdown)、労働需要(demand for labour)が縮小してしまっているのです。
若者たちには不幸にも、その採用(hiring)は見送られるのです(put off)。年配の労働者を解雇するよりも…。
「労働市場の機能不全(dysfunctional labour markets)」
また、新興国では労働市場が機能不全(dysfunctional)に陥っています。とりわけ、人口の急増するインドやエジプトなどにおいて。
インドには、労働と賃金(work and pay)に関わる法律が200近くもあるそうです。
「失業の孤(arc of unemployment)」
失業の波は、南ヨーロッパから北アフリカをへて、中東、南アジアへと続いていきます。まるで、失業が孤(arc)を描いて伝播していくかのように。
さらに、先進国の景気後退(recession)はそうした貧しい国々に、若者の反乱(youthquake)を誘発しました。
「若者たちの反乱(youthquake)」
職を得られぬという筋違いに、若者たちの怒りは爆発(burst)。その怒りは街頭で噴き出します。
凶悪犯罪(violent crime)が増加している国々(たとえスペイン、イタリア、ポルトガルなど)は、一様に若年失業率(youth unemployment)が驚くほど高い国々でもあります(startling high)。
「経済成長に火を着けろ(reignite growth)」
言うは易し、行うは難し(easier said than done)。経済がもっと成長すれば、自ずと若者たちにも職が巡ってくるはずですが、現実はそうもいかないようです。
先進各国は、もれなく過大な債務にその手足を縛られており(plagued by debt)、成長を画するどころか、逆に硬い甲羅の中に身を隠してしまっているのです。
「改革と改善(reforming and improving)」
そもそも、経済成長が雇用を生むか(Will growth give a job?)というのも疑問です。現在、若年失業率の極めて高い国々、たとえばスペインやエジプトなどは、経済が順調に成長軌道にあったときでさえ、高い若年失業率に苦しんでいたのですから。
すなわち、そうした国々では、労働市場そのものを改革する必要があり、若者たちに対する教育も改善しなければならないのです。
「硬直した労働市場(rigid labour markets)」
若年失業率が最悪化するのは決まって、労働市場が硬直化している国においてです。雇用(hiring)にかかる高い税金、解雇(firing)に対する厳しい規制…。
こうした要因が労働市場を硬直させ(rigid)、若者たちを街頭へと追いやってしまう(condemn to the street corner)のです。
「厳しい規制(strict rules)」
労働組合(trade unions)が強力なほど、その国の雇用と解雇(hiring and firing)に関して厳しい規制(strict rules)が敷かれることも多くなります。
たとえば、サハラ砂漠以南で最も失業率の高い南アフリカ共和国は、労働組合の最も強力な国の一つです。
「高い最低賃金(high minimum wages)」
また、失業の孤に属する多くの国々もそうであり、最低賃金(minimum wages)が高くて、労働に対する課税も甚だしいのです(heavy taxes)。
本来、労働組合(trade unions)は労働者を守るために生まれたはずが、労働者を過保護にするあまり、逆に労働者たちの首を締めてしまっているというのも、まったく皮肉な話です。
「規制緩和(deregulation)」
ならば、硬直化した規制(rigid rules)を緩和すればいいのでしょうか(deragulation)。
ではなぜ、労働市場がより柔軟(flexible)なはずのイギリスで、若年失業率が高いのでしょうか。
「より良い実績(better records)」
目下の模範例はドイツでしょう。この国は先進国で2番目に若年失業率の低い国です。政府が適度に救いの手を差し伸べるのがドイツ流です。
たとえば、企業が長期失業者(long-term unemployed)を雇用した場合、最初の2年間は賃金の一部(portion of the wages)を政府が負担してくれるます。ちなみに、こうした施策は北欧諸国(the Nordic countries)に多いようです。
「多すぎる大卒者(the graduate glut)」
イギリスとアメリカでは、高い学費をかけて大学を卒業した多くの若者たちが、まともな仕事にありつけていません。また、北アフリカでは、大卒者(the graduate)が大卒者以外の人々(non-graduates)の2倍の確率で失業しています。
これまた皮肉なことに、付加価値を高めるはずの大学の学位(degrees)が、逆にその人の賃金を上昇させてしまうため、企業から敬遠されてしまっているのです。
「隔たり(the gap)」
確かなのは、教育の世界と仕事の世界の間に、なんらかの隔たり(gap)が存在するということです。
大学の世界が孤立してしまうほどに、その学位は就職にとってより意味のないものとなってしまいます。ゆえに重要なのは、その中身(its content)。それが隔たりを埋めるものであるかどうか、ということです。
「企業と学校の関係(relations between companies and schools)」
伝統を誇るドイツの徒弟制度(apprenticeships)。これは企業と学校の隔たりを埋めるものです。韓国のマイスター学校(meister schools)も、それを目的としたものであり、シンガポールの技術大学(technical colleges)もそうです。
企業と学校の関係を強化すること(forging closer)、それが若者の雇用にもつながっていくようです。
「実地訓練(on-the-job training)」
IBMやマクドナルドなどの企業は、若者への研修プログラム(training grogrammes)を刷新しています(revamping)。また、大学側もテクノロジーを提供することによって、そうしたトレーニングのコスト(the cost of training)を引き下げています(reducing)。
そうした協力は、実地訓練(on-the-job training)と学問的指導(academic instruction)を一体化させることにもつながり、それは徒弟たち(youngsters)にとっても大いに有益なことでしょう。
「希望を抱かせる理由(some reasons for hope)」
政府による、教育と労働市場のミスマッチを改善する取り組み。企業側の、若者に対する責任(responsibility)。そして、進化するテクノロジーによる民主化への寄与。
教育と訓練の革命(education-training revolution)は、もうすぐそこまで来ているのかもしれません…。
英語原文:
Work and the young: Generation jobless | The Economist